瓦礫
階段を降りきり眼前に広がっていたのは美しい光景だった。
一番奥に初めて見たヴァルハラと同じ素材で出来た壁が一面に広がっている。
ムスペルヘイムの入り口とは違い、ここは後から作られた石造りの建物に完全に覆われて巨大な密室空間となっていた。
ヴァルハラの壁までここから100メートル程の距離が開いていて、そこには蒼く光る水が満ちていていわゆる水堀となっている。
そしてヴァルハラの入り口まで幅5メートル程の大理石で出来た橋が架かっていた。
その橋の両側にはギリシャの神殿などにありそうな美しく造形された円柱が等間隔で並んでいる。
「ここはヴァルハラの基部、都の最深部になる」
そう言ってレスターがヴァルハラの入り口を指差した。
「あそこを見てくれ」
3人の視線が集まる。
「あ!」
3人の声が重なる。
「あれじゃはいれないよー」
ルチアが残念そうに言った。
ヴァルハラの入り口は塞がっていた。
地震のせいだろう、天井が崩れその瓦礫が完全に蓋をしてしまっている。
とりあえず入り口まで来てよく見てみたが、とても人が入れる隙間などない。
「いずれはここも修復するが、まずは城壁と民の家の修理が先だ。どんなに急いでも半年はかかる」
「……半年。くそう、目の前にヴァルハラがあるのに!」
だが先ほどの戦闘の事を思い返すと、確かに城壁の修理が優先されるのは当然だ。
「ねえ、これって中の通路まで完全に埋まってるの?」
サリサが瓦礫の周りをぐるぐる回りながら尋ねた。
「いや、通路は無事だ。そこに少し隙間があるだろう? そこから中がみえる」
サリサが辺りを見回すと確かに人の頭一つ分ほどの隙間があった。
「あーホントだ。……ねえ、これって私の『アハトアハト』でふっ飛ばせばいいんじゃないかしら?」
隙間から突っ込んでいた頭を出したサリサが提案した。
「いや、ここだと正面からしか撃てないだろ? 瓦礫を奥に押し込むだけになるんじゃないかな?」
零慈が周りを見渡しながら答える。
「そうね。横から撃てればいいけど、場所がないわねー」
サリサの言った通り、橋の両側はそれぞれの壁まで水に浸かっている。
「通路の中に出現させて……、でもそれじゃ引き金が引けないわね……」
その言葉に零慈が閃いた。
「それだ! 中からふっ飛ばせばいけるんじゃないか? サリサ、手榴弾とかダイナマイトとか出せないのか?」
「しゅりゅうだん? だいなまいと? 知らないわ。……私の力は知ってる物しか出せないの」
アハトアハトを知っていてダイナマイトを知らないとは、随分偏った知識だなと思ったが出せないものは仕方ない。
「そういえば、零慈。あんたホントに神人なら私の力も使えるはずよね? だったら零慈が知っている物なら出せるんじゃないの?」
「言われて見れば……。よしやってみよう」
「オプションはアーカイブスよ。そして出したいものをイメージして名前を呼ぶの」
「分かった」
そう言って零慈は深く深呼吸して力ある言葉を詠唱する。
「コネクション。登録者名、日輪零慈」
『マイスター日輪零慈を確認』
零慈の体が薄い光に包まれる。
「展開。オプション選択、アーカイブス」
『警告。このオプションを選択する権限が確認できませんでした。該当するユニットにて登録を行ってください』
「ありゃ?」
「どうしたの?」
ばつが悪そうに零慈が結果を報告する。
「どうやら登録したヴァルハラの力じゃないと使えないみたいだ……」
「そう、……案外神人も不便ね。しかしそれじゃ打つ手なしねー」
サリサが残念そうに首を振っている。
(中から爆弾を使わずに爆発を起こさせる方法か……。なんかどこかで聞いた事があるような……。あ!)
ここであることを零慈が思いついた。
落石で埋まっているヴァルハラの入り口を良く見ると、予想通りヴァルハラの壁には傷一つついていない。
これなら少々の爆発が起きても壊れる事はないだろう。
(いけそうだな)
「ちょっと思いついた事があるんだ。レスター、小麦粉とかってあるか?」
いきなり話を振られたレスターが戸間遠いながら答える。
「なんだそれは?」
「さっきの食事でパンがあったろ。あれを作る時の粉だよ」
「ああ、あれか。あれは米を砕いて作った粉だ」
「それでいいや。そうだな……3袋程それもらえないか?」
「あんな物でなにをするのだ?」
「いいからいいから。説明するより見たほうが早いよ」
あまり納得はいっていないようだがレスターがマイスターの力を解放して、なにか小言で呟いた。
3人の不思議そうな視線に気が付いたレスターが説明を始める。
「今、風に私のメッセージを運ばせた。すぐに持ってくるだろう」
「へー便利だな」
「全く、この私が男の頼み事を聞くなど100年に一度あるかどうかなのだぞ」
「……大災害レベルかよ。つか寿命どんくらいあるんだよ」




