8-9 新世との対面~母親代わりではなく
羽織はみんなの顔を見回してから、切り出した。
「俺、ラムールさんから、15の祝いのお祝いの品、もらってる」
「え?! 何それ?!」
清流が驚いた声を上げた。 羽織は新世の方を向いて続けた。
「老師さんの持っていた退魔の剣。 退魔が苦手な羽織にはぴったりの剣だから、み ん な か ら って言って」
新世は目を細めて頷いた。
「……やっぱり、羽織もか」
来意が髪をさらりと揺らしながら呟いて、みんなを見る。
「僕ももらった。 数珠」
となると。
「じ、実は俺もな。 俺は翼族の羽から作られた羽扇子をもらったぜ」
世尊も白状する。
同時に弓がおずおずと手を挙げた。
「私も……。 この、編み棒。 お祝いですよってラムールさんから……」
片手で胸に抱いたあみかけのセーターについた編み棒がしっとりと輝いていた。
「嘘! いつ?」
清流がすぐさま尋ねると、羽織達はお互いに視線を合わせて言葉を飲み込んだ。
黙りこくった彼らの代わりに新世が言った。
「それぞれの誕生日に、でしょ?」
『えっ?!』
デイと清流、リトの3人が揃って驚いた。
だって彼らの何人かは孤児だから誕生日が分からなかったはずではないか。
「弓っ! 弓の誕生日っていつだったのっ?」
リトは思わず詰め寄るように尋ねた。 実際、弓の誕生日のことはリトは知らない。 弓は戸惑いながらリトを見た。
「……説明しにくいんだけど……」
「説明?」
「あのねリト。 誓って言えるんだけど、私、本当に何月何日が自分の誕生日なのかは分からないの。 でもある日、ラムールさんがね、今日はあなたの誕生日ですって。 正確に言うと、貴方が生まれてから1年が15回過ぎた時です、っておっしゃって……」
「???」
「やっぱり誕生してから15年目という節目に渡した方が祝いの品も馴染むでしょうから、品物は渡します、祝い膳はみんなと一緒の日にやりましょうって」
「俺も同じ」
羽織が口を揃えた。
「どうしてそんなことが分かるのか聞いてみたけど、逆算したまでですって言われました」
「逆算?」
「瞬間記憶能力があるから1年間での成長率が分かるからとか……。 難しくて俺にはそれ以上は」
すると新世がクスクスと笑った。
「あの子の特技なの。 お母様の胎内から出た瞬間から、自分の肌の成長ぶりを見ているから自分より年下の子に対しては特に、生まれてどの位の時間が経っているか分かるのよ。 どんなに若く見えても年にみえても、この世に生み出されて呼吸をしはじめてからの時間は変わらないからって。 長い間の法術治療や特殊な環境にあれば誤差は出るそうだけど」
「あー、ライ……ラムールは俺らと見えてるものが違うからなぁ」
佐太郎があきれ顔で頭をボリボリと掻いた。
「ただ一つ、わからねぇのは、どうしてみんなからって言葉が出せたんだ?」
「それは何回か私と一夢が話しているのを聞いていたからだと思うわ。 誰に、どんなものをあげようか、私達とても楽しみにしてたもの。 これをあげて、と伝えはしなかったけど、私と一夢がそこにいたならば渡したと思うものをしっかりと選んでくれたわ」
微笑む新世に対して、一人だけ青ざめた清流が身を乗り出した。
「で、でも! ぼくは何も貰ってない!」
しかし新世は狼狽えたりしなかった。
「清流」
代わりに巳白が清流の肩に手を置いた。
「貰ってるよ」
「嘘! 何をっ?」
「お前の今年の誕生日に、俺が渡したのは何だ?」
巳白の言葉に清流は少し黙って記憶を辿り――
「緑螺旋……」
答えにたどり着く。
「そう。 緑螺旋の使い方が書かれた巻物をやったよな? あれは――ラムールさんがお前のために書き下ろしたものだったんだぞ」
「書き下ろす……って」
「新世さん達が生きていたら必ずお前に授けただろうって。 緑螺旋は新世さんが編み出した術だからって。 それのやり方を清流専用に書いてくれたんだ」
愕然とする清流に、諭すような眼差しで新世が頷いた。 だが清流はもう一度、巳白に詰め寄った。
「で、でも、どうしてラムールさんからじゃなくて?! 兄さんからだったじゃない! 兄さん、これは新世さんからお前にって言ったじゃない! だから僕は」
「素直に緑螺旋を使えるようになっただろ?」
巳白からも諭すように微笑まれて清流は言葉を失った。
「俺から渡してくれって、ラムールさんに頼まれたんだよ。 ラムールさん、自分からじゃ清流は喜ばないだろうからって。 せっかくの15の祝いの品だから素直に喜ばせてあげたいからって」
「……」
「清流」
押し黙った清流にそっと新世が寄り添った。
「緑螺旋、これは本当に私が貴方に渡したかったものよ。 使えるようになって嬉しいわ」
「……でも、母さん」
清流が複雑そうに口を開く。
「だって……だって、それもこれも……ラムールさんが、僕らのことを、そんな……」
色々と誤解をしていることが分かりかけて、清流は上手く言葉を探せずにいた。
すると新世が優しく微笑んだ。
「清流は悪くないわよ。 だってあの子は何一つ、大事なことをきちんと伝えなかったのですもの。 悪いのは誤解をさせてしまったあの子の方だわ」
悪い、とは言いながらも決してそれは嫌悪するような言い方ではなく。
「あの子ね、おそらくここにいる誰よりも人付き合いが苦手で、子供なの」
みんなと視線を合わせる。
「だから貴方達が少し大人になって、あの子のことを優しく見てあげてくれないかしら?」
微笑みながらお願いする様は。
「きっと仲良くなれるわ」
その言葉に、陽炎の館のみんなの瞳がほんの少し同意したのを見て。
――ああ。
リトは今更ながら気がついた。
この、新世の姿は。
「母親代わり」ではなく「母親」なのだと。
すれ違った兄弟を仲直りさせようとしている、「母親」なのだと。




