9-1 重要なピース
「だって、ラムール様から直接聞いたんです」
みなの表情があまりにも理解不能といわんばかりだったので、リトは思わす付け足した。
「直接?」
「聞き間違いじゃなくて?」
「どんなシチュエーションでっ?」
それでもやはりみんなの疑いは強い。 巳白だけが死刑宣告でもされたみたいにショックを受けているので何故かありがたく感じるほどだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ??」
巳白がリトの肩を強く掴んだ。
「他の国に行くって……、転勤? だからもう会える時間が少ないってことなのか?」
詰め寄る巳白にデイが応える。
「何言ってんの、巳白にーちゃん。 せんせーが転勤なんてある訳ないじゃん」
「だ、だ、だよな?」
巳白がホッと胸をなで下ろす。
「だから、転勤なんかじゃなくて……」
リトが言葉を続けたものだから巳白の顔が強張る。
「じゃなくて?」
「ええと、引き抜きって言うんですか? そんな感じだと思うんです。 何回もラムール様あてに親書が届いてて、そこにテノス国からてでうちに来いみたいな感じで。 そしていつかは分からないけど移る日程も決まっているとかで」
危機感をもってリトは説明した……のだが、こちらを見る彼らの眼差しは【いったい何をもってそんな勘違いを】といわんばかりの顔だった。
「リトちゃん、寝言は寝ている時に言うものだよ」
清流がきつい一言を放ったので思わず弓が援護に回った。
「清流! リトはラムールさんから直接聞いたって言ってるのよ?」
「でも信じてないでしょ、弓ちゃんも」
「え、」
弓、撃沈。 清流は視線を来意に向けた。
「来意は? どう勘じる訳?」
「うん。 何かずれてる勘じ」
『来意に同意』
羽織達は声を揃える。
「え~っ! でも、ホントに聞いたんだって! えーっと、【私はもうすぐこの国からいなくなる】って。 手紙のことも誰にも言うなって釘さされたし、えっと、えっと、そう! 国からいなくなっちゃうと巳白さんの保護責任者とかデイの護りとか、できなくなっちゃうから、だから良い思い出つくらせてくれとか」
リトは思い出せる限りのラムールの言葉を述べた。
「何それ? つまり兄さんやデイを見捨てて待遇のいい国に移ろうってラムールさんが考えてたってこと? そんな考えだったら母さんが会いたくないってのも当然じゃない?!」
「えっ、いやっ、そうじゃなくてっ!」
清流が憤慨し出したので巳白がたしなめるかと思いきや、「やっぱり他の国に……? そんな……でも、いや、ラムールさんがどうしても行きたいというのなら、俺は男として潔く応援して……」と混乱モードに突入。
「んもぅ、兄さんっ! 落ち着いてよ。 冷静になって考えれば分かるじゃない。 リトちゃんのいつもの勘違いに決まってるでしょ!」
逆に清流の方がトーンダウン。
「旅か何かでしょ、どうせ」
「でもそれがどうして、新世さんがラムールさんと会わない理由に繋がるのかがわからねぇぜ」
世尊も首傾げる。
「仮にだぜ、ラムールさんが引き抜きで他の国に行くとしてもだぜ? それって、どこの国だ? ラムールさんが満足する待遇なんて想像つかねぇぜ」
「だね。 せんせーには来年も、ちゃんとテノス国での行事の予定が入ってるよ」
デイが付け加える。
「仮にありえるとしたら、せんせーの故郷のドムール王国の復興ってセンがあるけど、それに行くにしろ、きちんと筋を通して行くと思うんだよね。 コソコソいなくなったりしないと思う。 ってすると、やっぱり、りーちゃんの勘違いじゃないのかな? ね、羽織」
「そうだなぁ。 ラムールさんが国を出て行くとなっても、新世さんなら……元気で頑張るのよって言って励まして見送ってくれると思うから……やっぱり、会いたくない理由が分からないな」
そんなに言われてると、なんとなくリトも何か巨大な勘違いをしているのかと不安になってくる。
確かに、ラムールがこの国を出て行くなんて変すぎるのだ。
すると。
「あ゛ーっ、くそったれめ。 わっからねぇなぁ~っ!」
それまで黙っていた佐太郎が頭をかきむしりながら大声を出した。
「これだから死者との対話は面倒なんだ。 言いたいことも言えねぇくせに好き放題言いやがって!!」
しかも地面をガツガツと蹴りだした。
――ひええ! 佐太郎さん、怒りのボルテージが上がりまくってるっ!!
思わずリト達はお互いの顔を見て冷や汗を流した。
「他っ!!」
佐太郎が雷のように怒鳴った。
「他だ! 他にねぇのか?! ピースが足りねぇ! だ・か・ら、繋がらんっ!!」
思い切り踏み下ろした地面に佐太郎の足が少しめり込む。
「ち、ちょ、佐太郎さ~んっ! 落ち着いて」
デイが声をかけるが、ギロっと睨まれて一歩後退。
「いいか、デイ。 俺はな、分からねぇ謎っつーのが、一っっ番、大の苦手なんだ。 分、か、ら、ん、だっ?! この、佐太郎に分からないことだとっ?! 畜生、面白くねぇ」
佐太郎は腕組みをして、早口で独り言のように続ける。
「新世と一夢の墓がキーワードってことは分かるんだライマにトドメを与えたのはそれに間違いねぇならなら何だあいつらは何故死んだなぜあいつは頷いた何故逃げた逆らった秘密にした」
息もつかずに吐き出す言葉はよく聞き取れない。
「墓――っつんなら、佐太郎のおっちゃん」
アリドがふと思い出したように口を開いた。
「俺な、ラムールさんと会ってたっつったじゃん? この前行ったとき、えーっと、巳白と清流が翼族界から帰ってくる直前になんだけど」
「おう」
「何か雰囲気が良かったんで、そーいや、もうすぐ命日が来ますけど……って言ってみたんだ。 そしたら、【今年は大丈夫ですよ】って言われたんだよな」
弓達が、えっと息を呑んだ。
「【あともう一息だから、俺達を頼りにしてるから魔物退治宜しく】とか何とか。 だから俺は、何かはわからねぇけど、きっと今年は新世さん達の墓に連れてって貰えるんだろーなって思ったから、命日が来るまで陽炎の館に居残ろうって考えたんだよ」
――だから急にアリドが陽炎の館に帰ってきたんだ……
魔物から助けて貰った時に弓に宜しくと言われたにもかかわらず、すぐアリドが陽炎の館に戻ってきたのにはそういう訳があったのだ。
「墓。 今年は大丈夫。 一息。 魔物退治。 国を出て行く。 ……何だ? 繋がらねぇが、なぁんか妙な臭いがしやがらぁ……」
佐太郎が再びリトを見る。
「他にねぇか」
「――」
「あるんだな」
リトの顔色で佐太郎は判断した。
確かに新世が会いたがらない心当たりなら、リトにはもう一つある。
「……あの、これは、誰から聞いたとかじゃなくて、私が勝手に考えついただけで、きっと全然見当はずれになっちゃうと思うんですけど、新世さんがラムールさまに会いたくないのは……」
リトは自分の知る真実を口に出すのにはとても勇気がいった。
しかし、言わない訳にはいかない。
「新世さんを殺したのは、……ラムールさまだから……かと」
重要なピースが、今、姿をみせた。




