7 偽物の女神
「安心して、この子はすぐ元気になるよ。それに、貴方も元気にならないとダメだよ。奥に食事が用意されているから、少しは食べなさい。」
声の主は大きな天使の羽が生えている。服はスカートがバルーンじょうに大きく広がったドレスを着ていて、黄金にかがやく髪は美しい。
「え!?神様!!!失礼致しました!私は余市レイです!あ!ほんとにありがとうございますもう、何から何まで、」
「そんなに硬くならなくても良いよ。それに私は勝手に神様名乗ってるだけだから。」
純白の羽は照明の光を反射し、輝いていて、美しい。私が見とれていると、
「今日はもう暗いし、夜は冷えるから今日は泊まっていきなさい。ほら、食事が冷えちゃうよ!早く行こ!」
セイレナはそう言い私の手を引く、私はベットに寝ているハイビスカスに
「じゃあ行ってくるね」
そう言い、部屋を出た。
廊下を抜け、大きな扉を開くと、広間に出た。テーブルの上には食事が並べられていて、信者の人たちがグラスに飲み物を注いでいた。
「じゃあ私は用事があるから食事を楽しんでね」
セイレナはそう言い、部屋を出た。
「はい!ありがとうございます!」
ミクトはお酒を飲み、もう出来上がっているようだ。
「お主、遅いのら、ほれ飯が冷めるろ。はよ食うのじゃ。ヒック」
ミクトは相当酔っているようだ。
「ミクト〜飲みすぎだよ?身体に良くないって。呂律も回ってないし、」
私はそう言い、席に座る。
「妾は大丈夫なのら。わらわは変化のミクトじゃぞ?それに何百年も生きておる。酒なんぞで死ぬ事はないのじゃ!」
「けど、ちゃんと酔っ払ってるじゃん。寿命が長くても、身体は大事にしないと後々大変な事になるよ?」
私はため息をつく。ふと、飲み物が入ったグラスを持ち上げると、天井の大きな照明の光がグラスに反射し、輝いていた。私はそれをグビっと飲み、
「じゃあ食べるか!いただきまーす!」
私はトラヴエルとコクネシスを持ち、料理を食べた。
食事も終わりに差し掛かる頃、セイレナがやって来た。
「どう?食事は楽しめた?」
セイレナは優しく微笑む
「はい!すっごい美味しかったです!この四角い野菜みたいなのがめっちゃ美味しかったです!」
「良かった。ちなみにハイビスカス王女の容態は大丈夫そうだよ。まだ眠ったままだけど。念の為抗磁源薬を投与しておいたから。今日中に目が覚めたら、明日には旅を再開出来ると思うよ。」
「ほんとに何から何までありがとうございます。」
私は頭を下げる。
「いやいや、人助けが私の役目みたいなものだし。それしか私には出来ないから。今日はハイビスカス王女と同じ部屋で休むといいよ!そのほうが安心出来るでしょ?」
セイレナはまじで優しい。流石神様だ。そんな感じで私達は部屋に戻り、眠りについた。だが、
ガタン。ドアが開く音で目が覚めた。
「ん?なんの音?」
目を開くと、なんと寝ているハイビスカスの周りを信者の男達数名が取り囲み、ハイビスカスの首元に刃物を当てていた。
「え!?は、ハイビスカス!!!」
私は驚きで声を上げる。そして、男達に気づかれてしまった。
「お前!?なぜ起きてっ、、」
「妾も起きておる。」
ミクトは素早く男達に腹パンし、男達は取り押さえられた。部屋の明かりを付け、男達をロープで縛る。ミクトは随分と慣れた手つきだ。
「さて、なぜお主らはこの娘を殺そうとした?セイレナの指示か?」
ミクトは男達にそう問う。まるで圧迫面接のようだ。
「セイレナ様の指示ではない!!!」
「セイレナ様は関係ないのだ!この女が悪い!」
「このハイビスカスロワール、この女の一族のせいで、俺達の、みなの村が滅んだのだ。」
男達は口々にそう言う。
「えーっと、ハイビスカスの一族?なにか悪い事したの?」
ロワール王家は何をしたのだろうか?
