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8-10 新世との対面~だからみんな、元気で

 柔らかな風がリト達の頬を撫でると同時に、新世がゆっくりと自分の両手を眺めて呟いた。


「――もう、時間みたい」


 すると新世の肌の色が少しずつ薄くなり、半透明になっていく。


「ええっ? しんせおかあさん! もうかえっちゃうのっ?」


 義軍が顔色を変えて新世に駆け寄るが、だんだんと薄くなっていく姿をみて怖くなったのか抱きつけずにいた。

 新世は申し訳なさそうに少し寂しげな顔をしてからその半透明の手で義軍の頬を撫でた。 義軍は目に涙をいっぱい溜めながらも気丈に胸を張った。


「だいじょうぶだよ! ぼく、大きくなったもん! 元気で頑張るから、泣いたりなんかしないもんっ! 安心して、しんせおかあさん!」


 新世は嬉しそうに微笑んでから、みんなを見回した。

 みんなそれぞれに少し寂しそうな顔をして新世を見ていた。


「会えて嬉しかったわ」


 やさしい声が耳に届く。


「みんな、お兄ちゃん達は下の子達の面倒をみて、下の子はお兄ちゃん達の言うことをよくきいて。 ……力を合わせてね」


 羽織達、みんなが頷く。


「佐太郎」


 新世が佐太郎に向き直った。

 佐太郎は任せろといわんばかりの顔で新世を見つめ返した。

 そんな佐太郎に乞うように、新世は少し身を乗り出した。


「迷惑かけちゃうけど、あの子のことを、お願い」


 佐太郎は頷く。


「あなただけが、分かってあげられると思うの」


 新世の眼差しはとても真剣で。


「お願い」


 もう一度、伝えた。


「ああ。 まかせとけ」

 佐太郎が頷いて返事をしたが、新世はそれでもどこか不安そうだった。


「清流。 ちょっといいかしら?」

 新世は何故か清流に白羽の矢をあて、側に呼んだ。


「なぁに? 母さん」

「……あのね……」


 新世は清流の耳にそっと両手をあててヒソヒソと何かを告げる。 耳を離した清流は少し眉をしかめてから新世を見た。


「どうしてそれを僕に?」


 戸惑いながら尋ねる清流に、「あなたは誰よりも正直だから」と新世は告げ、一歩、間を開けた。

 もう、タイムリミットなのだろう。


「なぁ新世! ……次は何年先かは分からねーけどよ、国の復活祭で会おうや! その時は一の字も一緒にな!」


 別れの湿っぽさを吹き飛ばそうと元気よく佐太郎が声をあげる。 新世も頷く。


『また会えるの?』


 口を揃えるみんなに向かって新世はゆっくりと微笑んだ。


「だからみんな、元気で」


 その言葉にみんなが頷く。

 そんな彼らを見て、新世は本当に嬉しそうな笑顔を見せた後、手のひらで溶けて消える粉雪のようにすうっとその姿を大気に溶かして消えていった。

 新世が消えると同時に大地に特殊魔法陣が干からびた線となってその姿を現し、そして復活の儀式は幕を閉じた。





+++





「――現実だったんだよね?」


 まるきりいつもの空間に放り出されてしまったリトが思わず口にした。

 今、確かに新世はそこにいて触れることすらできたのに、もうその気配はない。

 なんだかそれがとても不思議だった。


「新世さん、だったわ」

 弓が感慨深く呟いた。

「また会えるって。 ……」


 そうして新世に触れるかのように15の祝いの品である編み棒をぎゅっと胸に抱いた。


「お疲れさま。 サンキュな、清流」


 清流をねぎらって羽織がポンと肩を叩く。


「感謝してよね」


 清流も小さく微笑んだ。


「お、お、おい、義軍~!」


 すると世尊が妙に慌てたのでそちらに視線を向けると、そこには口を真一文字にぎゅっと絞ったまま、鼻を真っ赤にして瞳からボロボロと涙をこぼしている義軍の姿があった。


「ぼ、ぼぐ、おお゛ぎぐ゛な゛っ゛だも゛ん」


