ピラミッド
予想していたよりも遥かに長距離の移動になった。
相変わらず嬉しそうに先導している猫耳少女についてゆきながら、零慈はポケットに入っていたスマホを取り出す。
先ほども確認したが、やはり思いっきり圏外だった。
これに関しては初めから期待していなかったのでがっかりもしなかったが、時間を計るという面では問題なく使う事が出来る。
表示はちょうど12時。
歩き出してから1時間以上経過していた。
「なあ。どこまで行くんだ?」
「$“#$%%$」
そう言って少女は前方を指差した。
これまでのコミニュケイション実験の結果判明した事だが、どうやら少女は零慈の話している事が分かるみたいだ。
しかし相変わらず零慈は少女の言葉が全く分からない。
不公平だ。
そんな事をとりとめもなく考えながら、少女の指差した方を見る。
どうやらここは小高い丘のようで、疎らになった木々の隙間から前方の景色を見渡す事が出来る。
そしてそれが見えた。
見た目はまさにピラミッドだった。
ガラスか水晶で出来ているのか、太陽の光を受けて幻想的に光輝いている。
ここからだとまだ距離があるので正確なサイズは分からないが、かなり大きい。
「なんだよあれ。見たことも聞いた事もないぞ。……つーか、薄々そんな気はしてたんだけどここ、日本どころか地球ですらないんじゃ……」
さっきのサーベルタイガーモドキの時点で十分その可能性があったのだが、遺伝子操作的な何かで作れなくもないかも、と半ば強引に納得させていたがこれは駄目だ。
20世紀後半に入ってから宇宙に節操なく打ち上げられた人工衛星によって、地球は隅から隅まで丸裸にされた。
今や地中に埋まっている物すら見つけることが出来る。
そんな状況でこのピラミッドは堂々とその姿を空に晒している。
森の木に埋もれてすらいない。
そんな状況でこんな物が未発見で居られる訳がない。
それはつまりここが少なくとも零慈の知っている地球ではないという事だ。
「勘弁してくれよ……」
ピラミッドを見て落胆している零慈を少し心配そうに見つめながらも、少女は零慈の手を取ってぐいぐいと引っ張り、零慈を更なる衝撃へと導いていった。
「何で出来てんだこれ?」
ピラミッドの麓に到着した零慈はそう言いながら壁に手を当ててみる。
ひんやりとしているようで冷たくも無い、不思議な手触り。
本物のピラミッドは階段状に石が積み上げられているが、このピラミッドは正真正銘の四角錘だった。
繋ぎ目などはなく綺麗な一枚の面となっていて、四分の一ぐらいの高さまで蔦系の植物に覆われている。
大きさは東京ドームを二回りほど大きくしたぐらいか。
その材質は不思議な物だった。
光を反射して輝いているが、顔を近づけても全く映りこまない。
透明のようだが、中は透けて見えない。
見たこともない材質だった。
「ワケワカンネ%$#$“!”#$」
壁を凝視している内に先に進んでいた少女が、何かを叫んで手を振っている。
「来いって事かな?」
少女のいた所だけ他とは様子が違っていた。
今まで傷一つなかった表面が割れて大きな穴が開いている。
零慈が来た事を確認した少女が嬉しそうに中へ入っていった。
あまり気が進まなかったが仕方なく中へ入る。
中は人が三人ほど並んで歩けるぐらいの幅の通路となっていた。
壁全体がほのかに発光して通路を照らしている。
しばらく進むと扉があり、少女が手をかざすと3つに割れて開いた。
中は学校の教室くらいの大きさの丸い部屋。
中心部に直径1メートルぐらいの球体が浮かんでいてほのかに白く光っている。
少女に球体の傍まで連れて行かれ、無理やり手を触れさせられる。
その瞬間、球体の表面が虹色に波打ち、女性の声が響いた。
『ようこそユグドラシルシステムへ。当ユニットは認識番号004、ムスペルへイムです』
「おおぅ? 喋った!? ていうか、また日本語だ……」
その時、零慈のズボンのポケットが光輝きだした。
「なんだなんだ!?」
慌ててポケットの中を探ると硬い感触がある。
恐る恐る取り出すと、それは光を放つ一枚のカードだった。
「このカードって確か……」
零慈の頭の中で前日の記憶が再生され始めた。




