ランドール
翌朝、2人はランドール乗り場でずっとランドールとやらがやってくるのを待ち続けていた。
なぜなら1万年前のバスや電車のように、何時何分という細かいダイヤではなく、午前とか午後とかのかなり大雑把なダイヤで運行しているからだ。
その為か、停留時間も1時間以上あるらしいので、別にずっと張り付いて待っている必要もないのだが、特にする事もない上に、万が一乗り遅れると次は2週間後になるらしいのでここは慎重になってもいいシーンだ。
「リャンドールこないねー」
「こねーな。あとランドールだ」
すでに回数が分からなくなるほど繰り返した会話がまた繰り返される。
ルチアの問いに生返事で答えたあと、零慈は広場の真ん中にある巨大な時計台を見た。
この町の人達はこの時計台で時間を確認している。
よっぽど裕福でもない限り各個人では時計を持っていないようだ。
昨日の時点でスマホの時計と見比べてみた所、ほぼ2時間ほどこちらの世界の時計が遅れていた。
その時計台はもうすぐ11時を指そうとしている。
待ち始めたのが8時過ぎだったのでかれこれ3時間程待ち続けている訳だ。
午前中にホントにくるのか? と思いつつ零慈が時計から目を離した瞬間、耳を劈くようなサイレンが鳴り響いた。
「うにゃああ!」
うとうとしかけていたルチアの耳と尻尾が、吃驚してぴんっと空に向かって立ち上がる。
「どうやら到着したみたいだな」
広場の入り口に姿を現したそれは、5メートルほどの高度で空中をすべるようにこちらに向かってくる。
かすかな重低音を発しながら向かってくるランドールは翼のないスペースシャトルの様な形をしていた。
零慈たちの目の前までやって来ると、ランドールは音もなく停止した。
そして次の瞬間、空気があふれ出すような音を発して機体の底部が開き、着陸用なのか、2本の長いレールが両サイドにせり出してくる。
そのまま、低い重低音を響かせ降下を始めたランドールは地面に着地するとまたもや空気があふれ出すような音を響かせ、機体のサイドにある扉が下に向かって開き、先端が地面に接する。
そして機体の中からタラップとなった扉の上を渡って乗客たちがぞろぞろと降りてきた。
「れーじ、これがリャンドール?」
「……ああ、たぶんな……あとランドールだ」
正直、馬車的な物を予想していた零慈は半ば呆然とランドールを見つめていた。
大きさは一般的なバスより2回りほど大きい、底部が黒で上が白の塗装はまんまスペースシャトルを連想させた。
風雨でかなり汚れているが、機体そのものは全く傷んでおらず、高度な科学力で作られている事がうかがい知れる。
「この世界の科学技術っていくらなんでもアンバランスすぎるだろ……」
呆けている零慈の周りでルチアが目をキラキラさせてはしゃいでいる。
「すごーい。ガロシュよりもおおきいね」
我に返った零慈がはしゃいでいるルチアの首根っこを掴んで、誰も降りてこなくなったタラップを恐る恐る上って機内に入る。
中に入ると機首に設置された操縦席のような所に座った運転手からチケットを渡された。
どうやら降りるときに料金を支払う仕組みのようだ。
改めて機内を見渡すと、真ん中ぐらいまで3席セットになったシートが2列並んでいた。
後ろのほうはそれぞれ扉が付いた部屋になっているようで内装は飛行機と酷似している。
どうやら乗客は全員降りてしまったようで、どの席も空いていた。
「ねえれーじ。どこにすわってもいいの?」
相変わらず目をキラキラさせたルチアが嬉しそうに尋ねてくる。
運転手に視線を走らせると、運転手はめんどくさそうにうなずいた。
「ああ、好きな所に座っていいみたいだぞ」
「じゃルチアここにすわるー」
そう言ってぴょこんと一番前の窓側の席に飛び乗り、そのまま窓にかじりついた。
零慈もルチアの横の席に座る。
とりあえずこれにさえ乗ってしまえば、後は勝手にアルフヘイムへ連れて行ってくれる訳だ。
ほっと一息つきつつ、先ほどの運転手に注目してみた。
背はあまり高くない。せいぜい110センチくらいか。
全身が濃い茶色の毛で覆われていて、顔もほとんど見えない。
青色の電車の運転手が着るような制服を着ている。
だが一番特徴的なのはその頭に生えた角だろう。
ちょうど額の所から20センチほどの角が生えている。
こう書くとユニコーンのようだが、実際はそんなに優雅なものではなく、どちらかというと角の生えたモグラだ。
運転手の観察を終えて、ふと横を見るとはしゃぎ疲れたのかルチアが可愛い寝息をたてていた。
発車までまだかなり時間がありそうだったので、ルチアを起こさないように注意して立ち上がり機内を見てまわる。
機体の後ろの扉はそれぞれトイレ、シャワー、キッチン、荷物室になっていた。
アルフレリアまで2日かかるらしいので確かに必要な設備だ。
探検を終えて、再び席に戻った零慈もルチアにつられていつの間にか眠っていた。




