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トーキョウ

 翌朝、一同は再び食堂に集まった。


 冬の朝日独特の儚げな光に照らし出されたテーブルの上には、既に暖かな朝食が用意されている。

 今回は零慈の席がルチアの横に用意されていた。

 レスターはレスターなりに一応評価してくれているみたいだ。


 サリサはというと、いつもと全く変わらなかった。


 昨晩、変に意識して勝手にドキドキしていたのがちょっと恥ずかしい。

 考えてみればそんな恋愛マンガみたいな展開にそうそうなるわけが無い。

 小恥ずかしい記憶を掻き消そうと朝食を口に運ぶ。


 今回の食事も肉類は一切入っていなかった。


 アルフ族はベジタリアンなのかもしれない。

 全員の胃袋が満たされると、自然と話題が昨日の事に向けられる。


「結局、新しく分かったのは期限が1年もないって事だけか」


 食後のお茶を飲んでいたサリサがカップをテーブルに置いて答える。


「1年か……、短いような長いような期限ね……」

「零慈、我がアルフヘイムで何箇所回った事になるのだ?」


 こちらも優雅にカップでお茶を飲んでいる。

 絵になりすぎてなんかむかつく。


「まだ、2箇所だ」


「あと7箇所か……。あまり猶予は無いな。次は何処に行くのだ?」

「実は決まっていないんだ。というか何処に行けばいいのかすらわからねえ」


 レスターが思い出すように目をつぶる。


「ここからだとニヴル族のニヴルヘイム、ニダ族のニダヴェリール、ミズガルズ族のミズガルズが大体同じほどの距離にある。まあサリサ姫も同行している事だし、ミズガルズを目指すのが順当ではないか?」


 確かにそれが一番助かるのだが、サリサは同行してくれないだろう。


 既に2回アプローチして断られている。

 この家出王女はなにか事情を抱えているみたいだから説得しても無駄そうだし。


「ミズガルズに行く事自体は問題ないんだけど、サリサは……」


 ここでサリサが零慈の言葉を遮り、意外な言葉を発した。


「そうね、一緒にミズガルズへ行きましょう」


 零慈の目が点になった。


「は? サリサも行くの?」

「なにか問題が? ミズガルズ族の私が案内する、とても自然な事じゃない」


 いや、まあ確かにそうなんだけど家出は? と軽く頭が混乱する。


「それは助かるけど……。いいのか? 家出中なんだろ?」

「い、家出? なんの事かしら?」


 世界の滅びの話を聞いて、家出どころじゃないと思ったのかと考えたが、どうもサリサの様子がおかしい。

「……なあサリサ。死んでも帰らないとか言ってたよな? どういう心境の変化なんだ?」


 零慈の追求を受けて、明らかにサリサの目が泳ぎ出す。


「へ、変化って。やーね零慈。なに言い出すのよ。……そう! 世界が滅びるかもしれないのよ!? ちっちゃな事に拘ってる場合じゃないのよ! うん、そう!」


 あからさまに何かを誤魔化しているサリサに零慈だけでなくレスターとルチアもじーっと視線を送る。


「ああもうっ! 案内してあげるって言ってるんだから、ありがたく案内されなさいよ!」


 サリサの心変わりの原因は気になるが、実際、王族のサリサが手引きしてくれるというのだからこれ以上心強い事はない。


「なんだか良く分からないけど、サリサが案内してくれるなら確かに助かるぜ」


 そうでしょう、そうでしょうとサリサが頷いている。


「サリサ姫が一緒ならすんなりヴァルハラに入れてもらえるだろう」


 レスターが給仕をしている女性にお茶のおかわりを頼みつつ、耳元でなにか囁いている。

 どうせまた口説いているのだろう。


「でも問題はどうやってトーキョウに行くかって事ね」


「東京!? この時代にも東京があるのか?」

「ちょっとイントネーションが違うけどトーキョウは私たちミズガルズ族の都よ」


 そう言えば今まであまり考えなかったが、今が1万年後の世界だとしても地理はそれほど変わっていないはずである。

 サリサが言うトーキョウが東京と同じ位置に存在するとなると、今いるここはどこら辺りになるのだろう?

 最初にいたアプラ周辺が常夏という話だったのであのあたりは恐らく赤道付近か?

 そこからかなり北上して近くに東京があるという事はこの辺りは中国なのかもしれない。


 まあ現在地が分かったからと言ってどういう事も無いのだが、自分のいた時代の地理で現在地を確認するとなんとなく安心できる。


「なあ、そのトーキョウって海を渡らないと行けなかったりする?」

「ええ、大きな島の中にあるからね」


 やっぱり東京のようだ。


「すげーな。1万年後もちゃんとあるんだ。さすが首都」

「零慈、トーキョウは知っているのね」


 かなり意外そうにサリサが尋ねてきた。


「まあ俺が知っているのは1万年前の東京だけどな。でもなんで問題なんだ? サリサはどうやってここまで来たんだ?」


「ランドールよ」

「だったらランドールで行けば……」


 もしかしたらランドールってあの墜落したのが1機しかなかったのか?


「零慈も見たでしょ。ランドールはしばらく使えないわ」


「ランドールってあの1機しかないの?」

「そんな事ないけど、路線の問題ね。トーキョウに行くにはこのアルフレリアを経由するルートしかないの。トーキョウで折り返しになるから、路線が無事でもランドールが無いわ。あの様子だと復旧までどれくらい掛かるか、そもそも復旧できるのかすら疑問ね」


「ちょっと待ってくれ!? ランドールが使えないとはどういう事だ?」


 お茶のおかわりを持ってきた女性を再び口説いていたレスターが血相を変えた。


「森の中で墜落したわよ。当分使い物にならないでしょうね」

「なんという事だ! 再建計画を根本から見直さなければならないじゃないか」


 そういえばランドールには交易用もあると言っていたな。

 再建に使用する資材などを運んでもらう予定だったのだろう。


 心情的にはなにか手伝いたい所だが、そんな力はないし何より零慈にはやらなくてはならない事がある。


「ランドール以外でトーキョウに行く方法は無いのか?」


 サリサが頭をひねる。


「……そうね、海辺の町から船を出してもらうとか。……いずれにしてもかなり時間がかかるわね」


 猶予は1年あるとはいえ、あと7つ回らなければならないのだ。

 あまり時間をかけている余裕は無い。


「なにか他にないのか? 例えば空を飛んでいくとか……」

「鳥じゃあるまいし」


 サリサが呆れたように返事してきた。

 どうもこの世界には飛行機が存在しないらしい。


「空を飛んでいくか……。できない事もないぞ」


 全員の目がレスターに向けられる。


「我が一族に伝わる神人の遺産がある。ちょっと付いてこい」


 そう言うとレスターが立ち上がって、食堂の出口に向かっていった。

 慌てて零慈とサリサも立ち上がる。

 ルチアだけは恨めしそうに朝食を見つめていた。


 随分静かだなとは思っていたが、どうやらずっと食べていたらしい。


「ルチアは残って食べててもいいよ」


 ちょっと悩んでいたが、すぐにルチアも立ち上がった。


「ううん。ルチアもいくー」


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