「洞窟王国ロワール、この国は高樹の森に危険な磁源を垂れ流し、周辺地域に大きな被害をもたらしているのです。」
男は俯きそう言う。
「それで、俺の娘は、その濃い磁源で、しっ、死んだのです。」
その言葉には悲しみだけじゃない、大きな憎しみが込められている。そう感じた。
「そうか。じゃが、王女を殺そうとした事には変わりは無いのう。それにお前らの焦り用、セイレナも関係してそうじゃのう。ま、そこは本人に聞くとして、お主らはロワール王国に突き出すとするかのう。」
ミクトの顔は酷く冷たい表情をしていた。
「まって、ミクト。けどこの人達の言い分もわかる。ハイビスカスには悪いけどロワール王国の王家も悪いと思うの。けど、ハイビスカスを殺そうとするのはダメだけど、けどその人達をロワールに突き出したら、きっと死刑だよ」
「じゃがの。これを許してしまったらこやつらはまた、同じような理由で王家を殺そうとするぞ?それにのう、ロワールの周辺王国も、濃い磁源に悩まされ、ロワールと似たような事をやって何十万の国民を守っておる。妾はこの愚か者達の味方はせんぞ?」
ミクトは男達を睨みつける。
「ほれ、はようセイレナの居場所を吐くのじゃ。」
「ひぃぃ!」
「セイレナ様神殿の奥の祭壇のある部屋に居るはずです。」
「わかったのじゃ。ほれ、お主行ってくるのじゃ!!」
ミクトはドアの外を指さし、私にそう言った。
「うん。わかった。」
私は走って部屋を出た。
セイレナもハイビスカスを恨んでいるのだろうか?それに私達を助けてくれた信者の人たちも。不安だ。私は祭壇がある部屋の前まで着き、1呼吸置いてからドアを開けた。
「!?!?セイレナさま!!」
私は驚きでつい、そう叫んでしまった。ドアを開けると、なんと祭壇の上に立ったセイレナが紐を首に掛け、首を吊ろうとしていた。
「あれ?見つかっちゃったね、」
セイレナの目からは涙が溢れていたが、顔はにこやかな笑顔があった。月光が窓から入ってきて、涙はキラキラ輝いている。
「セイレナ様?一体何を、」
私は驚き、ストレートにそう聞いてしまった。
「ん?えーっとねぇ、本当の神様になろうとしたんだよ!」
セイレナはしばらく考えたら後、ニコッと笑いそう答えた。
「セイレナ様は神様ですよね?自殺する事で神様に?」
どうゆう意味だろうか?セイレナの意図が読めない。
「僕はね、本当は神様じゃなくてね、母様に造られた、いわゆるハーピって生き物でね、ある日信者の人に見つかって無理矢理神様にされちゃって、けど名ばかりの神様でね、僕には神聖な力なんてないし、けどね最初は嬉しかったんだよ?みんなが僕を見てくれてて、こんなに大きな神殿まで建ててくれてさ、」
セイレナは悲しそうに遠くを眺める。
「けどね、僕、神様になってねこの世には神様なんて存在しない事に気づいちゃったんだ。今まで、どうして気づかなかったんだろうね?ちゃんと考えたらわかる事だったのに。僕はね、沢山の神殿を周って、神殿の神様が居る扉を開いてさ、祠の扉も開いて、聖域とされている所にも踏み入れて、けどね、そこには何も無かったんだ。どの扉の奥も空だった。聖域の奥にも何も無かった。そこには神様なんて居なかったの。なのにね、信者のみんなは何も無い所に頭下げて崇めてさ、何も知らないの。馬鹿みたいでしょ?」
セイレナは頑張って笑顔を作ろうとするが、涙がこぼれてしまう。
「セイレナ、」
私はその姿を見て、そう名前を呼ぶ事しか出来なかった。
「でね、神様は存在しないものの事を言うんだったら僕も消えちゃえば本物の神様になれるかなって、思ってさ調べて、なるべく静かにさ、術も使わない方法でいこうと思ったけど、やっぱり死ぬのは怖いね。やっぱりさ僕は偽物の神様なんだなって身に染みて分かったよ。」
セイレナは天を仰ぐ。涙が溢れるからだろうか?
