ヴァルキリー
力を使わずに平和的な解決を模索してみよう。
「ええと、嫌がっている子を無理やり誘うのはあんまりよくないかなーっと。いや別に喧嘩売ってるとかそんなんじゃないですから!」
弁解してみたが3人は相変わらず直視できないほどの邪悪な笑みを浮かべて近づいてくる。
「さっきの威勢はどこいったんだよ」
そう言いながらチンピラの1人が零慈の胸倉を掴んで軽々と持ち上げた。
「おうおうにいちゃん、女の前だからってカッコつけたのがまずかったな」
「あ、さっき買ったこいつの試し切りしてみるか」
そういってチンピラが腰に下げていたシミターを抜いた。
(やべえ! こいつらマジだ。あんなもんで切られたら痛いどころじゃねーぞ)
ここは落ち着いて、この問題に関しては明日考えたい所だがその明日が来ない可能性が非常に高い。
非常事態なのでジウロの警告を無視してマイスターの力を使おうかとも思ったが、喉に食い込んだシャツのせいでまともに声が出ない。
「ひゃはあ! そのまま動かすなよ。間違えてお前切っちまうぜー」
「おう! すぱっといけー」
零慈の横で、チンピラがシミターを上段に構える。
(終わったー!)
おもわず目を閉じる零慈。
その時、怒気をはらんだルチアの声が響いた。
「発射!」
目をつぶっていても目の前が明るくなるのが分かる。
「ぎゃああああ」
その悲鳴と共に、零慈を掴んでいた力が抜けて再び地面に足が着く。
目をあけると零慈を掴んでいた男が呆然とした顔で横を向いている。
その視線の先を追うと、シミターを構えていた男が手首を掴んで地面を転げまわっていた。
すこし先に、先が溶けて全体が赤く焼け爛れているシミターが転がっている。
「れーじをいじめちゃだめ! ルチアおこるよ!」
マイスターの力を発動させたルチアが全身の毛を逆立てるようにしてチンピラ達を威嚇していた。
「おい……今のって……」
「やべえ! そのガキ、御座使いだ!」
チンピラ共が地面に転がっている仲間を2人係で引きずりながら、這う這うの体で一目散に逃げ出していった。
「れーじ、だいじょうぶ?」
心配そうな面持ちでルチアが覗き込んでくる。
シャツで締め上げられた首をさすりつつ、反対の手でルチアの頭をなでてやる。
「大丈夫だよ。ちょっとやばかったけど」
「ありがとう。私を助けてくれたのね」
頭の後ろから鈴が鳴るような良く通る声が響いた。
振り返ると、そこにはさっきの連中に絡まれていた女の子がいた。
歳の頃は零慈とおなじくらいか、金を通り越して白に近い髪が腰の辺りまで伸びていて、目は透き通る様な蒼、整った愛らしい顔立ちからは気品のようなものが漂っている。
100人いれば100人とも振り返るような美少女だった。
あの連中が声をかけたのもうなずける。
「いや、俺は男として当然の……」
ちょっとカッコをつけて零慈が答えていると、
「あんたじゃないわよ。私はこっちの可愛らしいネコミミのお嬢さんに話かけてるの」
と、顔に似合わずきつい言い方で切り捨てられた。
一応、俺も助けようとしたんだけどな、と小声で呟くが気恥ずかしさで顔が赤くなっていく。
そんな零慈には目もくれず少女はルチアに話しかける。
「お嬢ちゃんは名前なんていうの?」
「ルチア? ルチアはルチアっていうの」
「良い名前ね。助けてくれてありがとう」
「ん? ルチアがたすけたのはれーじだよ」
きょとんとした表情をルチアが浮かべる。
「そう、このヘタレはれーじっていうのね」
そう言って零慈の方に目を向ける。
何度見ても可愛い。
目が合うと先ほどとは違う意味で顔が赤くなる。
「あなたねー もうちょっと考えてから行動したほうがいいわよ。ルチアが助けてくれなかったらマジで死んでたわよ。勇敢と無謀を履き違えてるんじゃないの? ……まあ、私を助けようとしてくれた事には一応感謝しとくわ」
最後のセリフは横を向きながら恥ずかしそうに喋っていた。
見た目と中身にかなりのギャップがあるが、悪い奴ではなさそうだ。
その後、お礼といってデザートを頼んでくれたので、そのまま3人でテーブルを囲む事になった。




