13 少女のオーロラ
17年前。ロワール王国。そのお城の一室からは一つの産声が響いていた。母親はこの国の妃だった。母親が両腕に抱いているのは2人の赤ん坊。双子だ。片方は産声を上げ、もう片方は白髪に左右で目の色が異なっているオッドアイの赤ん坊。そして、産声を上げず、じっと母親を見つめている。そして、その母親に寄り添う男がいた。2人の赤子の父親、この国の王。アハントロワールだ。アハントは2人の娘を見て、涙ぐむ。
「2人とも、無事に生まれてくれて本当に良かった。それにカメリア、本当によく頑張った。2人を産んでくれてありがとう。」
アハントは妃、カメリアロワールにそう言い、3人を抱きしめる。この家族は愛に溢れていて、とても幸せそうだ。だが、カメリアは片方の赤子の事で心配な事があるようで、すこし表情を曇らせる。
「この子、髪の色が白いわ。それに目の色も赤と紫なんて、もしかして精霊病にかかっているのかもしれないわ。」
カメリアは心配そうに赤子の1人を抱き上げる。アハントはもう片方の赤子を抱き、こう告げる。
「精霊病、体の時が止まり、死ぬ病気か。だがな、この辺の磁源はとても微量だ。それに腹の中に居る子供より、母親の方が先に精霊病に掛かるはずだ。見た目が似ているだけで精霊病では無いとは思うが、一応気をつけておこう、」
「そうね。」
夫婦は心配そうに娘を眺めた。双子の片方はハイビスカスと名付けられ、もう片方はノルアと名付けられた。双子は親の愛情を受け、すくすく成長し、3歳の誕生日を迎えた。お城では幸せな誕生日パーティが開かれ、2人の娘達を祝福する。
「ノルア、ハイビスカス。3歳の誕生日おめでとう。はい。誕生日プレゼントだよ。開けてみなさい。」
アハントは双子にプレゼントを差し出す。
「わぁ!お父様!ありがとうございます!」
「何が入ってるのかな!」
双子は喜び、プレゼントを開けた。中に入っていたのは二人で色違いのうさぎのぬいぐるみ。ハイビスカスはそれを見て喜んだが、ノルアは気に食わなかったようだ。
「ノルアは、ドレスが良かった。」
ノルアは俯き、そう言う。
「え!そうだったのかい!?ごめんな。ドレスならまた次の誕生日に買ってあげるから。」
アハントはそう言い、ノルアの頭を撫でる。だが、ノルアはその手を跳ね除ける。
「次じゃヤダ!今がいいの!お姉様と一緒のドレスが良いの!」
ノルアは涙を流し、そう叫ぶ。
「けど、ぬいぐるみ一緒だよ?」
ハイビスカスはノルアにそう言う。
「やだ!やだ!ドレスが良いの!!お姉様と一緒!!!おなじのが良いの!!!」
ノルアは泣き叫び、うさぎのぬいぐるみを床に叩きつけた。
「ノルア!いい加減にしなさい!」
カメリアは席を立ち、ノルアを叱りつける。ノルアは床に伏せ、もっと泣き喚いた。
「わぁぁぁ!!!やだ!!おんなじの!!!おんなじの!!!」
ノルアは手足をジタバタし、泣く。それをみたカメリアは、さらに強くノルアを叱りつける。
「ノルア!起き上がりなさい!王族なのにみっともない!ノルア!お誕生日に貰ったものは大切にしないとダメなの!聞いてるの?」
カメリアが泣き叫ぶノルアの手を掴もうとした瞬間、空気が揺らいだ。と言うよりかは、一瞬だけ、時が止まったようだった。明かりの炎は消えかかり、締め切っているはずの部屋に風が吹いた。そして、部屋にはオーロラが漂っていた。緑や紫に輝くオーロラ。だが、レイが転移して来た時よりかは薄い色をしていた。そのオーロラに触れてしまったものは皆、髪は白髪に染まり、目は赤や紫に変わっていった。
「精霊病だ!」
パーティに参加していた貴族たちはそう言い、逃げ惑う。アハントはカメリアの方を見る。すると、カメリアはその場から消えていた。まるでその場に最初から居なかったかのように。ただその場に残っていたのはカメリアが着ていた衣服のみ。どこかに転移したかの用だった。アハントはその様を見て、驚く。
「カメリア!!カメリアは何処へ行ったんだ!?」
アハントはその場に残ったカメリアの衣服を握りしめる。状況が上手く飲み込めていない。戸惑った表情だ。
