38.見つけた、見つかった
「俺たちのアジトがよそ者に占拠されてるってどういうことだプゥッッ⁉︎」
鉄格子を掴み叫ぶラビップ族を宥め、ギルド『グラウンディ』の職員は淡々と続ける。
彼ら盗賊団は3人。その全員が同じ牢屋に入れられていることで、アジトになっていた洞穴はもぬけの殻……の、はずだった。
だが、窃盗事件の事後処理としてアジトを訪れた際、十数名の人影があったのだと言う。
「に、人間が勝手に、アジトを乗っ取ってるってことップ⁉︎」
「ああ。空き巣にしては数が多いし、その可能性が高そうだ。改めて情報収集を行い、武装していることもわかった。
お前らの同業者が都合良く使ってるんじゃないか」
「なんて奴らだプー⁉︎」
「————と、一度は考えたんだがな」
ルイスくんの声のトーンが下がる。
「どんなに魔法の才能が無かろうと、微弱な魔力は感じられるものだ。赤ん坊だろうとな。
そして集団になれば当然、固まりとして魔力量が増え、魔力感知に長けている者から存在を気付かれやすくなる」
「何が言いたいんだプー?」
「お前の言い回しは周りくどいんだプゥ。だからお前と話すのは面倒なんだプゥ」
「う、うるさい! 話の腰を折るな!」
彼のイジられっぷりは一体何が原因なんだろう。
そっと哀れみを向けつつ会話に参加して、話を戻しておこうか。
「ルイスくんは魔力を感知する力が強いんですよね。仮に、大体どこに何人くらいいるかがわかるものとして……なのに最近まで、その集団に気付かなかったということですか?」
「……そうだ。たまたまこいつらの件でアジトの場所を知っていたこと、たまたま巡回ルートに入っていたことで担当者が視認して発覚しただけで、
魔力を感知したのはその後だ」
「感知って街の外まで届くんですね」
「強さと距離による。普段はそこまで届くことはない。……だが」
ルイスくんの目が、ロンくんに向く。
「先日、突然感じた。とんでもない強さの魔力がそこに出現したんだ」
「出現……強い魔力の持ち主が合流した?」
「それなら距離が近付くにつれ、段階的に感じられるはずだ。
俺だけではない、白銀の百合からも同様の意見をもらった」
「リリーさんもですか……。例えば、どこかからワープ……転移してきた、とか?」
「逆の現象は、あんたも知っているだろう」
「逆、というと」
「『急に魔力を追えなくなった』。そう言っていなかったか?」
————それは。
『集落に助けてって言ったんだけど、ママの魔力を追えなくなっちゃって……わかんないけど、急にママが見えなくなっちゃって。どこにいるかわからないから、無理だって』
『途中で魔力を追えなくなったというのが、やっぱり気になるわね』
「……ロンくん達のお母さんが、攫われた時の話ですか?」
魔力を追いにくくする方法はあるが、個人の力で完全に遮断することは難しいと聞いている。
そしてリリーさんは、エルフですら全く追えなくなるほどとするなら、何か道具を使ったとも考えられると言っていた。
急に魔力を感じられなくなる現象。
今回の、急に魔力が出現した現象。
「——魔力を遮断する方法が何らかの理由で使えなくなり、集団の魔力が周囲に感知されるようになった。
今回現れたのは人攫い集団で、魔力の主は……二人のお母さんかもしれないと?」
「‼︎ ママが見つかったの⁉︎」
「落ち着け、確定はしていない。だが盗賊団のアジトを流用するようなお行儀の悪い連中だ、人攫いの一団であってもおかしくないだろう。
第一、ここまで膨大な魔力量を持っている者は、エルフほどでないと説明がつかないしな」
二人のお母さんは生きていて、ポートリントンの近くにいるかもしれない。
手放しに喜べる状況ではないが……生きているなら、ルイスくんやリリーさんが何とかしてくれる。
少し希望が見えた気がして、ロンくんと顔を見合わせる。
「だが仮にそうだったとしても、無闇に動くわけに行かない。人質に危害を加えられる恐れがある。
やるなら一斉摘発だ。なので盗賊団には、アジト内に隠し部屋や仕掛けがないか確認させてもらいたかったんだ」
「みんなで行ったら、助けられるよ!」
「あちらがどの程度の戦力かわからない内に特攻すれば、犠牲が出るかもしれない。
絶対に勝手な行動を取るんじゃないぞ。これはグラウンディが主導している上、他国のギルドも関わっている事件だ。
シオ、この双子のことしっかり見張っていろよ」
「もちろんです。どの道私は留守番組ですから」
僕の感覚では、ルイスくんの言っていることは至極真っ当だ。
そもそも人攫い集団かが確定していない。相手は複数人おり、中に魔力の強い者がおり、それが味方か敵かもわからない。
武器や防具の程度もあるし、魔法を使ってくるなら内容も把握しておきたいだろう。
人質がいるならその人数もわからないし、アジトの中にどれだけ篭っているのか、いつまでいるのか。
一番の目的は人質の保護。
ほぼ同列で犯人の確保。
感情的で個人的な行動は、ギルドの捜査の邪魔になるのは間違いない。
盗賊団への聞き取りが開始されたので、僕とロンくんは解放された。
「きっともうすぐ会えるよ」とか「信じて待っていようね」と声をかけたが、ロンくんはどこか上の空だった。
心配になるのは当たり前だ。僕だって、どこかで母さんが生きて助けを求めているなら、今すぐその場に駆けつけたくなるだろう。
それでも僕がそれを良しとしないのは、僕自身がこの世界で力を持たないからというのが一つ。
もう一つに、地球上の日本という国での常識として、個人が武装集団に立ち向かっても勝ち目が薄いということがある。
専門家に任せて、ただ待つ。歯痒くとも、非力であると自覚しているから待つしかない。
——それはあくまでも地球上での常識。
アルスターでは違うのだ。
思い知るのは、その日の夜のことだった。




