到着
まるで檻の柵のように聳え立つ巨大な柱は全部で12本あった。
一本の高さは軽く300メートルはある。
それが均等に円を描いて並んでいる。
柱の幅は50メートルぐらいか。
柱よりも壁と言ったほうがいいかも知れない。
その円の中心にヴァルハラがあった。
ただ、今まで見たヴァルハラと形状が少し違う。
四角錘なのは同じだが、四隅にそれぞれ3分の1くらいの同じような四角錘が付いていて、雪の結晶に似た形になっていた。
「なんか形が違うな」
柱と柱の間を目指して気球を操りながら零慈が呟く。
「ミズガルズは最初のヴァルハラだからよ。後の8つはここのコピーに過ぎないの」
なるほど、これがプロトタイプで他のは量産型ってとこか。
「へえ。じゃ最初に造ったのは日本人だったのかな」
「ニホンジン? その言葉は知らないけど、ここにあるのが最初のヴァルハラ、始まりの地と呼ばれているのは間違いないわよ」
「いえがいっぱいあるよー」
ルチアが荷物を足台に身を乗り出している。
今にも落ちそうでハラハラするが、猫並みのバランス感覚を持っているルチアにとっては造作もない事みたいだ。
ルチアほどの視力を持ち合わせていないため、しばらく分からなかったが、近づいていくと確かにヴァルハラを囲むように建物が立ち並んでいた。
「ヨルムンガンドと呼ばれる12本の柱に守護され、頂にヴァルハラを擁する、あれがトーキョウ、私の大好きだった街よ」
サリサが懐かしむような、憎しみを抱くような複雑な表情になる。
トーキョウの事を過去形で話している事に零慈は気づいたが、あえて言及せずサリサから目を離し街に目を向ける。
その街はまるで四段重ねのウエディングケーキのような造りになっていた。
ヴァルハラが一番高い所にあり、そこからそれぞれの段に建物が建っている。
「随分変わった造りの街だな」
「そうかしら? 下から平民街、貴族街、王宮、ヴァルハラって造りになっているの」
「身分制度があるのか?」
「一応はね。でも先王、つまり私の父は身分の差なんて気にしない人だったから氏族全員が家族のように仲が良かったのよ」
「先王? じゃ今はサリサのお父さんが王じゃないのか?」
サリサの顔があからさまに曇る。
「父は死んだわ。今の王は父の弟、私の叔父さんなの。叔父さんはちょっと権威主義的なところがあって、身分の違いをはっきりとさせる政策を取ったの。だから今は昔みたいに和気藹々とした雰囲気はなくなってしまったわ」
それがサリサが家出した原因なのだろうか?
昔を思い出しているのか、切なそうな顔を浮かべているサリサを横目で見ながら気球を操りトーキョウへと近づけて行く。
サリサがどんな事情を抱えているかは分からない。
なにも出来ないかもしれない。
できる事といえば、せいぜい風を起こすか火の玉を撃つぐらいだ。
だけど、こんな寂しそうな顔をしている女の子を放っておく事など出来ない。
サリサがこの先なにか助けを求めてきたら持てる力の限りを尽くして助けよう、そう零慈は静かに心の中で誓った。
「あそこ、正面に丸い広場があるの見える?」
サリサが指差した方を見ると、王宮の段の所に街の形を模したのだろうか、柱が円状に配置された広場があった。
「あそこに着陸しましょう」
すっかり気球の操作には慣れたとはいえ、正確な着地点を決めて着陸した事はなかったので、慎重に気球を操り、サリサが指定した広場へと近づけて行く。
ヨルムンガンドの隙間を抜けると、はっきりと街の様子が見えてきた。
平民街と貴族街では人だかりが生まれ始めていて、沢山の人がこちらを指差している。
「なんかすげえ注目されてないか?」
「そりゃ、こんな物が空から降りてきたら誰だって大騒ぎするわよ」
「わーい! ルチアだよー」
ルチアが嬉しそうに手を振っている。
やがて気球は平民街の上を通過し、そのまま貴族街も抜けてサリサの指定した広場へとソフトランディングした。