「ノルア?一体何をしたんだ?、」
アハントはノルアの方を見る。
「お父様、お母様は?、ノルアに触ったらきえちゃって、なんで?なんでなの?お母様はどこに行っちゃったの?」
ノルアの目は虚ろだ。
「ノルア、お前は、、、」
アハントは何かを言いかけたが、ノルアの後ろの光景を見て驚愕する。なんとハイビスカスがオーロラに触れようとしていたのだ。
「わぁ、きれー」
ハイビスカスは、初めて見るオーロラに目を輝かせ、そのオーロラに手を伸ばす。アハントはすぐに立ち上がり、ハイビスカスの元へ走る。
「お父様、、!ノルアはなんでぇ、」
ノルアも目に涙を貯め、アハントに抱きつこうとするが、アハントに突き飛ばされ、尻もちを着いてしまった。アハントに悪気があった訳では無い。ただ、目の前で娘が危ない状況に陥っているとき、父親は周りが見えなくなるものだ。だが、ノルアにはそれが拒絶されたように見えたらしい。
「お父様、なんでノルアを突飛ばすの?ノルアがお母様を消しちゃったから、、、お父様は怒ってるんだ、、!」
幼いながら、ノルアは自分がやってしまった事を理解する事が出来た。そして、ノルアは父親が姉を抱き抱え、自分が出したオーロラから逃げ惑う様子を目の当たりした。この光景が、ノルアの性格を歪めていった。
「お父様ぁぁあああ!!ノルアは、、、ノルアを助けてぇぇ、、!!」
ノルアは泣き叫ぶ。だが、自分の父親はただ、自分を見つめるだけで、抱きしめてもくれない。
「たすけて、、」
ノルアは力尽きて、その場で倒れてしまった。その目には涙が溢れていた。
そして、この事件はノルア事件として、国中で語られる。
「ノルア王女は危険な存在だ!」
「ノルア王女のせいで!!」
国の貴族や、民たちはノルアを非難し、処刑するという話まで出てきていた。だが、アハントはその話を一切受け入れず、ノルアを幽閉するという事で収まった。そこから、いつの間にか、精霊病はノルア病と呼ばれるようになった。
ノルアが目覚めると、そこはいつものお部屋じゃない天井が見えた。なんだか、暗くてどこか汚らしい天井。
「ここ、どこ?、」
ノルアが起き上がると、ジャラ。なんの音だろうか?ノルアが手元を見ると、手には鎖のついた手錠がかけられていた。それに、この部屋は牢屋のように見える。ノルアはまた、目に涙を溜める。
「ここ、ろうや?ノルアが悪い事したから、閉じ込められちゃったのぉ、?」
ノルアは暗い牢屋の中で、嗚咽を漏らし、静かに泣く。3歳の娘には、この牢屋は暗く、とても怖い物に映るだろう。なのにノルアは牢屋の怖さより、自分の罪に向き合い、泣いた。カメリアの教育の賜物だろう。3時間ほど経っただろうか。ノルアが孤独に押しつぶされそうな時、牢屋に明かりが灯された。その光に目を細めていると、そこに居たのは一人の女騎士だった。
「あなた、だれ?」
ノルアは鼻声のまま、そう聞いた。
「初めまして、ノルア様。私は、ノルア様の新しいお世話係に任命された、ダルクと申します。」
女騎士、ダルクはノルアに深々と頭を下げる。ノルアのお世話係は今まではメイドが行ってきた。なのに今回は女騎士。ノルアが万が一暴走した時の為に戦える力がある者をお世話係にしたのだろう。
「ダルク、よろしくね。ねぇ、ノルアはなんでこのお部屋に閉じ込められているの?やっぱり、悪い事しちゃったから、、?」
ノルアはダルクにそう聞いた。
「いいえ。悪い事をしたからではありません。ノルア様のお力が、あまりにも強大なので、ノルア様がこれ以上傷つかない為に、陛下がご命令されたのです。」
「ノルアは、いつ出られるの?」
ノルアは牢屋の檻を掴み、そう聞く。
「ノルア様のお力が完璧に制御出来るようになれば、出られるかと思います。」
ダルクは苦笑いする。力を制御する事がノルアには難しい事を理解していたのだろう。
「わかった!ノルアがんばる!!!」
ノルアは目をキラキラさせ、頷いた。
「ノルア様、このお部屋少し暗くて汚くて申し訳ございません。次期に工事が入りますので、少しばかりお待ちください。」
