サリサ
その後、お礼といってデザートを頼んでくれたので、そのまま3人でテーブルを囲む事になった。
「そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前は日輪零慈。言いにくかったら零慈でいいよ」
「私の名前は……」
そういって金髪の美少女は黙ってしまった。
なにかを考え込んでいるようだ。
「まあいいか。……私の名前はサリサ・ヴァナ・神蔵よ」
なにか重大な秘密を打ち明けるかの様に名乗った。
「へー。……つうかなげえな」
「ルチアおぼえられなーい」
「へ?」
どうやら期待していた反応ではなかったようで、サリサの目が丸くなる。
「ちょっと零慈、あなたミズガルズ族じゃないの? 神蔵の名前を知らないとでも?」
どう答えるべきか?
悪い人間には見えないが、まだ自分が神人であることを明かすのは時期尚早に思える。
「ええと、まあ見た目はミズガルズ族っぽいらしいけど……神蔵の名前しらないとなんかまずいのか?」
「そ、そんなことはないわ。ちょっと意外だっただけ」
地面に視線をそらせながら、そうか、しらないのか……とか呟いている。
「ということはサリサはミズガルズ族なのか?」
地面から顔を上げてサリサが答える。
「そうよ」
「じゃ、ミズガルズ族のヴァルハラが何処にあるか知ってるのか?」
サリサがすこし怪訝そうな表情を浮かべる。
「知ってるけど……」
アルフレイムに行く予定だったが、特に順番が指定されていた訳でもないので、先に場所がはっきり分かっている所に行くほうがいいだろう。
「じゃ、そこに案内してくれないか?」
「嫌」
そう言ってそっぽを向いてしまった。
取り付く島も無いとはこのことだろう。
「はやっ! いや別になにかたくらんでいるとかそんなんじゃなくて……」
「…………なの」
「なに?」
キッとこちらをきつい視線でにらんでくる。
「家出してるのよ! なにが悲しくて家出中にあなたをわたしん家に案内しなきゃならないのよ」
確かに正論だ。
「そ、そうなんだ。なんで家出なんかしてんだよ?」
「あなたには関係ないでしょ。こっちにも色々事情があるのよ」
デザートを食べ終わったルチアが会話に参戦してきた。
「いえでってなーに?」
「そうだなー、世間知らずのガキが親への不満を表すアピールの一種かな」
「あなた、私に喧嘩売ってるでしょ」
サリサが綺麗な瞳を細めながらにらんでくる。
「ルチアよくわからなーい」
「大事な事をするために家から出るってことよ」
サリサがルチアの頭をなでながら自分に都合のいい説明を始めた。
「わかった! ルチアたちとおなじだね」
ルチアが嬉しそうに微笑む。
「違うぞルチア。俺たちとただの家出不良少女を一緒にするな」
むむむっとルチアを挟んでお互いににらみあう。
古い絵画的表現を使うと、お互いの目から光線が出てばちばちと火花を散らしている。
「そういうあなたこそなんでヴァルハラに行こうとしてるのよ? ルチアはヴァルキリーでしょ? あなたはそのお供? 聞こえようによっては割と物騒な話に聞こえるんだけど」
(ヴァルキリー? そういえばさっきの連中もそんな事言っていたな)
「そのヴァルキリーってなんだ?」
「それも知らないの!? ……ヴァルハラのマイスターを世間ではヴァルキリーって呼んでるの。本来の意味は違うんだけどね。七氏族の直系しかヴァルキリーにはなれないから、かなりレアな存在になるわね」
「なるほど……」
「で、あなたはそのレアなヴァルキリーを連れてなにしてんの?」
「なにしてるっていうか、させられてるっていうか……、とにかく色々あってヴァルハラを全部まわらなきゃならないんだ。最初に行ったムスペルヘイムでルチアと出会って、長老のジウロに事情を話したら協力してくれる事になったんで一緒に旅をしているんだ」
ムスペル族の名前が出た所でふっとサリサが肩の力を抜いた。
「ふーん。ムスペル族は七氏族で一番温厚な種族だからその長老が協力してるとなると、変な目的ではなさそうね」
どうやら分かってもらえたようだ。
「じゃ、そういう事でサリサの家に案内してくんない?」
「だからいやだって言ってるでしょ」
スプーンを振りながら答えてきた。
「やっぱり駄目か。しかたねえ、最初の目的通りまずアルフヘイムにいくかー」
「まあ確かに此処からじゃアルフヘイムが一番近いわね」
「──! サリサ、アルフヘイムの場所知ってるのか?」
何故か無言でこちらを見つめてくるサリサ。
そしておもむろに立ち上がり、付いて来いという身振りをして歩き出した。




