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異世界転生  作者: MSZ-006
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俺は今、一枚の集合写真を眺めている。


そこには、皆で楽しそうに写っている姿がある。


みんな、いい笑顔だ・・・。


・・・あの頃は、本当に楽しかったな・・・。


・・・いや、『あの頃』って一分前だよ!


因みに集合写真は、まだ撮ってないです。


危うく俺の脳内でセピア色の情熱的な回想シーンが、前世で好きで聞いていた歌と共に始まるところだったよ。


サウダージ(郷愁)に浸るには、まだ早すぎる。


俺が、物語のエンディング調で勝手に感傷に浸っていると、中央で一人だけ煮え切らない顔(態度?)をしていた赤い鋼の戦士が、猛然と突っ込んできた。


「自分、浸っとる場合かぁ!決着じゃ!勝負じゃボケェ!!ワイのマイハニーから離れろぉぉぉ!!」


そう言ってお父さんは、手首から先端に鉤爪が付いた極細の鎖で、俺を拘束し自分の方に引っ張り寄せる。


「おい、兄ちゃん。ちょっとツラがええからって、あんまイキり倒してると、ここでいわすぞ!?このドぐされが!」


お父さんは、腰の後ろに横一文字に据え付けられた魔導熱線ナイフの柄を掴み、赤く熱を帯びた刃をチラつかせて俺を脅す。


「なぁ、なんなら肘に仕込んだ、衝撃集中爆弾の餌食にしたってもええんやぞ?熱々の魔導ナイフか、肘ドンの爆発か、どっちがええか好きな方選べや!ゴラァ!?」


「アナタ?いい加減にしなさい!そうやって、簡単に玩具を振り回さない。いつも言ってるでしょう?獲物を使う時は、暗殺対象に気付かれる前に使用しろって!」


なんだろう?


常識的に止めてくれると思ってたのに、なんだがズレた方向に向かって説教されてる。


「せやかてマイハニー!このガキが、ワイの愛しのマイハニーに色目使い倒しとるんやぞ!それを黙って指くわえて見てろっちゅうんか!?そら殺生やわぁ!」


「・・・あら?そんな事を言うの?確か、リアナちゃんだったかしら?」


お父さんが、一瞬にして固まった。


「な、なんのことですかいな。人聞きの悪い事、言わんといてくださいよ。心外やわぁ・・・」と、お父さんが明後日の方向に顔を背ける。


「あ〜ら、こ〜んな所〜に〜、名刺が〜」とまるで歌う様な感じで、名刺を取り出す藍さん。


『キャバクラ・セーフ・ゾーン:源氏名リアナ・アウトバースト』と、名刺に書いてある。


リアナって聞くと、最恐の魔法で街ごと吹き飛ばす魔導士を思い出すなぁ〜。


なんて鎖で拘束されつつ、のほほんと現実逃避していたら「お兄ちゃん?前世の事、思い出してたでしょう?」と、言われる。


「なんなら、あの魔法の台詞とか言っちゃう?」


めぐりちゃんが、ノリノリで言葉を発する。


「め、めぐりちゃん?それは、ちょっとマズいかな?」


「え〜?そうかな?別に、本当に魔法を発動しないよ?」


「うん。それをされると、非常に困るからね」


「じゃ、ちょっと歌っちう?」


めぐりちゃんが、いたずらっぽく微笑む。


直後、彼女の口から紡ぎ出されたのは、俺の前世の魂に深く刻まれた、あの伝説的な旋律だった。


えっ!?


マジですか!?


俺が前世で大好きだったアニメの主題歌を、こんな間近で聴かせて頂けるんですか?


鎖で拘束され魔導熱線ナイフを突きつけられ、肘には爆発物が仕込まれている。


本来なら人生最大の危機のはずなのに、俺の心は別の意味で震えていた。


めぐりちゃんの綺麗な歌声が殺気立ったフードコートの空気を、一瞬にして浄化していく・・・様な気がする。


「お兄ちゃん、続きは一緒に歌ってくれる?」


めぐりちゃんが、マイクを向ける仕草をする。


抗えなかった。


俺は鎖で拘束されたまま、お父さんの顔の横で、めぐりちゃんとデュエットを始めてしまう。


迷いの中を彷徨い、抜け出す術を探し求める・・・。


そんな内容のフレーズが今の俺の状況にリンクしすぎて、目から汗が出てきた。


理想は『穏やかな撮影会』、現実は『鎖・ナイフ・浮気発覚・最恐魔法発動未遂』


「ワレェ!!何を二人で気持ちよぉ歌っとんねん!ハモりまで入れて・・・ええ度胸しとるやないけぇ!!」


お父さんのどす黒いオーラが膨れ上がるが、今の俺には名曲の間奏にしか聞こえない。


明日の自分を好きになりたい、という魂の叫びが恐怖を完全に上回った。


俺の声が彼女の歌声に重なり、共鳴する。


藍お母様が冷え切った手つきで名刺をピラピラと振る中、めぐりちゃんのボルテージが最高潮に達した。


他人の言葉に惑わされず、信じるものを現実にしていく。


その力強い絶唱と同時に、お父さんのベルトから音も無く、白い煙が辺りに充満した。


視界が完全に遮断され、白一色の世界。


拘束された鎖の重みと、首元に当てられた赤熱した魔導熱線ナイフの熱気が、スッと消失する。


「これで終わったと思うなや・・・。バ〜カ!バ〜カ!ドアホンダラ!・・・っていかん、あかんわ!早よこれ、回収してズラからなアカン!」


霧の向こうでお父さんが必死に名刺を強奪する気配がするが、俺たちの歌声は止まらない。


自分自身を抱きしめ、自分が主役の人生を楽しもうと、歌い上げるサビが白濁した世界に響き渡る。


視界が少しずつ晴れ、藍さんの呆れ顔とめぐりちゃんの笑顔が見え始める。


これが俺たちの、この日限りのステージだ。


ハッピーエンドで終わらない、涙も傷つくことも、すべてをエッセンスにして立ち直り、フィナーレまで演じきってみせる。


最後の一節を歌い終えた瞬間、煙幕は完全に消え去った。


お父さんの姿はもうどこにもなく、手元から名刺を奪い返された藍さんが、呆れたように声を出す。


「・・・逃げたわね。あの人、逃げ足だけは私より早いからね」


その言葉を合図に、俺たちのデュエットは終了した。






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