アルフヘイム
姿を現した入り口をくぐって中に入ると予想通りムスペルヘイムと同じ廊下が続いていた。
相変わらず謎多き素材で作られていて全体がうっすらと発光している。
そして一番奥までくると見たことのある扉が現れた。
ムスペルヘイムと同じく、レスターが手をかざすと扉が3つに分かれて開く。
内部もムスペルヘイムと全く同じで、中心に白く光る球体が浮かんでいる。
3人が見守る中、零慈が球体に手を伸ばし、そして触れる。
『ようこそユグドラシシステムへ。当ユニットは認識番号005、アルフヘイムです』
アナウンスのあと零慈はカードを取り出し、球体にかざす。
待っていましたと言わんばかりにカードが激しく発光し、球体も点滅を繰り返し始めた。
『強制介入プログラムの信号を受信。ユグドラシルシステムへのアクセス停止。これよりアルフヘイムはスタンドアローンにて再起動します』
そして部屋は闇に包まれる。
「おい! 貴様、壊したんじゃないだろうな!?」
「大丈夫だって。落ち着けよ」
零慈の言葉が終わるのを待っていたかのように、再び球体に淡い青色の光が宿る。
『アルフヘイムは不正なプログラムを発見しました。これより自己修復プログラムによる……削除……を……カ……カ……』
「おい! おっさん! 出てこいよ。出ないと残りの髪の毛も毟るぞ」
その声に反応したのかは定かではないが、白衣の男のホログラムが浮かび上がる。
「おっさんではない。リチャード・如月だと言ったろう。しかし最近の若者はひどい事を平気で言うな、ん? 実際は私のほうが遥かに年下になるのか。これは面白い」
初めて見る2人にはリチャードの言葉など全く耳に入っていない様子だ。
「こ、こんな事があるなど……」
「ちょっと、体透けてるわよ? どうなってるのこれ?」
「あしがないおじちゃん、ここにもいるんだー」
三者三様のリアクションを取っている。
「ほう、随分仲間が増えているみたいじゃないか」
「いや仲間というか……ぐふぇ!」
リチャードと会話し始めた零慈をレスターが押しのける。
「私はこのアルフヘイムの守護者、レスター・クルーズと申します。お尋ねしたい。あなたは神人なのですか?」
リチャードが怪訝そうな表情を浮かべる。
「神人? ……なるほど、我々はそう呼ばれるようになるのか。確かに我々が君達セカンドヒューマノイドを創ったと言う意味では神と言えるな。もっとも自らの滅びさえ回避できない安っぽい神だがね」
「ねえ、世界が滅びるってどういう意味なの?」
サリサが会話に割って入る。
「サリサ姫、いくら君が美しいお嬢様と言えども、ここは私の守護地で私が話しているのだ。先に私が話す」
「なによ、相変わらずちっさい男ね。私だって色々聞きたいことがあるのよ。次は私が質問する番よ」
「ルチアねむくなってきたー」
2人の言い争いで結局話が進まず、時間だけが無駄に流れていく。
そうしている間にリチャードが聞きたくない台詞を口にした。
「まずいぞ。ここの修復プログラムにも発見されてしまった」
(冗談じゃない! 俺だって聞きたいことは山ほどあるんだ!)
あせった零慈が部屋一杯に響く大声で叫んだ。
「世界の滅びまでどれくらい時間が残ってるんだ!?」
リチャードが真剣な顔つきになる。
「恐らく1年も無い。出来るだけ急いでくれ」
そう言い残してリチャードのホログラムは消えた。
『不正なプログラムの削除を確認。これよりムスペルヘイムはユグドラシルシステムにアクセスします』
再び球体が虹色に輝き、とりあえず零慈はそのまま登録を済ませた。
綺麗に瓦礫が吹き飛ばされた入り口から、とぼとぼと一行が姿を現した。
「お前らのせいで結局、ほとんど何も聞けなかったじゃないか……」
責任を感じているのか、レスターとサリサが肩を落として歩いている。
「すまない」
「ごめん……。でもこれで零慈の言っている事が嘘じゃないって事は良く分かったわ」
レスターがうめくように呟く。
「あと1年も無いと言っていたな」
「滅びるって言っても、どう滅びるのかしら?」
「さあな、ユグドラシルシステムが暴走するのか、故障したのか……」
神人の力は持っていても、知識はない零慈には答えようのない質問だ。
「今日はもう遅い。部屋を用意するからゆっくり休んでくれ。この問題については明日、また話し合うとしよう」
そう言ってレスターが階段を上り始めた。
地下にずっといたので気付かなかったが、外はもうすっかり暗くなっていた。




