ばれる
だが2匹目を倒してほっとする間もなく、仲間の死骸を足台にして3匹目のスライムベアが城壁の上に登り、そのまま触手をゴムのように器用に使って空中へ飛び出した。
スライムベアが目指す着地点には地震の倒壊を免れた家が立ち並んでいる。
「やらせはせん!」
レスターとアルフ族のマイスター達全員が放った風が、空中でスライムベアを捕らえる。
風に纏わり憑かれたスライムベアの落下速度が一気に遅くなる。
「頼む! あまり長くは持たんっ!」
マイスター達の額から脂汗が吹き出している。
「零慈! こっちのハンドルを回して! ……そうオーケーよ」
向きと角度が調整されたアハトアハトの砲口がスライムベアに向けられた。
「『リロード』! 発射!」
耳を劈くような音と共に砲口が火を噴き、スライムベアの表面に花が咲くかのように穴が現れる。
「ルチア! 仕上げよろしく」
「にゃん! 速射開始!」
ルチアから放たれた光の弾がスライムベアの体内に連続して突き刺さり、その肉を容赦なくただの炭素の塊に変えてゆく。
中身を失ったスライムベアのゼラチン層が空中で崩壊して、民家に降り注いでいった。
掃除が大変そうだが、家が押しつぶされる事に比べれば些細な事だ。
「ふにゅー。ルチアつかれたー」
耳と尻尾と共に、ルチア自身もへなへなと地面に座り込む。
マイスターとしては全く役に立たなかったが、なんとか足手まといにはならなくて済んだ事と街に被害が出なかった事にほっと胸を撫で下ろす零慈。
「ありがとう。可愛いお嬢さん。サリサ姫の協力にも心から感謝する」
零慈に対する謝辞は無かった。
まあ元より期待していなかったが。
周囲の人達からも歓声と感謝の言葉が沸き起こる。
ちなみに彼らの感謝の言葉は零慈にも向けられていた。
どうやらアルフ族全体がレスターと同じ性癖という訳ではないようだ。
一族全体がレスターと同じ、という最悪のパターンはなんとか回避できたようだ。
当のレスターは瓦礫と化した城壁に近づき、外の様子を確認していた。
「ふむ。どうやら襲ってきたスライムベアは全て倒したようだな」
その時、戦闘でさらに脆くなった城壁の石で出来たブロックの一つが、下にいるレスター目掛けて崩れ落ちそうになっている光景が零慈の目に飛び込んできた。
レスターは全く気付いていない。
「あぶない!」
マイスターの力は解放したままだ。
瓦礫に視線を合わせると、三つの数字が浮かび上がる。
(間にあうか!?)
「座標45、15、2、座標固定、速射開始!」
事態に気づいた人々の悲鳴を切り裂くように炎弾が飛び、レスター目掛けて落下を始めたブロックに次々と着弾する。
さすがに巨大な石のブロックを粉砕するには至らなかったが、落下軌道をずらされたブロックはそのまま、外の川に落ち盛大な水飛沫を上げ川底に沈んでいった。
「よしっ! ぎりぎりセーフだぜ」
心地良い疲労感と共にほっと胸を撫で下ろす零慈。
「ん?」
気が付くと、そこにいた全員の目が零慈に向けられていた。
どの顔も一様に驚愕の表情を浮かべ、声を失っている。
突然生まれた沈黙を破ったのは、少し上ずったサリサの声だった。
「零慈……、あなた一体……」
この世界には神人がもう居ない。
マイスターの力が使えるのはその守護する氏族だけ。
そんな世界の常識が今、目の前で打ち砕かれたのだ。
そりゃ、言葉を失うってものだ。
「ええと……あの……実は俺、神人なんだ」
ちょっと恥ずかしそうに、後頭部に手をやりながら零慈が告白する。
その言葉にサリサが息を呑む。
「うそっ」
周囲も一気にざわつきだした。
「神人だって? そんなバカな」
「生き残りがいるなんて聞いた事ねえぞ」
「でもあの少年が使ったのは確かにムスペル族の力だったぞ?」
ざわつく人々に城壁から戻ってきたレスターが一喝した。
「騒ぐな。マイスターは二人一組で監視を続けろ。今まで通り城壁の修復を最優先する。すぐに作業にかかれ」
レスターの指示で人々がそれぞれ動き出す。
だがその表情には戸惑いの色が色濃く残っていた。
零慈の前までやって来たレスターが口を開こうとした瞬間、ルチアのお腹が大きな音で鳴いた。
「ルチアおなかへった……」
今にも死にそうな目でこちらを見ている。
「いかん! 話は後だ! この可愛らしいお嬢さんが餓えて死んでしまう事などあってはならん! とりあえず屋敷に向かうぞ!」
「ちょっと待て。そういうキャラだってのは十分、分かったけど今問題にするのはそれじゃねえだろ!? 」
「零慈、とりあえずレスターの言う通り屋敷に戻りましょう。あなたには色々聞きたい事があるけど立ち話ですむような物じゃないんでしょ?」
サリサの冷静な声が耳に飛び込んできた。
いや冷静と言うよりも、すこし怒っているように聞こえる。
神人だった事を隠していたのがやはり気に入らなかったのか?
まずい、サリサを怒らすと、とても怖い。
「そ、そうだな。おーい、ルチア。さっきの所に戻るぞ。あの様子だと間違いなくお前にはご飯が出るぞ」
今までへたっていたのが嘘のようにルチアが飛び起き、満面の笑みで走り寄って来た。
こいつ、悩みなんてなんにもないんだろうな、と嬉しそうに纏わりついてくる猫耳少女がちょっとうらやましかった。