ダルクは笑い、檻越しにのるあを見る。ノルアは純粋で、ただの健気な子供。ダルクにはノルアが貴族35名を精霊病にし、病死させた大罪人には見えなかった。
そこからはノルアは毎日力の制御に心血を注ぐ。毎日。毎日。ただ少しずつ力を使うだけ。だが、ノルアにはそれが上手くいかない。それに、ノルアはずっと父親が部屋に来るのを待ち続けていた。ドアが開く度、お父様かな、?と目を輝かせる。だが、そこにいるのはダルクばかり。家族が来るかもしれないという期待はすぐに砕けていった。
一方ハイビスカスは、毎日、毎日ノルアの部屋だった場所へ立ち寄り、扉の前で、そこには居ないノルアに話しかける。
「ノルア!きょうはね、女王になる為に、磁術の練習をしたんだよ!けど、全然上手くできなくて、ノルアは凄いよね!僕より磁術が上手で!、ノルア?早く元気になってね!」
アハントはハイビスカスにノルアが病気だと伝え、近ずかないように言ってある。幼いハイビスカスはノルアが殺人犯だとは知らず、ノルアに話しかけていた。廊下の奥からハイビスカスを探していたメイドがやってきた。ハイビスカスの教育係だ。
「ハイビスカス様!貴方は将来、女王になり、この国を守る方なのですよ!早く磁術のお稽古の続きを致しますよ!お部屋に戻ってください!」
メイドはそう言い、ハイビスカスの手を引っ張る。
「僕よりもノルアの方が磁術が上手じゃないか。僕なんて、磁術が全然使えないのに、なんで僕なんだよ!ノルアの方が、僕よりずっと優れてるのに!」
ハイビスカスはそう言い、足元を見る。メイドはすこし返答に困り、口篭るが、
「ハイビスカス様は長女でございます。そして将来この国を継ぎ、女王になられます。それは例えノルア様が優れていても変わりません。ほらお稽古行きますよ!あと、その一人称はおやめ下さい。せめて私やわたくしにしてください!」
メイドはそう言い、ハイビスカスを連れて行った。
さらに10年が経過し、ノルアは13歳になった。牢屋はだいぶ改装され、お城の客室と変わらない。そして沢山の絵本や人形が床に散らばり、数枚ページが破れている物もある。ノルアには欲しい数だけ、物が与えられているようだ。そして、机の上には、綿がほじくられたうさぎのぬいぐるみが置いてあった。
「ねぇ、ダルク?ノルアはまだお父様やお姉様に合えないの?いつ出られるの?もうノルアは力を3年間使ってないよ?」
ノルアはベッドの上で座り込み、ダルクに話しかける。その目には絶望を感じる。
「ノルア様。申し訳ございません。出す事はできません。ノルア様のお力をお使いになられてないことは素晴らしいのですが、ノルア様から溢れ出ている濃い磁源が問題なのです。磁源は危険なのです。なので陛下にもハイビスカス様にも合わせることは出来ないのです。本当にごめんなさい。」
ダルクの目の下にはびっしりクマがあり、笑顔は引き攣り、表情は強ばっている。昔のノルアはその事を聞く度、毎回早く会いたいなぁ!と心踊らせていたが、今のノルアは、
「、、、、もう、やだやだやだやだやだなんで?どうして、?ノルアはノルアは、なんで?出られないの?こんな部屋、、もうなんで、、やだ、やだあ"あ"あ"あ"!!!!出たいのにぃぃぃ、わぁぁぁあああぁ、!!!!」
ノルアは頭を抱え、うずくまり、泣き叫ぶ。その声は部屋の外からでも聞こえる程だ。ダルクはノルアを落ち着かせようと、ノルアに話しかける。
「ノルア様、落ち着いてください!大丈夫ですから!」
ノルアはダルクを睨む。
「大丈夫?大丈夫じゃないの!!!ノルアは、お姉様に謝って、早くお外に出たいのにぃい!!!このまま、窓もない部屋に閉じ込められて、、息苦しくて、夜はずーっとひとりぼっちの部屋に居たくないのぉ!!ねぇ、ダルク!ノルアをここから出してよ!!助けてよぉ!!!」
泣き叫ぶノルアをダルクは無表情で見つめる。
「ノルア様。申し訳ございません。私は陛下の元へ報告に行かなければなりません。用が済んだら戻って参りますので。では、失礼いたします」
突然そう言い、ダルクはそう言い、アハントの元へ向かった。
王座がある謁見の間へ入ると、王座にはアハントが座っていた。