「私はセイレナ様は本物の神様だと思います。」
私はそう断言した。セイレナは目を見開き、私を見る。
「どうしてそんなこと言えるの?僕は神様じゃなくてただの鳥だよ。化け物だよ?」
セイレナの大きな翼は月明かりに反射して銀色に輝いている。
「だって、神様の定義なんて人それぞれ違うじゃないですか。確かにどの神様もこの世には存在しません。それに、私の世界には、物に神様が宿ってるという考え方があります。ただのデカイ石ころや、鏡にだって、私達は頭を下げるんです。私は人々が神様だと崇める存在は神様だと思うんです。」
私はセイレナの手を強く握り、そう言った。セイレナは驚いた表情をした後、また、目に涙を滲ませた。
「本当に君は励まし上手だね。ごめんね、僕も馬鹿みたいな事してるなって分かってたんだ。信者のみんなに嘘ついてさ、頑張って笑顔を作って、一人称まで変えてさ。辛かったんだ。僕が僕じゃないみたいってずっと思ってたの。けど、レイが止めてくれたから。僕は僕として生きることに決めたよ。」
セイレナはニカッと笑う。その笑顔は何かが吹っ切れたような、今までとは違う、元気な笑顔だ。
「そう。良いじゃん」
私も微笑む。今までのセイレナは完璧な神様なイメージだったが今のセイレナは人間味がある。
「あと!セイレナ様よりミクトの方がずっと化け物ですよ!」
「確かに。ふふっ。」
良かった。セイレナは心から笑っているようだ。
「誰が化け物じゃ?」
突然、ミクトの声が響いた。声が聞こえた方を見ると、ミクトが私達を睨んでいた。
「みっ、ミクト!?いつからそこに!?」
私は驚く。
「お主がそこの 『女神』の手を握り始めた所からじゃ。まったく。お主ら随分と仲良くなったのう。」
ミクトは超不機嫌のようだ。ずっと私を睨んでくる。
「ねぇ?もしかしてミクトさ、ヤキモチ妬いてる?」
私はふとそう聞いてしまった。やべ、殴られるかな。そう思ったが、飛んできた拳は優しかった。
「妬いてないわい!!」
どうやら図星のようだ。ミクトは猫パンチレベルの威力のパンチを私の顔に当てる。顔に肉球が当たり、最高の気分だ。
「あれ?なんかめっちゃ眠くなってきた。」
恐ろしい肉球パワーと長時間の夜更かしによる疲労で、私は突然の睡魔に襲われ、瞼が重くなり、そのまま眠りについてしまった。
「フガッ!?」
目が覚めると、部屋のベッドで寝ていた。
「身体がだるい、」
一体何十時間寝ていたんだ。頭がぼーっとする。私は重い体を起こし、部屋を出ようとすると、あれ?ベッドにハイビスカスが居ない。やった。ハイビスカスが復活した!!私は大喜びで廊下に出る。そして食堂へ、ダッシュでむかう。大きな扉を押し開けると、ハイビスカスは食事をしていた!
「ハイビスカス!!!!」
私はハイビスカスをぎゅっと抱きしめる。
「無事で本当に良かった。」
「本当に心配かけたね。ごめんね。あっ、そうそう今まで起こった事は全部ミクトから聞いているよ。大変だったんだね。」
ハイビスカスは微笑む。
「そうそう!大変だったの!」
ハイビスカスの隣に座り、私も食事を始める。
「ハイビスカス。あの暗殺未遂の信者の人たちって、やっぱりロワール王国に連行するの?」
王家をましてや、王女を暗殺しようとしたのだ。死刑は免れないだろう。
「そのことなんだけどね、実は僕が目覚めてすぐに女神セイレナ様がね、僕のところに来て、見逃して欲しいってお願いされちゃったんだよ。ま、ロワール国民の為とはいえ、濃い磁源で、周りの村達に被害をもたらしていたのは事実だ。だから周辺の村はロワールに引っ越して貰って、暗殺未遂の信者達は無罪って事になったんだよ。」
安心した。だが、暗殺を企てる程の恨みがある人々をロワールに住まわせても大丈夫なのだろうか?
「ふん。この娘意外と腹黒じゃのぅ。ロワールに住まわせて労働力として信者達を働かせる気じゃろ?そのついでに再発防止で監視も付けるのじゃろ?お見通しなのじゃ。」
ミクトは不機嫌そうだ。
「えー、そんな事考えて居ないよ〜」
ハイビスカスはニンマリ笑う。本当に考えていそうだ。
大きな扉が開き、入ってきたのはセイレナだ。
「ハイビスカス王女。この度は私のお願いを受け入れて下さり、本当にありがとうございます。」
セイレナはそう言い、ハイビスカスに頭を下げる。
「いやいや、待ってよ、君は女神でしょ?僕に頭を下げないでよ!」
ハイビスカスは驚く。
「いえ、王家に頭を下げるのは当然の事ですよ。そして、レイ。私を救ってくれて本当にありがとう。おかげで、自分が分かった気がする。」
そしてセイレナは私の手をぎゅっと握り、感謝した。
そんな感じで、食事は終わった。
「そういえば、君たちは、高樹の森に向かってるんだっけ?」
セイレナはそう聞いてきた。
「そうそう。その高樹の森に住んでいるリピティーに会いに行くんだ。」
「えっ!リピティー母様に会いに行くの!?」
セイレナはそう言う。
「母様!?」
私達は驚いた。




