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10-3 処女魂

「高尚な娯楽だなぁ。 お前さんと手を組んだ人間にとっちゃ迷惑もいいとこだろっがよ。 まぁいい」


 佐太郎はそこまで言って少しの間、死に神の様子を眺め、そして巳白の腕の中で意識を失っているラムールに目を向け、それから一夢達の墓を見た。


「――ただ、この死の波紋を解除するだけのために教育係がお前さんと契約を交わしたとはどうしても思えねぇんだが。 俺とは違い、何もしらねぇ教育係が簡単に取引に応じるか? おそらく死の液体の存在すら知らなかったはずだがな。 コイツはそんなに無鉄砲なことはしねぇ」


 そう言いながらゆっくりと死に神を向く。


「教育係に、何と言った?」

「iいいところに気がつくな。 なぁに、たいしたことでは無いi」

「いいから言え」


 死に神に対しても全く動じない佐太郎の姿がよほど珍しかったのか、満足そうに死に神は頷いた。


「i一夢の魂の解放さa」


 死に神の視線がラムールを捕らえる。


「r錬金術師の言うとおり、私は死の液体を最初に浴びた者の魂を某に引き渡すために確保した。 だからこう言ったのだよ。 一夢の魂は私が持っている、このままでは彼はつがいの魂とは一緒に死の国へは行けぬ。 だから教育係が私と契約を結ぶことを条件に一夢の魂の解放しようと。 契約内容は、期間内に結界解除ができなかった場合に教育係の魂を貰うと。 即答だったぞo」


 気を失ったラムールの姿はとても寂しげに見えた。


「――どうして教育係に固執する?」


 まるで死に神からラムールを隠すかのように佐太郎が前に立ちふさがると、同じくラムールを見失っては勿体ないなとばかりに死に神も首を傾げてラムールを見つめた。


「n人間には分からぬだろうが、教育係の魂は――非常に美しく、そして翼族の長によって強固に守られている。 この死に神の私にすら、教育係が男なのか女なのか、生まれた日も年齢も寿命も、いいや、生きているか死んでいるかさえ隠されてしまって分からない稀有な魂だからさ。 しかも、処女魂だa」


 リト達が顔を見合わせ「しょじょこん?」と戸惑うと、佐太郎が少し慌てて説明した。


「処女魂。 純魂ってやつだ。 まだ転生を一度も繰り返してねぇ、生まれたばかりの魂のことだ」

「生まれたばかり?」

「ああ。 魂は一度死ぬとあの世で他の魂のかけらと混ざって、再びこの世に何度も生まれてくる。 それが転生だ。 この世に生きてる奴の殆どは転生を経験していらぁ。 純魂はごく稀に誕生する魂エネルギーの原点。 確かに滅多にお目にかかれねぇ貴重な魂だ」


 それに呼応するかのように、死に神は熱に浮かされるように興奮して叫んだ。


「sそうだ! 処女魂の人間など、我々ですら探そうとしても見つかるものではない。 だがいま此処にいる。 しかも名誉と成功、孤独と絶望の、かなり特徴的な経験値を積んでいる。 分かるか? 錬金術師よ。 この魂を我がもとで支配し色をつけ、己の手で刈り取り、破壊と陵辱をもって更に魂に磨きをかけて愛でる。 背筋に震えが来るほどの喜びよ。 そのためならば多少の手間は惜しまないi」


 一気に告げ、胸元から大小不揃いのガラスで作られた色とりどりの珠のような首飾りをじゃらりと取り出す。 先ほどラムールの側にいた二足歩行の焦げ茶色いキツネみたいな生き物がそれを見て耳をヘタリと頭につけ、怯えるように身を小さくした。 


「w私のコレクションだ。 それぞれ美しかろうu?」


 リト達はその色とりどりの珠を見て瞬時に理解した。 ――魂だと。

 背筋にひやっとした冷たいものが流れた瞬間、死に神がリト達を見て高らかに嗤った。


「k変わった変わった。 お前達の魂の色が。 ほんの少し美しい色がついたa」


 弓をかばうように前に出た羽織がぐっと睨み返すと、またもや死に神は楽しそうに嗤う。


「yやはり、撒き餌が教育係なだけのことはある。 錬金術師も含め、まことに面白い魂ばかりが釣れたものよ。 しかもなんということよ。 処女魂がもう一つここにはある。 娯楽にしては上出来。 処女魂以外の者の魂はすり潰してひとかたまりにして――アメミットの菓子にしてもいいだろうu」


 愉快そうに告げてから、一呼吸おいて死に神は尋ねた。


「sさあ、人間どもよ、死に神に挑戦してみる気はあるかa」

「俺がやるぜ」


 息をのんだリトとは対照的に、間髪いれずに宣言したのは世尊だった。 世尊は抱いていた義軍をすぐ側にいたデイに預け前に進み出る。


「奴らの思い通りなんか絶対になってやらねぇぜ」


 その言葉を聞いた死に神は細く静かな抑揚のない口調で、からかうように小声で告げる。


「o同じ言葉を一夢も吐いた。 そして一度は我が手に堕ちたa」


 世尊の瞳に怒りの力がこもる。


「nなかなか良い眼差しだ。 では、左指を差し出せe」


 申し出のとおり、世尊は左手の人差し指を立てて死に神の目の前に差し出した。

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