37.ラビットジャッジメント
ラビップ族。ウサギのような見た目で二足歩行し、人語を喋る獣人族の一種。
この三人の盗賊団はポートリントンで窃盗を繰り返していたのだが、そのうちこの一番大きなラビップ族とは僕自身が被害者としてやり合っている。
残り二人に関しては、ココちゃんとロンくんが母親の誘拐犯だと思い込んで言い合った相手だ。
「プ? アニキ、こいつのこと知ってるップ?」
「ププ⁉︎ い、いや……! お前らが言ってた『話のわかる人間』ってこいつのことプゥ⁉︎」
「そうでプー。そこのエルフのガキに言いがかりをつけられたときに、その人間は俺たちの事情を理解して解放してくれたんでプー」
まあ、グラウンディがアジトの場所を把握済みだから正式に捕まえるために戻したのであって、別にこいつらの為ではないんだけども。
「……で、私を指名したのはどういう?」
「そこのやたら見かけだけはいい人間は横柄で好かないップ! しかもアニキの顔を踏んだらしいじゃないかップ!」
「そんな奴に話すことなんか何もないプー! そいつの仲間も信用ならないプー!」
「だからお前を呼ぶなら考えてやらないこともないって言ったップ。そしたら本当に呼ばれたップ」
「お前も大変プーね」
「お気遣い痛み入ります」
ルイスくん、また初見で嫌われてる。……とは思ったけど口には出さなかった。
「牢屋ではありますが、アニキさんには再会できて良かったですね」
「まったくだプー。生きてさえいればなんとかなるプー」
「プップップ。ここを出たらまた三人で頑張るップ!」
「それは、また盗賊団をやり直すという意味ですか?」
「当たり前だプー!」
「そういう態度だから出られていないのでは?」
「プ⁉︎ また誘導尋問ップ⁉︎」
「違います」
「違うならいいップ」
なんでも喋ってしまうところは変わっていないらしい。
逆に、こんなにペラペラ言ってしまう奴らだというのに、人柄だけで黙秘されているルイスくんはどれだけのことをしたというのか。
さて。
約一匹……いや、約一名、まったく言葉を発さない者がいるようだが。
何でも喋る二人が、誘拐についてロンくんに無実であることを主張している間に視線を向ける。
ビクッと大きな身体がたわむ。
ジッと見つめると、徐々に顔がそっぽを向いていく。
「ルイスくん。一番大きいラビップ族が捕まった理由は他の二人に話していないんですか?」
「いや、窃盗ということは言ってある」
「盗んだ物については?」
「……伝える必要はないと激しく抵抗されたのと、言う義務もないからな」
「つまり、『使っていい』んですね?」
「構わない、聞かなかったことにする。……危機感がない割に狡いところあるな。ギルドマスターの入れ知恵か?」
「エアリアさんだったら物理でいけますよ」
「…………確かに……いや、物理は流石に止めるぞ」
僕とルイスくんの実に和やかな会話の間も、ダラダラと汗を流し奥の壁に背中を預けているアニキ。
こと————パンツ泥棒。
鉄格子に近づき、口元に笑みを貼り付けて見つめれば、浅いプスプスという呼吸が聞こえる。
……実に哀れではあるが、容赦するわけにはいかない。
小さいのと細いのは、大きいのの盗んでいたものを知らないと言っていた。
なおかつ大きいののことをアニキと呼び、尊敬の念を持って慕っているのは明白。
そして再会してからも、盗んだもののことを伝えていないどころか激しく拒絶しているという。
つまりこのボスウサギは、女性の下着を盗んでいたことが弟分にバレるのは絶対に避けたいと思っている。
黙秘の権利を行使しておいて、自分だけ面目保とうなんて許されるわけがないだろう。
そう、ポートリントン市民として。我が市のギルド職員として。
……下着を盗まれた、当事者としてっっ‼︎
「アニキさん?」
「プゥッッッ」
「良かったですね、お二人と再会できて」
「プ、プ、そう、そうでプゥね」
「ところで、ギルドの方の質問に答えていただけていないとか」
「プゥ……プゥ……」
「困りましたね、私もとてもお世話になっている方々なんですよ。
こちらのお二人は話してくれるみたいなんですが」
「プー? お前ならいいプーよ」
「ありがとうございます。でも、アニキさんがダメと言ったらダメなのかなぁと」
「プ……それはそうップ。俺たちはあくまでもアニキの指示に従っているップ! いくらお前でも言えなくなるップ」
「と、いうことなんですけど」
また一歩近寄り、鉄格子を掴む。
これ以上後退りできない哀れなウサギは、爪先立ちになって震えている。
「ところであなたが何故捕まっているのかお二人に」
「あーーーーーーーーーーーーーッッッ‼︎ 話す‼︎ なんでも話すプゥ‼︎ だ、だから……‼︎
お、お前たち‼︎ こいつ……いやこの人は、この人には恩があるんだプゥ‼︎ だからなんでも答えていいプゥ‼︎」
「えっそうップ? アニキってば、早く言ってくれップ〜!」
「人間にしては話がわかると思ったら、アニキの恩人だなんてますますやるプー!」
「ありがとうございます」
はしゃぐ二人と、汗だくの一人。
純粋な好意を受ける側も大変だな、変態ウサギよ。
「正直にお願いしますね?」
「話す! 話すプゥ!」
「嘘や誤魔化しがあるとわかったら即公開ですからね?」
「わかってるプゥ! ラビップ神に誓うプゥ‼︎」
ラビップ族の神っているんだ。
「……シオ、エアリア先生みたい」
「今後ウインドコットに借りを作るのはますます控えるべきだなこれは」
男子二人の呟きは、ウサギの懇願にかき消えた。




