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ムスペル族

「これはなんの冗談だ?」


 ムスペルヘイムから歩く事、約30分。

 得体の知れない化け物に襲われる事も無く、零慈はルチアの村に到着していた。


 そこは森の木をそのまま利用して作られた村だった。

 高さ15メートルくらいの所にツリーハウスが作られていて、それぞれの家が渡り廊下の様な物で繋がっている。

 木の麓にも沢山の小屋があったが、どうやらそこは住居ではなく店舗になっているようだ。

 確かに珍しい造りだが、村そのものは零慈の予想の範囲内だった。


 むしろゲームなどではよくある、ありふれた村とすら言える。


 零慈が戦慄したのは村の作りではなく、そこの住人についてだった。


「なあルチア。お前の村では猫のコスプレがはやってるのか?」

「こすぷれ? ルチアわかんない」


 きょとんとして首を傾げるルチア。

 頭の猫耳が良く似合う可愛らしい仕草だ。

「お前はいい! 確かに似合ってる。それは認めよう。……だがアンタらは明らかにおかしいだろ!」


 突然、大声を上げて指を指して来る見慣れない訪問者に、村人が不安と警戒の入り混じった表情を浮かべ、頭に付いた猫耳をぴくぴくさせていた。


 そう、この村の住人は老若男女問わず、全員が猫耳と尻尾をつけていたのだ。


「れーじ、なにおこってるの?」


「怒ってない。俺が言いたいのはなんで全員が猫耳と尻尾を付けているかってことだ! ここは猫のテーマパークですか?」

「れーじ、たまにわからないこという。ルチアたちのみみとしっぽは、さいしょからはえてるよ」


「はい?」


 自分でもずいぶん間の抜けた声を出したものだと思う。


「ルチアたちはムスペルぞくだもん」

「……ということはなんだ、産まれたときから猫耳と尻尾があるのか?」


「そーだよ」


 ……ちょっと待てよ人類。


 1万年の間に進むべき方向を完全に見失ってないか? 


「だいじょうぶ? れーじ」


 人類の未来に軽く絶望した零慈を心配そうにルチアが見ている。

「ああ大丈夫だ。むしろ必ず帰ってやるという決意を新たにできたぜ。……とにかく長老の所へ連れて行ってくれ」


 ルチアが尻尾をぴょんぴょん跳ねさせながら嬉しそうに答えた。


「うん! こっちだよー」


 ルチアに手を引かれて村の中に進みながら零慈は幾つかの疑問について考えていた。


 (リチャード・……ハゲ? あのおっさんには猫耳が無かったよな。という事は人類は2種類に分かれているって事か? それにこの村、どう見てもさっきのピラミッドとは文明のレベルが違いすぎる。でもルチアが使った魔法みたいな奴の事もあるし。……とにかくこの世界についてもう少し情報を仕入れるのが先決だな)


 零慈の思考にルチアの底抜けに明るい声が割り込んできた。

「ここだよー。れーじ」


 そこには周りの店舗よりもかなり大きな建物が建っていた。

 見た目は歴史の教科書でみた、弥生時代辺りの高床式の建物に良く似ている。


 ただその建物には壁が無く、家と言うよりは巨大な東屋のようなたたずまいだった。

 その中心に草で編んで作られたクッションに寄りかかるように1人の老人が座っていた。


「ただいまー。じーちゃん!」


 そういってルチアが凄い勢いで走りこんで行き老人に抱きついた。


「ルチアのじいさんが長老なのか? まあ長老の孫娘っていう設定もありがちだけどな」


 零慈はゆっくりと階段を上がって老人に近づいていく。

 間近でみるルチアのおじいちゃんはなんと言うか、こう破壊力のあるキャラだった。


(まさか完全ハゲ+立派な顎鬚と猫耳が此処まで合わないとは!)


「おかえり。ルチア」 


 零慈の失礼極まりない感想にもちろん気づくわけも無く、猫耳老人は優しくルチアの頭をなでている。


「ルチア、おきゃくつれてきた! れーじだよ」


 その言葉に反応して老人が零慈に視線を向ける。

 猫耳がある以外はごく普通の、小柄で優しそうな老人だった。

 ただここに来るまでにすれ違った村人全員が小柄だったので、ここでは普通の身長なのかもしれない。


「ようこそ客人。ワシはムスペル族の長、ジウロと言う者じゃ。孫娘が迷惑をかけんかったかね?」

「こんにちは。迷惑なんて! むしろ命を助けてもらったぐらいで」


「そうかそうか。よくやったなルチア」

「むふーん」


 ほめられたルチアがジウロの膝元でまさに猫のように丸くなっている。


「れーじがね、じー、ちょうろうに、ききたいことがあるんだって」


(やっぱりこの人が長老か)


 再び零慈を見てジウロが口を開く。


「ほう。ワシで分かる事ならなんなりと。まあお座りなさい」


 勧められるままに腰を下ろしたが、結構硬い床だったので座り心地はあまりよくない。


「それで、何を聞きたいのじゃ?」


 そうだな、と零慈が思考をまとめる。


「ムスペルヘイムってのと同じ物が何処にあるか知っていますか?」


 ジウロの耳がぴくっと動いた。

神の御座(ヴァルハラ)の事じゃな。知っておるよ。ここより遥か北にアルフ族が守っておるアルフヘイムがある。しかしそんな事を知ってどうするつもりじゃね? 見たところれーじ殿はミズガルズ族のようじゃが?」


 また知らない言葉だ。


「ミズガルズ族?」


 おとなしく話を聞いていたルチアが会話に割り込んできた。


「ちがうよー。れーじはムスペルぞくだよ。だってルチアとおなじマイスターになったんだもん」


 ジウロが目を見開く。


「それは本当かね?」


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