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「あ、さて!あ、さて!さては、南京玉すだれ!」
「飴〜!甘い飴ですよ〜!如何ですか〜?」
ネアさんの大道芸が、会場を沸かせている。
其処に、珊瑚の飴を売る声が響く。
「嬢ちゃん、飴一つくれるかい?」
「はい!有難う御座います!!」
飴の売れ行きも、好調の様だ。
「お嬢ちゃん?私も飴を一つ、貰おうかな?」
「はい!有難う御座いま・・・」
「おや?どうしたのかな?私には、売ってくれないのかい?」
「いえ、飴一つですね。どうぞ」
「おや?この飴は、他の人より小さいね?じゃ、普通の値段じゃ買えないな」
「ちょっと!他の人達と同じ大きさです!変な言い掛かりは、止めて下さい!」
一体、何の騒ぎだ?
珊瑚を見ると、大黒屋が珊瑚から飴を買っている所だった。
「お嬢ちゃん?私は此れでも、大名屋敷に出入りしている大店の店主なんだよ?商売できなくなっちゃ、困るだろう?」
憎たらしい薄ら笑いを浮かべて、珊瑚に絡んでいる。
大黒屋の周りに居るのは、大黒屋の手下共。
だから、珊瑚との会話も周りには聞かれて居ない。
「・・・」
いい加減、我慢の限界だ。
ミリィさんに案内された特等席のすぐ近くに、大黒屋共が陣取ってやがる。
無言で、動き出そうとした瞬間。
「リョウ様、お待ち下さい」と言って、ミリィさんが俺を制止する。
「此処は私に、お任せ下さい」
明るかった芝居小屋が、急に暗くなる。
そして、大黒屋と珊瑚に照明が当てられ、周りから浮き立つ。
『お嬢ちゃん?この飴は、とても美味しいね!どうだろう?今ある分は全部、この大黒屋が買い取ろうじゃないか!・・・流石、天下の大黒屋さん!貧しい飴売りの少女に、粋な計らいですね』と、ミリィさんが声を流す。
すると、周りから「いよ!大黒屋!!」
「流石、大店の旦那は太っ腹だな!」等の観客達の声が反響する。
「チッ。仕方無い、全部で幾らだ?」
「全部で、壱両です!」
「い、壱両?」
『壱両か?安いね。なら、私はちょっと色を付けてやろうかな?・・・流石、大黒屋さん。そう言って少女の手に、参両も握らせているではないですか!?』
「ほら、早くしないと、みんな見てるよ?」
珊瑚がニヤリと悪い笑みを浮かべ、大黒屋にだけ聞こえる様に言う。
「畜生!」
大黒屋が怒り心頭の笑顔で、珊瑚に小判を三枚渡す。
すかさず、珊瑚は手に持った小判三枚を上に掲げ「大黒屋さん!有難う!」と、照明に当てられながら退場して行く。
「いやぁ、流石だね〜!」
「うん。やっぱり、大店の店主ってのは、こうじゃないとな!!」
と、周りが囃し立てる。
大黒屋は、怒りを出来る限り出さない様に、大店の店主的な態度をとっている。
「いやぁ~!芝居の前に、凄くいい話を見せて貰ったぜ!」
「そうだな!なかなか見応えのある、見世物だったな!」と観客からは、かなり高評価だ。
『ぷ〜!?クスクス!ねぇ?今、どんな気分?』って、大黒屋に言ってやりたい。
「如何でしたか?リョウ様」
「ミリィさん、有難う御座います」
「ミリィさん、有難う御座いました!アイツが前のゲームに出て来た、
ブラック企業の課長だよ」
珊瑚が、俺達の所に戻って来た。
「珊瑚、大丈夫か?うん。瑞から聞いてる。奴は今後、仕事の対象になる。だから、それまで我慢だ」
「リョウ、それは自分に言い聞かせてるの?」
「カオリ、そうだな。そうじゃ無いと俺は、唯の殺人犯にしかならないからな」
「間もなく、芝居が始まります。愉しみに、お待ち下さい」
ミリィさんが、舞台裏に消えて行く。
暫くすると、先程と同じ様に周りが真っ暗になり音楽が流れ出す。
ジャンララ〜、ジャッジャジャッジャ、ピャララ〜。
魔導蛇味線と、篠笛の音色が響き渡る。
蛇の魔物の皮に魔導絹糸と牛鬼の角で作ったツメで弾くその蛇味線は、本来のポロンとした優しい音など微塵もない。
まるでアンプに繋いだエレキギターのように、激しく重い和ロックの爆音を掻き鳴らしていた。
この音楽、レースドライバーやってる女の子が巨大ロボのメインパイロットで、猛禽型の機体に搭乗して『やってやるわよ!』とか言う、ロボット物では?
魔導蛇味線と鉄の篠笛を持った双子の姉妹が、照明で照らされており蛇味線を弾いてるリリーさんが歌っている。
リリーさんの歌声を、初めて聞いた。
凄く、綺麗な歌声だな。
と、思いながら芝居をを見ていて、なるほどなぁと思った。
芝居の舞台は、幽霊が出ると噂される柳の下。
そこへ現れた陰陽師が、若い女の幽霊に「なぜ、化けて出るのか」と問いかける。
幽霊は「駆け落ちを約束した相手を待っていたが、雨の中で待ちぼうけを食らい、病で命を落とした。だから今もここで待っているのだ」と告げる。
場面が昼に切り替わると、同じ柳の下に立ち尽くす老いた男の姿がある。
陰陽師が「誰か待っているのか」と尋ねると、男はこう答える。
「昔、ここで駆け落ちの約束をした。だが自分は病に倒れて動けず、ようやく辿り着いたときには、もう彼女はいなかった。それ以来、私はずっとここで待ち続けている」と。
陰陽師は、男に問う。
「その女に、会いたいか?」
男は迷わず答える。
「もし会えるなら、この命を差し出しても構わない」
陰陽師が静かに術を唱えると、柳の下にあの女の幽霊が現れた。
数十年という長い年月を経て、ようやく二人は再会を果たす。
女の幽霊は安らかな表情で成仏し、それを見届けた男もまた、静かに寿命を引き取った。
二人の魂は若かりし頃の姿に戻り、手を取り合って一緒に天へと昇っていった。
二人が消えた後の柳の下には、二つの品が残されていた。
女が大切に持っていた男からの「簪」と、男が肌身離さず持っていた女からの「煙草入れ」。
主を失くした二つの品は、まるで寄り添うように静かにそこに並んでいた。
・・・時間は進む。
止まっていた二人の刻が、今ようやく重なった。
先ほどの歌の歌詞が、シンクロする素晴らしい演劇だった。
ミリィさんの演出力には、本当に脱帽するしかない。
芝居小屋全体が、水を打ったような深い感動の余韻に包まれていた。




