小さな影 6
翌日――
「……行っちゃうんだね」
「ああ。世話になった」
「お世話になりました」
礼を言う二人に、千乃はかぶりを振る。
「ううん。いいの。それより……大和」
「ん?」
「これ」
千乃が紙袋を手渡して来た。
中にはいくつか薬が入っている。
「……これは……」
「あたしが調合した薬。ちょっとした怪我や病気の時、役に立つハズよ。アンタは頑丈だから心配無いんだろうけど……小夜ちゃんにはあった方が安心でしょ?」
「…………」
「わ~♪ ありがとう♪」
どこか引っ掛かる言い方ではあったが、大和はその袋を受け取る。
「……悪いな。色々気を遣わせて」
「気にしないで。好きでやってる事だから」
「……そうか」
「あ。そうだ。思い出した」
――と、千乃は唐突に言ってきた。
「大和。アンタ、人捜してるんでしょ?」
「……その事話したか?」
「小夜ちゃんに聞いたの。それより……あたし……その人見たかも」
「!」
その瞬間――大和は目を見開く。
千乃の肩を掴み、
「本当か!?」
「う……うん。まぁ……本人かどうか分からないけど……似たような感じの人を……」
「いつ何処で見た!?」
あまりにも必死な様子の大和に驚きながら、千乃は口を開く。
「……一ヶ月くらい前かな。ウチに客として来たんだよ。勿論……“あっち”のね。その時の物はごくありふれた物で、数も少なかったからすぐお金渡して、それで終わりだったんだけど……思い返してみれば……そういう人だった気がする」
「……一ヶ月前……」
小さく呟き、
「そいつが何処に行くとかは……訊いてない……よな」
「……うん。このテの仕事してる人は大抵訳アリだからね。必要以上に踏み込まないのがお約束だし」
申し訳なさそうに千乃が頭を掻きながら、
「ゴメンね。ちゃんとした情報じゃなくて……」
「……いや」
大和は千乃から離れる。
「そういう話が聞けただけでも……良かった」
「退治屋ならある程度調べられるから、あたしも何か情報集めておくよ」
「……ああ。ありがとう」
大和が礼を言うと、千乃は視線を逸らし、軽く頬を掻いた。
「何か……大和にお礼言われると照れる」
「……何でだ……」
「いやぁ……なんとなく」
千乃はかぶりを振って、手を差し出す。
「ま、なんだ。早く見付かると良いね」
彼女が差し出してきた手が握手を求めているのだと気付き、大和は指先が触れる程度に握手する。
「今度この町に来たらまたウチに寄ってよ。その時はお茶でも飲みながらゆっくり話しましょ」
「ああ」
大和が頷いた瞬間――千乃はさっと大和に近付いて、耳元で囁いた。
「……二人っきりでね♪」
「……へっ?」
間の抜けた声をあげる大和から、千乃は素早く離れ――笑いながら手を振る。
「じゃ、風邪引かないように気を付けてね♪」
「うん! ありがとう!」
「…………」
小夜は両手をぶんぶんと振って、千乃に別れ告げた。
ふと、こちらに視線を向け、
「……どしたの? 大和」
「……何でもない。行くぞ」
踵を返し、速足で歩く大和に、小夜は駆け足で付いてくる。
「あっ! 大和! ちょっと待って!」
大和は歩きながら考える。
一ヶ月前なら、もうこの辺りには居ないかもしれない。
もしかしたら、この辺りに住んでいるのかもしれないが、何処から来て、何処に向かったのかが分からなければ足取りを追う事も出来ない。
それでも――……
(それでも……やっとそれらしい話が聞けた)
今まで似たような人間を見たと言う話さえ聞けなかった。人々は大和を恐れ、近寄ろうとしない。
それがやっと繋がった気がした。
背中どころか、影すら見えないが……
(……斬影)
まだ――どこかで繋がっている。
大和は顔を上げ、真っ直ぐ歩き続けた。




