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始まりは突然に

 それは気持ちのいい目覚めだった。

 目覚まし時計や誰かに起こされるのではなく、自然と目覚めるあれだ。

 目を覚ました場所は、もちろんいつものベッド。

 かれこれ10年以上の付き合いになる。


 ここまでは普通だ。


 これ以上ないくらい平凡で普通だったのだが。

 なぜか日輪零慈(ひのわれいじ)を優しく包み込んでくれているベッドは()()()()()()()()()()()()()


「おはようございます! って、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 軽く混乱していた。

 無理もない。


 どう見ても森だった。


 しかも零慈が今まで見たことのない、どちらかというと南国をイメージさせるデザインの木々に覆われている。

 森というより原生林、いやジャングルといったほうがぴったりだ。

 大人の胴回りの軽く四、五倍くらいはありそうな巨木が立ち並び、空は覆い茂った枝や葉でほとんど見えない。


 その中に何かの冗談のようにベッドがポツンと置かれている。


「これはいわゆるアレか、夢のなかで目覚めたという奴か?」


 そう言って零慈は自分のほほを思いっきりつねった。


 痛い。


 これまで零慈はこの確認方法を馬鹿にしていた。

 所詮、こんな方法はマンガやアニメの中だけの話であってリアルにするバカなんていないだろうと。


 ここにいた。

 今まで馬鹿にして本当に御免なさい。


 だが今、本当に問題にすべきなのは痛かったという事だ。

「……夢じゃないのか。まじかよ。ていうかここ何処だよ。もしかしてゲームの中なのか?」


 零慈は昨日遅くまでやっていたゲームの事を思い出していた。

 確かにこんな密林の中でモンスターを狩るゲームだったので設定は合っている。


「しかしいきなり狩場に放り出されるって。普通は町か村からスタートだろ。それに……」


 零慈は自分の着ている服を見てみる。

 疲れ果てるまでゲームをしてそのまま寝たので服は半袖のシャツとスラックスという、高校の制服のままだった。

「何処の世界に制服で狩りに出かける奴がいるんだよ。ラ○ポスにも負けるわっ」


 だがこのままベッドの上でぐちぐち言っていても始まらないので思い切ってベッドから降りて地面に立ってみることにする。

 降り積もった落ち葉によってコーティングされた地面は、まるで高級な絨毯のようにふかふかだった。

 そのまま一番近くにあった木に近づきそっと触れてみる。


「いくらなんでもリアルすぎる。こんなゲーム、さすがのカプ○ンでも作れねーだろ」


 いや、もしかしてこれが噂のフルダイブVRって奴なのか?

 だがここで零慈はさらなる違和感を覚えた。


「……なんでこんなに静かなんだ? 行った事ねえけどジャングルって普通は猿とかいろんな動物の鳴き声とかがしてるもんじゃ? やっぱりここはゲームの中で音量設定が……」


 その時、まるで零慈の疑問を解消するかのように、動物の鳴き声が森中に響き渡った。

 これまでに聞いた事のない鳴き声、というか咆哮だった。


 明らかに草食系の動物ではなく肉食の猛獣といわれる連中があげそうな咆哮だ。


「ちょっと待て。明らかに色々おかしいだろ!」


 周りを見渡してみるが武器になりそうなものは片手剣どころかカッターすらない。

 零慈は周りを警戒しつつ、ベッドに向かって後ずさりを始める。


 もう信じられるものは見慣れたベッドしかない。


 だがもうすぐベッドという所で、木々の間から黒い影が零慈目掛けて飛び出してきた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ! 来るな! 食べるな! 討伐しないで!」


