女の父親との出会い
ダフネという少女に出会い、なんとか仕事を見つけられそうだ、
しかも父親は王国一の剣の使い手らしい。
まず信頼をしてもらって、それから剣を教えてもらう方向に進めるといいかもしれない。
せっかくのチャンスだ。
慎重に行こう。
「ここがうちの屋敷よ」
とダフネは言った。
想像より屋敷は小さかった。屋敷と呼ばれる建物には、びっしりと蔦が絡みついていおり、すこしおどろおどろしい雰囲気をかもちだしていた。
「イメージより小さかった?」
とダフネは尋ねた。
「別にそんなイメージはしてない」
と俺は言った。イメージをよくしておかないと。
「お母様。ハチミツ貰ってきた」
とダフネは言った。
家の奥のほうから、母親らしき女性がやってきた。
「ありがとう。この少年は?」
「森でチンピラに絡まれているところを助けたの。強くなるために里を出たんだって。それで働くところと、剣を習えるところを探しているの。だから連れてきた」
とダフネは言った。
「そう。私はいいけど、お父様がどういうかだわね。連れていって聞いてらっしゃい、農場にいるから」
とダフネの母親は言った。
俺は頭を下げ、ダフネについていった。
農場は屋敷より20分ほど歩いたところにあった。
「ここは何を作っているの?」
と俺は尋ねた。
「うちはね。苗を作っているの」
とダフネは言った。
「苗って?」
俺は尋ねた。
「苗というのは、種から少し育てたものの事。例えば木の苗とか、野菜の苗とか、花の苗とかがあるの。たとえば植林をしたいときとか、種から植えると時間がかかるでしょ。でも種から育てた苗を植えると時間もかからない。
種から育てるほうが安くは済むけど、手間も時間もかかる。手間と時間を短縮させたい人たちがうちの苗を買うのよ」
とダフネは言った。
「人で言うと、育ての親みたいな感じ?」
と俺は尋ねた。
「そうよ。うまいこと言うわね。お父様にも教えてあげよう」
とダフネは言った。
そうこうしているうちに、農場についた。
そこはずいぶんイメージと違うものだった。
中央にガラスで覆われた屋敷があり、その周りに沢山の果樹や樹々と、沢山の棚があった。
「ここが農場なんだ」
と俺は言った。
「苗農家はね。すこし特殊だから。ほらあそこの木あるでしょ。あれの枝を切って、砂に差して、水を与えるの。するとその枝から根がでてくるの。これをね。挿し木っていうの。挿し木はね。あの温室で育てるのよ」
とダフネは言った。
「すごい。種からじゃなくって、枝からも木ができるんだ」
と俺は言った。
「そう。特殊な品種の木とかは、種では育たなくって、挿し木でしか増やせないの。ああいう木をマザーツリーと呼んでるわ」
とダフネは言った。
「マザーツリーか……」
と俺はつぶやいた。
「お父様」
とダフネは大きな声を出して、手を振った。
遠くで手を振る男がいる。あれがダフネの父親。王国一の剣の使い手か……。
「お父様。この子はローレル。森で出会ったの。強くなりたいから里を出て、働く所と剣を教えてくれる人を探してるっていうから、連れてきたの。王国一の剣士様のところへ」
とダフネは言った。
「そうか。なにか事情がありそうだな」
とダフネの父親は言った。
「そうだね。あんまり聞かないであげてね」
とダフネは言った。
「あぁ人生いろいろだ。詮索なんかしない。じゃあローレル。今日から働いてくれ」
とダフネの父親は言った。
俺は驚いた。
「えっ。こんなどこの馬の骨かもわからないような子供を、そんなに簡単に雇ってしまってだいじょうぶなのですか?」
と俺は尋ねた。
「ははは。そうだな。じゃあ、君の名前は?」
とダフネの父親は言った。
「ローレルです」
と俺は言った。
「じゃあ採用」
とダフネの父親は言った。
「名前しか聞いてないじゃないですか。なにができるとか聞かないのですか?」
と俺は言った。
だいじょうぶか。この人。俺は心配になった。
「そうか。そうだな。なにができる?」
とダフネの父親は言った。
「猟師と薬師にしばらく世話になっていてので、罠の知識と、弓矢での狩り、薬草と毒草の知識はあります。あとは里の人の手伝いをイロイロしていたので、たぶん仕事はイロイロできると思います」
俺は言った
「すごいじゃないか。じゃあ採用」
ダフネの父親は言った。
「ありがとうございます。しかしそんなに簡単に人を信じて平気なんですか?」
俺は言った
「そうだな。平気だ。
まず、
私はこの王国一の剣の使い手だ。
だから万が一の場合でも戦える。
そして俺は娘の判断を信じているし、妻の判断も信じている。
そして、人を騙そうと思っているものは、君が今言っているような事を言わない。
以上だ。
これで納得したか」
ダフネの父親は笑った。
「失礼しました。ではよろしくお願いします」
と俺は頭を下げた。
「それで雇用の条件だが、住み込みで働いてもらう。部屋と食事付き。それと俺の剣の指導付きで、月3Gでどうだ」
ダフネの父親は言った。
「十分です。ありがとうございます」
俺は言った
「じゃあ。契約成立だな。俺の事は旦那様、妻の事は奥様、ダフネのことはお嬢様と呼ぶように」
ダフネの父親は言った。
「わかりました。旦那様」
俺は言った。
「ちょっと待って。私お嬢様とか言われるの、なんか納得いかないわ」
ダフネは言った。
「じゃあ。なんと呼ばせる?」
と旦那様は言った。
「ダフネか。ダフネちゃんか。そんなところね」
とダフネは言った。
「じゃあ。ダフネの呼び方はローリエに任せる」
と旦那様は言った。
「わかりました」
と俺は答えた。
「じゃあ。ダフネちゃんでいいかな?」
と俺は尋ねた。
「いいわよ。ローリエ。ベイリーフ家へようこそ」
とダフネは笑った。




