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「リョウ、君は禁忌を犯した」
「はい?河野さん、何を言ってるんですか?」
「君は、私からミリィを奪おうとしている。違うかね?」
「いや、滅相もない。一体、何の話ですか?」
「そこの『ドラゴンの名前を決めたら、ドラゴンのママになれるぞ選手権』を、ドラゴンのパパである君が、開催すると言ったそうじゃないか?」
テーブルの上に両肘を立て、両手を口元で組んだ状態から全く体勢を変えることなく、そう言い放つ河野さん。
その意味の分からん、おかしなネーミングの選手権って、何の話だよ?
「・・・説明する。話は簡単、ドラゴンが名前が無いから、考えて欲しいと言った。でも、普通にやっても面白く無い、其処でドラゴンのママになる権利を掛けて、考える事にした」
と、モノリス・リリーが言った。
「あの、リリーさん?名前を考えるのは良いけど、俺が非常に危うい立場になるんですが?」
「・・・大丈夫、問題無い。皆、超乗り気。参加資格は、コスプレ」
「いや、コスプレって意味あるんですか?」
「・・・衣装は全て、私物を貸出した。台詞は、最初に教えた。後、カオリは強制参加」
「そして、ミリィを奪われる位なら、俺がドラゴンのママになろうと決心して、コスプレしたのだよ。リョウ!」 と、左手を開き中指でサングラスをクイッと上げながら、河野さんがおかしな事を言う。
俺は、隣に座るドラゴンとカオリを見る。
ドラゴンは、黙っているが嬉しそうにしているし、カオリは「ピィちゃんのママは、私よ!」と、闘志を漲らせている。
「珈琲でも飲むか」
ディスプレイで注文しようとすると、ドラゴンが「ピィ!ピピィ!」と鳴いた。
「・・・リョウ、その子は、チョコパフェ。後ケーキセット全種を、マリーの分と2つ」と、リリーさんが俺に言う。
「リリーさん、ドラゴンがチョコパフェって、言ってるんですか?」
「・・・言ってる。肉も良いけど、甘い物も欲している」
「ピィ!」
俺がドラゴンを見ると、嬉しそうに右手を挙げている。
序に、全員分の注文をするか。
「・・・リョウ様、セクハラで訴えますよ?」
「いや偶々、目が合っただけですよ!」
「リョウ、私のミリィをイヤらしい目付きで、眺めて貰っちゃ困るよ!歳を考えず、イタいコスプレし、アベシ?!」
ミリィさんが手に持っていたステッキを投擲し、顔面に直撃した河野さんが地面に転がる。
「此れで1人、邪魔者が排除されました」
ミリィさんは注文した紅茶に口を付け、静かに言った。
「ピィ!」
ドラゴンは器用にスプーンを使って、チョコパフェを食べている。
うんうん、可愛いね〜、平和だね〜。
俺は珈琲を飲みながら、名付け戦を繰り広げている人達から目を背け、現実逃避をする事にした。