 恐ろしさのあまり目をつぶってしまったが、一向に食べられる気配がない。

 恐る恐る目を開けると、そこにいたのは猛獣ではなく、ベッドの上に猫のようにチョコンと座っている女の子だった。


 歳の頃は8才くらいか。

 陽に焼けたのか元々なのか健康的な小麦色の肌に、くるくるとよく動く大きな目をした可愛らしい女の子だった。


 何かの動物の毛の様な物で作られたタンクトップ風の寸足らずの上着と、同じ素材で作られたスカート(腰みの?)を身に着けている。

 そしてなぜか頭には猫耳が、さらに尻尾のアクセサリーまで付けられていた。


「#$$&%&%‘’%$」


 少女が口を開いたが、出てきたのは訳の分からない言葉だった。


「はあ?」

「&$##%$#“”“#%$$%#$%?」


「わけわかんねー」


 少女の目がくるくるっと可愛らしく動く。


「つーかその猫耳よく出来てんなー。表情に合わせて動いてるじゃん」


 その時、少女の目が零慈の後ろをみて大きく見開かれた。

 振り返るまでもなく、零慈もその理由が何であるのか解った。


 明らかに目の前の少女でもなく、ましてや自分でもない、大きな動物が上げるような深い呼吸音。

 次の瞬間、少女が零慈の腕を取って走り始めた。


 少女に引っ張られながら、どうしても我慢が出来なくなり後ろを振り返る。


 そして後悔した。


 二人の事を明らかに獲物として追いかけて来ていたのは見た事もない猛獣だった。


 一番近いイメージはサーベルタイガーだろう。

 だが巨大な牙は上顎だけでなく下顎からも突き出している。


 さらに一番違う点は、そいつが6本足だという事だ。

 後ろの4本足で走り、前の2本で器用に木々を掻き分けて追いかけてくる。


 なんとか追いつかれずに済んでいるのは、少女が巧みに猛獣の巨体では入れない木々の間を選んで逃げているからだ。

 しばらく無我夢中で逃げ回っていると、いつの間にか追ってくる猛獣の姿が見えなくなっていた。


 ようやく少女が走るのをやめて、一本の木の前で止る。


 少女は軽く息を切らしている程度だったが、零慈は肺が焼け付く寸前だった。

 木の上を指差しながら少女が口を開く。


「ワケワカンネ##$%###$#」


 そして少女はするすると木の上に登っていった。


「はあ、はあ、木に登れって事だよな……」


 木登りなんて何年ぶりだろう?

 少々、梃子摺りながら何とか少女のいる枝まで登りきる。


 その時、奴の咆哮が再び響き渡った。

 音がした方を見ると、サーベルタイガーモドキが明らかにこちらを目指してのっしのっしと近づいて来る。

「やばい! どうすんだよ!? アイツ木に登れないって事でいいんだよな?」

「%$#%$%」


 相変わらず訳の分からないことを言って、少女がにっと笑った。


 そしてサーベルタイガーモドキに向かって、()()()()()()()()で呟きだした。


「コネクション。登録者名ルチア。」


 そのとたん猫耳少女の体がうっすらと輝き始める。


「……展開。オプション、炎弾。……座標125、6、7。座標固定。3点バーストによる速射開始」


 その言葉と共に、少女の周りに光球が生まれ、そこからサーベルタイガーモドキに向かって青白く光る炎を宿した弾がちょうど3発ずつ、立て続けに発射された。


 謎の弾の攻撃を食らったサーベルタイガーモドキは文字通り蜂の巣のように穴だらけになる。

 そして弾が貫通した部分から炎が噴出し、あっという間にただの焼肉、というか炭になってしまった。


 上手に焼けましたー、ってレベルの話じゃない。


「すげぇ……。なにコレ? 魔法って奴なのか? ……っていうか今お前、日本語喋ってたよな? 座標とか3点バーストとか」


 その言葉を聴いて少女が驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべる。

 どういう仕組みか頭の猫耳もぴくぴく動きまくっていた。


「ワケワカンネ###$#“$#!」

「だから日本語喋れるならそっちで頼むよ」


 零慈の要求をあっさり無視して、少女は木から飛び降りた。

 途中で一回転を加えて見事に着地する。


「おー。猫耳は伊達じゃねーな」


 さすがに零慈には真似の出来ない芸当だったので、こちらは不恰好に木から下りていく。

 何とか木から下りた零慈の腕を掴んで少女が歩き出した。

 どうやらどこかに連れて行こうとしているらしい。


「何処へ行くんだ?」

「“”“##$”##$“#$」


 言っている事はやはり全く分からなかったが、少女の表情はとても嬉しそうだった。


(まあいいか。助けてくれたんだから大丈夫だろう。それにこの子と一緒にいれば例えリオレ○スに出くわしても平気そうだしな)


「しっかし何がどうなってるのやら。……まあいいか、明日考えよう」


 そんな事を呟きながら、零慈は不思議な女の子に手を引かれ、サーベルタイガーモドキがいなくなったお陰なのか、色々な動物の鳴き声が響きだしたジャングルの中を歩き続だした。


よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
こんばんわ! 感想失礼します。 夢か確認する奴って本当にするんですね……。俺も馬鹿にしてた一人です……。 少女がなんで魔法を撃つ時だけ日本語が話せるのか……どうして、普通の時話さないのか……気に…
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