謁見
部屋の中は体育館よりも少し広いぐらいだった。
真ん中に赤い絨毯がひかれていて、その両側にライオンの彫刻像が等間隔でならんでいる。
突き当たりの所に階段があり1メートルほど高くなっている所に古めかしい王座があった。
階段の周りには2,30人程の人が立ち並んでいる。
その中で王座に一番近い所にやたら太った若い男が立っていて、気持ちの悪いにやけた顔を浮かべている。
それらの人々全てを従えるかのように安置された王座には一人の男が座っていた。
年は50代くらいか、サリサと同じ色の金髪で、王冠がその頭に載せられている。
病的な程にやせ細っていて、目だけがやたらぎょろぎょろとしているのが、不健康そうなイメージをかもし出す原因になっていた。
正直、王というよりそこら辺の小役人といったほうがしっくりとくる。
手には巨大なダイヤか水晶が付いた金色の杓を持っていた。
サリサは迷うことなく絨毯の上を歩き、王の前まで進み出る。
「零慈、あなたはそのまま立ってて」
そう耳元で呟くと、サリサは膝を折り、頭を垂れた。
「サリサ・ヴァナ・神蔵、ただいま戻りました」
サリサの言う通りそのまま立ち続けているが、何とも例えようのないほどの居心地の悪さだ。
ルチアはどうしていいのか判らず、不安そうに零慈の背中に張り付いている。
サリサの報告を受けて王が口を開いた。
「よく戻った……と、言うとでも思ったのか?」
威厳を持たせようとしているのか不自然に作ったような声。
だが完全に失敗していて、ただの聞き取りにくい声になってしまっている。
「サリサ、お前は自分のした事をきちんと理解しておるのか? 我が息子、バルジとの婚礼の儀を放り出し一族に多大な迷惑をかけておるのだぞ」
その時、最前列にいたさっきのデブが変に甲高い声で言った。
「そうだよサリサ! 僕は君との結婚を楽しみにしていたのに!」
そう言って、サリサの全身を舐めるように見つめる。
かなり気持ちの悪いやつだ。
サリサはこんな男と結婚させられようとしていたのか。
「控えろバルジ。婚礼の儀については後ほど話し合う事とする。それよりも先ほどから気になっておるのだが、そこの男は何者だ? なぜ膝を折らぬ? ここが何処か、我が誰かわかっておらぬ虚け者なのか?」
サリサが顔を上げ、ここにいた全員に聞こえるようにはっきりと言い放った。
「王よ。この世界の誰といえどもこの方に膝を折らせる事など出来ませぬ」
「……どう言う事だ?」
「この方は神人。我らすべての主となるべきお方なのです。」
その言葉がこの場の空気を一変させた。
「神人!? そんなバカな」
「すでに絶えて久しいはずでは」
「冗談にしても性質が悪い」
すると王が玉座から立ち上がり周りを制した。
「サリサ。自分が何を言っているのか理解しておるのか?」
「十分に理解しております。私はこの方が実際にムスペルヘイムとアルフヘイムの力を使われる所をこの目ではっきりと見ました。間違いなくこの方は神人です。……そして光栄にも私を妻とすると言ってくださいました」
再び部屋中が騒然となる。
今回の騒ぎには零慈も参加していた。
「ちょ! え? そんな話あったっけ?」
サリサが鬼のような形相で睨み付けてきたので、部屋に入る前の約束事を思い出した。
何があっても話しを合わせる、だけどこれはいくらなんでも何かありすぎだろ。
「何を言っているんだサリサ! 君は僕のお嫁さんになるんだ!」
バルジが信じられないといった表情でみっともなくうろたえている。
「あなたとの婚約はあくまでも一族の血を保つため、それ以上の意味は無かったわ。薄れきった氏族の血と、純血の神人の血、どちらが我が氏族にとって価値があるか、考えるまでもないでしょ」
そんな、と呟きながらバルジが零慈を睨み付ける。
恐ろしいまでの殺意に満ちた視線だった。
思わず背筋が寒くなる
。
「サリサよ。これは一族の存亡に係わる事なのだぞ。お主を疑うわけではないが、この者が誑かしている事も考えられる。本当に神人であるか、我々で真偽を確かめなければならない」
王の言葉に癇癪を起こした子供のごとく、バルジがわめき散らす。
「パパ! そんな必要ないよ! 絶対にこいつは偽者だ! 今すぐ死刑にしよう。サリサは僕の物なんだー」
すると王が目をぎょろりと動かしバルジを見つめる。
「控えろと言ったはずだ。真偽を見極めた後、偽者だったならそちの好きなように処刑するがよい」
冗談じゃねえ、こんな奴に殺されるなんて死んでも死に切れない。
俺、本当に神人なんだよな?
間違いでした、じゃ洒落にならないぞ。
「ならばこの方をヴァルハラへお連れしましょう。真の神人の証として、この方はヴァルハラと話し、神蔵の力を授かります。それではっきりとお分かりいただけるでしょう」
うむ、と王が頷いた。
「では明日、ヴァルハラへと赴く事にいたす。今晩はそれに備え、身を清めるがよかろう」
そう宣言すると王は立ち上がり、護衛の兵士を引き連れて謁見の間から出て行った。
王座の周りを取り巻いていた人達もなにやら小声で話をしながら解散していく。
その中でバルジだけは、憎しみの篭った目で零慈をにらみ続けていた。