 世尊の差し出す手にも甘えず、義軍は一生懸命両足で大地を踏みしめて立っていた。


「よしよし。 大きくなったな」


 巳白が近づき優しく褒めるように、義軍の頭をそっと撫でた。 続いてアリドがヒョイと義軍を抱き上げる。 義軍はそれでも一生懸命我慢していた。


「おぅよ。 俺らがガキん時より、ずーっと偉いぞ、義軍は」


 アリドが何気なしにデイの方を向くと……


「デイ……、お前なぁ……」


 そこには義軍と同じように目をウルウルさせながら口をしっかり閉じて堪えているデイがいた。


「な、泣い゛てなんか、ないからな! ただ、会えて、良かったなって、思ったから」


 強がるデイを見て、義軍がブッと笑う。


「義軍の方が大人だよ、デイ」


 来意がクスクスと笑ったのでリト達もつられて笑う。


「あ゛ーっ。 ひっでー、みんな」


 デイが少し恥ずかしそうに抗議しながらゴシゴシと顔を擦って気を取り直す。 佐太郎が優しくデイの頭に手を乗せてワシャシワシャと撫でた。


「佐太郎さんまでー!」


 再度デイが抗議したので佐太郎は楽しそうにカカカと笑う。 そしてひとしきりみんなで笑った後、静かなその空間を見つめながらデイが呟いた。


「……どうして新世さんはせんせーに会ってくれなかったんだろう」


 誰も答えない。


「せんせー、本当に楽しみにしてたのに……」


 再び、デイが問う。


「ああ……、何でだろうなぁ」


 佐太郎も静かに呟く。


「死者っつーのは言えることに制限がかかってるから、逆に新世が何かを伝えたかったんだろうってのは予想がつかねーでもないがよ……。 ただ確実に言えることは、ライ……ラムールとお前らと、仲良くなって貰いたいんだろーなってことだが……。 にしても」


 それから先の言葉は口にしなかったが誰にでも分かった。 

 何故、新世はラムールにだけ会いたくなかったのか。


「清流。 お前、最後に何て耳打ちされたんだ?」

「……。 たいしたことじゃありません」


 それを聞いてリトはちょっと違和感を覚えた。 清流のことだ、「僕にだけ特別なことを」と鼻にかけてもおかしくないのに。


「そーか。 ……何が言いたかったんだろーなぁ。 新世は」


 佐太郎がアゴを掻く。


「会いたくない理由……。 予想がつかねーな……。 お前ら、何か新世があいつに会いたくない理由っての、想像つくか?」


 羽織達は揃って首を横に振る。

 だが一人、もしかしてと予想のついたリトは一緒に反応できなかった。


「リト?」


 佐太郎が気づく。


「何かあるのか?」

「――え、その」


 リトは戸惑う。 新世がラムールに会いたくなかった理由、たった一つだけ心当たりがあるそれをここで口にしていいのだろうか。

 ところがもう既に、そこにいるみんなはリトに何かの心当たりがあると気づき、じっとこちらを見ている。


「えっと、そのっ」


 誤魔化すにも誤魔化しようがなく。


「リト」


 巳白が真剣な眼差しで見た。


「頼む。 何なのか言ってくれないか? きっとそれはラムールさんのためになるはずだから。 どんな小さなことでも構わないから」

「おいリト」


 佐太郎もまっすぐリトを見た。


「結果的に勘違いとか気のせいとかでも、いっからよ。 極端な話、お前さんの頭にフッと沸いたキーワードでもいーんだ。 言ってみてくれ」


 口調こそ穏やかだが、そこには有無をいわせぬ迫力が奥底に潜んでいることくらいリトにも気づいた。


「いえ、あの、……その」


 気のせい、ではなく事実ではあるが。 

 そのとき、風にのって新世が「伝えて」と囁いたような気がして、リトは覚悟を決めた。


「ラムールさま、もうすぐテノス国を出て他の国に行っちゃうんです」

『えっ?!』


 流石に全員が顔色を変えた。 



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