4-7 親父を殺した奴の手がかり
「ほら。 そこの露店で売っていたカフェラテよ。 甘めに作ってもらったからお飲みなさいな」
数分後。 リト達は城下町のはずれにある人気のない空き地に来ていた。
隅のベンチに腰を下ろしカフェラテを口にする。 甘くて美味しいカフェラテも、今はリトの気分をハイにすることはできなかった。
「気にすんなって」
アリドはトシから奢って貰ったクレープを頬張って何食わぬ顔だ。
「だって」
リトはちょっとふくれて口を開いた。
「あんな態度って、あんまりだと思う」
客、支配人、少女達、とにかく、なにもかもが不快だった。
「アリドが働いて稼いだお金を使ってくれたのに。 拒否するなんて、ひどい。 シンディさん達だって何もしてないのに」
リトがそう呟くと、トシが飲み物を喉に詰まらせかけて目を丸くした。
「トシさん?」
「い、いや。 平気だ、平気。 ……アリドくん、彼女はこういう子なのか?」
「こーゆう奴っす。 おいリト、タダだったんだから儲けたって思ってろや♪」
アリドすら苦笑していた。
そこにシンディが助け船を出した。
「今みたいな扱いを受けるのが普通だから私達は別に何とも思わないけど」
「思わないんですか?! 人助けしたのに文句言われて?」
「翼族に関わる者への扱いはどこでもこんなものよ。 私達だって強制調査するときにはもっと乱暴な手段を取ってるし。 委員会メンバーは嫌われて一人前。 私たちが嫌われれば嫌われるほど翼族も居場所を失うから望むところだわ」
「な‥‥っ!」
「というか、あなたも私の意識を共有していた間は、翼族に関わると面倒だとか、多少はそう感じたでしょ?」
そこでリトは出しかけた言葉を呑み込んだ。
頭の中はスッキリしたが、感じた事や発した言葉を忘れた訳ではない。
翼族と関わることをネガティブに感じていた、それは事実だ。
「あー、それでチョコチョコ、変に思えたのか」
アリドが納得したそぶりを見せた。
「翼族は悪く言われるのが当然とか何とか、リトらしくねーと思った」
「……そんなこと、言ったっけ?」
「あー。 清流の言動に怒ってんのかって思ってたら、翼族全体を拒否してるっぽかったからな。 いつ普通の考えになったんだって、変には思ってた」
「ふ、普通って……」
呆然としているリトを安心させるようにトシが「お嬢ちゃんはそれでいいんだよ」と微笑んだ。
「俺が言えた話じゃないが、お嬢ちゃんが警戒しないでいてくれるってことは、翼族の血というハンデを背負って生きている巳白や清流達にとってはとても嬉しい存在だよ」
リトは返事ができなかった。
清流のことは色んな事を抜きにして、まだ腹はたてている。
しかしまぁ、甥っ子と仲良くしてると信じている様子のトシに対して言うほどのことではない。
ただ、心配するかのようにシンディが視線をリトに向けた。
「でもまぁ気軽に翼族に関わるのだけはおよしなさいね。 危険な相手もいる、それは事実よ」
やっぱりこの人親切だな、と思いながら、リトは素直に頷いた。
「あ、そうだ。 巳白の伯父さん達、今さらだけど委員会メンバーで世界各地を旅してたんだろ?」
危険、という語句を聞いたアリドが身を乗り出した。
「ジン・ウォッカって奴のこと、知らねぇ?」
「……それは翼族かい?」
「いーや。 人間。 裏ハンターだけど」
「裏ハンター? また珍しいものを」
「そそ。 珍しすぎて情報が無ぇから聞いてる」
するとシンディがポケットから手帳サイズの携帯端末を取りだした。
「今、データペースで調べてあげるわ」
その指で滑らかに操作を進めていき、暫くしてその手が止まる。
「あったわよ」
シンディはそう言って携帯端末を差し出した。
その携帯端末をアリドが覗き込もうとした時、リトが思わずアリドの腕を引いて制止した。
「大丈夫よ。 意識に入り込んだりしないから。 これはただの資料」
シンディが苦笑すると、アリドはリトを安心させるように一度視線を合わせてからリトの手をそっと離して携帯端末を受け取った。
そしてその画面を見る眼差しがものすごい勢いで鋭さを増していく。
「この男が殺した奴のリストってある?」
「画面下の経歴を開いて、4項の所までスクロールさせて……あら、使い方、分かってるのね」
アリドの指が淀むことなく動くのを見てシンディは軽く驚くが、当の本人は全く返事をせずにただひたすらにページをめくり、「それ」を探した。
「……あった。 コイツに間違いねぇ」
アリドの手が微かに震える。 リトが覗き込むと、そこには褐色の肌をした、顔中が傷だらけの屈強そうな男の写真が載っていた。
「この人って……」
「俺の親父」
そう告げる瞳が懐かしさで微かにうるんでいた。
「ジンが親父を殺した時、俺はまだ小さかった。 正直、ジンの顔だってうろおぼえだ。 裏ハンターだと奴が名乗らなかったら、俺は親父を殺した奴の手がかりは何も残らなかった」
アリドは独り言のようにつぶやくと、ページをもどり、「ジン・ウォッカ」のトップページに進んだ。
アリドが上目遣いでシンディを見た。
「……この携帯端末、流石に貸しては――」
「出来るわけ無いでしょ」
シンディがばっさりと却下する。
「アリドくん、ほら、使いたまえ」
トシが差し出したメモ帳と筆記具をアリドは慌てて受け取ると、その内容を写し始めた。
リトは邪魔にならないように、そっと隅からその携帯端末をのぞき見た。
そこには二十台前半だろうか、黒髪で三白眼の男の顔写真が載っていた。
「この人、ずいぶん若いんですね」
「昔の写真でしょ。 情報更新日がものすごく前だから。 今はもっと老けてるでしょう」
「この写真ではオルラジア国軍の詰め襟を着てるから、裏ハンターになる前は兵士だったんだな」
シンディとトシも覗き込みながら頷く。
「だから子供がいる情報も載ってるんですか。 へぇ、男の子ふたり……」
――あれ?
リトは小さく首を傾げた。
ジン・ウォッカを、見たことある顔だと感じたのだ。
この人物ではない、似た感じで。 黒髪で、独特の雰囲気をかもし出す三白眼。
「よしゃ、全部書いた」
しかしその時、アリドが全てを写し終わり、携帯端末を閉じた。
「ねぇ、おネーさん? この端末って委員会メンバーなら誰でも持ってるわけ?」
「誰でも持てるけど、開示される情報には差があるわよ。 後は各地の国立図書館にも固定型が設置されているけどね。 パスワードが必要だから君には無理」
悪戯を思いついた男の子をたしなめるように、シンディが軽く笑いながらアリドの手から携帯端末を取り上げる。
「そっか。 やっぱ、あるとこにはあるんだなぁ」
ちょっと残念そうにアリドも笑った。
そんなやりとりをしている彼らを見ながら、リトはやはり思ってしまった。
さっきの店の人達は、やっぱりイヤだったな、って




