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地震

「ルチアこわい!」


 緊張した面持ちのジウロにルチアが飛びつく。

 だが揺れはそれほど長くは続かなかった。


「地震か。震度3くらいはありそうだったな」


 零慈としてはそれ程驚くような地震ではなかったが、ルチアとジウロの怖がり様は普通ではなかった。

 いや彼ら2人だけではない、村中で悲鳴や怒声が上がっている。


「? この程度の地震で随分大袈裟だな?」


 ようやく落ち着きを取り戻したジウロが尋ねる。


「地震とな? 先ほどの大地の揺れのことをれーじ殿は知っておるのか?」

「え? この辺、地震ないんですか?」


「大地が揺れるなど聞いたことがないわい。これは不吉の予兆なのかの?」


 地震がない? 

 確かに地域によっては地震はほとんど起こらない所もあるだろうが、聞いた事もないとはどういうことだろう?

 人類の科学力によって地震が無くなったということだろうか?


 だが少なくともこの地域では起きないはずの地震が今、起こった。

 それは零慈の脳裏にムスペルヘイムで聞いた話を思い起こさせるに十分だった。


「……不吉か。まさにその通りかもしれませんね。信じられないと思いますが、俺は1万年前の時代からやってきたらしいんです。理由はこの世界を救うためらしんですが」


 どう聞いてもうさんくさい話だ。

 だが、先ほど起きた地震が妙なリアリティを与えている。


「……世界を救うとな? しかし()()()()()()()()()()()()?」


「実は俺も良く分かっていないんですけど、どうやらユグドラシルシステムってのがこの世界を滅ぼすらしいんです」


 零慈の答えにジウロが深く考え込む。


「ユグドラシルシステムとはヴァルハラの力の総称の事じゃ。ワシらに力を与えてくれておる物がワシらを滅ぼすというのかね?」


 ジウロが疑問に思うのも尤もな事だ。


 そもそもユグドラシルシステムが本当に世界を滅ぼすつもりなら、何故、敵に当たる俺にまで力を与えたのだろう?


「……いや本当に俺も詳しいことは何も分からないんです。ムスペルヘイムの中でシステムを作ったという人がそう言っていたんですが、時間が無いやらで詳しいことは何も聞けなかったんですよね。ただ確実なのは、ここは俺がいた時代ではない事と、起きた事のない地震が起きたって事ですね」


 ジウロが長い顎鬚をせわしなく触りながら考え込んでいる。


「ワシら一族は長くヴァルハラを守護してきたが、かのような御仁にあったとは聞いたことがないの……やはり神人でないと会えぬということか。……それでれーじ殿は他のヴァルハラの場所を聞いておったのかね?」


 零慈は地蔵に刺さっていたカードを取り出してジウロに見せる。


「ええ。このカードをヴァルハラに持っていったら滅びを回避できるそうです。だからあと8つの場所が知りたかったんですが」


 ジウロが老いによって弛んだ目を真っ直ぐに零慈に向ける。


「ワシはヴァルハラの力がワシらを滅ぼすと言われても正直な所、信じられん。しかしれーじ殿の目を見れば嘘をついていない事が分かる程度には歳を重ねてきておる。そしてなによりそなたは神人じゃ。われらムスペル族は神人に仕えるために生み出されし者。悠久の時の流れた今もそれは変わっておらん。ゆえにワシらムスペル族はれーじ殿に協力いたそう」


 頼りになる知り合いなど居る筈もないないこの世界で、このジウロの申し出は零慈にとって何よりも心強かった。


「ありがとう。」


 ただ、とジウロが話を続ける。


「先ほども申した通り、ヴァルハラは各氏族が守護しており他の氏族がこれを犯すなら戦争になってしまうのじゃ。もちろん1人や2人が訪問する分には問題ないのじゃが、部族を挙げてれーじ殿に協力しておるのが分かってしまうと問題が起きるかもしれんのじゃ」


 どうやら氏族同士の縄張りみたいなものがあるらしい。


「ワシは見ての通り老いぼれじゃから、代わりにルチアを供に付けさせよう。この子1人ぐらいが同行しても問題はないはずじゃ。いかがじゃな?」


 ルチアをみると丸い瞳をきらきらさせている。


「気持ちは嬉しいんですけど、こんな小さな女の子を危険があるかもしれない旅に連れて行くのはまずくないですか?」


 ルチアが頬を膨らませてすねる。


「この子は確かに幼いがワシ以外に唯一、マイスターの力を持っておる。必ず役に立つはずじゃよ」

「ルチア、やくにたつもん」


 唯一? 


「あれ? ムスペル族は皆、マイスターになれるんじゃないんですか?」


「マイスターになれるのは長の血筋だけじゃ。この子の母親、つまりワシの娘もマイスターじゃったが行方知れずとなっておってな。現在、ムスペル族でマイスターなのはワシとルチアだけなのじゃ」


「なのじゃ」


 ルチアが嬉しそうに胸を張って復唱した。


 という事はムスペル族にとってマイスターはまさに氏族の要、万が一、ルチアがいなくなってしまえば一族が絶えるかもしれないという事だ。


 改めて零慈はジウロが下した決断の重さとありがたさを知った。


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