「おう、ダルクか。どうだ?ノルアは?元気か?」
アハントはダルクにそう聞く。ダルクは笑顔をつくり、
「はい!ノルア様はお元気ですよ!ですが、ノルア様は牢屋から出たいと仰っております。」
「そうか。たがな、ノルアの力は危険すぎる。何度も言うが、ノルアにはまだ難しいと言っておいてくれ。」
アハントはノルアの事を忘れたがっているように見える。まるで腫れ物を扱うかのようだ。
「、、、、かしこまりました。」
ダルクはそう返事し、部屋を後にした。
そこからさらに4年が経過し、現在、レイが転移してきた年になる。ノルアは17歳になり、美しく成長した。ノルアは牢屋で、綿がほじくられていた、あのうさぎのぬいぐるみを持ち、針と糸で器用に縫い、うさぎのぬいぐるみを綺麗に治した。
「ダルク!みて!うさぎさん治したの!!」
ノルアは笑顔でダルクにぬいぐるみを見せる。
「わぁ、凄いですねノルア様。ですが、ぬいぐるみの中身に何を入れたのですか?綿はご用意してませんでしたが、」
ぬいぐるみの綿はもう捨てたはずだ。他に代わりになるものなんて無いだろう。
「それはね!私の髪の毛を詰めたの!これでこの子はノルアになったの!」
ノルアは満面の笑みでそう言う。ノルアの髪は元々床に着くほど長かったが、いまは胸下ぐらいの長さに切られている。自分で切ったのだろう。
「そうですか。そういえばノルア様が書いたお手紙、陛下は受け取ってくれませんでした。」
ノルアはアハントに手紙を書き、ダルクに渡して欲しいと頼んでいたのだ。アハントはもうノルアに関わりたくないと手紙を受け取らなかった。それにダルクはアハントの前でノルアの話をするなと命令された。
「、、、、、そうなんだ。あ!ノルアがお母様をどこかにやってしまったから、お父様は怒っているんだ!じゃあ!お母様を連れ戻せばお父様は喜んでノルアも出してもらえるかも!!!」
ノルアは立ち上がり、目を輝かせる。
「ノルア様。お力を使ってはいけませんよ。もし使えば一緒このお部屋から出す事は出来ません。」
ダルクはきっぱりとそう言う。
「では、私は用事がありますので。失礼します。」
ダルクは部屋を出た。ノルアは檻を掴み、ダルクに手を振る。
「ダルク!寂しいから早くもどってきてねー!」
ノルアは椅子に座り、考える。
「ノルアは多分お母様をどこかに転移させてしまった。どこに転移しちゃったか分かればお母様を連れ戻せる!よし!やってみよう!」
ノルアは目を閉じ手を開く。ノルアは自分の磁源を遡り、母親を探す。そして、母親がどこに転移してしまったのか、判明する。
「お母様!!見つけたぁぁ!!」
ノルアは目を開き、母親を連れ戻そうとし、力を使う。ロワール王国にはオーロラが浮き上がり、レイの世界にもオーロラが浮き上がった。
「えい!」
ノルアがそう言うと、、、何も起こらなかった。
「あれ?失敗しちゃった?、、、、。」
ノルアは転移に失敗してしまった。そしてレイはこの世界に来てしまったのだ。部屋の扉が開き、ダルクが走って来た。
「ノルア様!お力を使ったのですか!?!!」
ノルアは静かに頷いた。
「!!?だめではないですか!ノルア様、1度お力を使ったらもう二度とこの部屋からは出られないのですよ!!!」
ダルクは叱る。ノルアは目を見開き、泣き叫んだ。
「だって、だってぇ、お母様が戻って来たら、お父様も、お姉様も、幸せになって、ノルアも幸せになってぇぇ、ノルアも外に出られるかもしれないっておもったのに、、失敗しちゃったぁぁあああ!」
そこから数ヶ月が経過し、ノルアが暴走した日の事、、
「お父様ぁぁ、ノルアをここからだしてよぉおぉ!!寂しいよ、辛いよぉ、誰か、ダルク!助けてよぉ、ここからノルアを出してよぉお、!!」
ノルアはあの日からずっとこの調子で泣き続けている。ダルクはただ、ノルアを見つめる。騎士団で研鑽を積み、騎士団長にまで上り詰めたダルクの精神力はとても強い。だが、それももう限界だ。ダルクにはもう耐えきれない。ダルクは鍵を取り出し、牢屋の扉を開いてしまった。その手は震えていた。




