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修行

その日から、ベイリーフ家での修行兼住み込みの仕事が始まった。

まずは、ダフネについて挨拶周りをした。

そしてダフネに屋敷でのルールなどについて教わった。


俺がまず任されたのは、単純な肉体労働だった。

苗を運んだり、荷物を運んだり、とにかく運ぶ労働が多かった。

そして一週間後、はじめて修行らしき事を教わった。

はじめての修行は、足運びだった。

「いいか。俺は道場で貴族の子弟に剣を教えている。基本的には貴族だけにしか教える事はできない。だが特別にお前には教えてやる。しかし通常の教え方とは異なる。それは理解しろ。立場上平民に俺は剣を教える事はできないし、師匠という立場にたつこともできない。

まず、剣の基礎は素振りだと思いがちだが、もっとも重要なのは足運びだ。これから俺が良いというまで、暇さえあれば、この足運びの練習をしろ。荷物を運ぶ時も、この足運びを意識しろ。仕事の休憩時間に、道場を外から覗くことは許可する。ただし貴族の子弟に気付かれないように、こっそり覗け。貴族の子弟に気が付かれたら、俺はお前を注意しなくてはいけない。だからばれないようにこっそり覗け。そして見るべきは、まず足運びだけだ。いいな」

旦那様はそう言い、10分ほど、足運びの指導をしてくれた。

俺は言われた通り、その後ずっと足運びの練習を続けた、

あれ以来、旦那様とは一切会話をしていない。

俺は、うまい事利用されただけなんじゃと思いもしたが、信じる事にした。

なんにしろ、今はまだ9歳になったばっかりだ。

他に行くにしろ。心もとない。


ちょうど一年経った頃。

また旦那様に話しかけられた。

「足運びは、ずいぶんマシになった。次は俺が一度我が流派の型を見せる。あちらこちらから細かく見ていい。それを覚えて頭の中でイメージしろ。足運びと同様に、暇があったら、イメージで剣の型をしろ。そして今後道場を覗く時は、型を考えながら見ろ」

そう言って、剣の型を細かく30分ほど見せてくれた。


その日から、足運びの練習にプラスして、イメージでの稽古が始まった。

足運びと違って、このイメージでの稽古は、寝ていても、座っていてもできた。

始めは、すぐに眠たくなったけど、集中力が付き、長時間イメージでの稽古をしても平気になった。

仕事は、相変わらず、肉体労働がメインだった。

イメージの稽古を1年くらい続けると、道場での試合稽古を見ていても、次にどのような攻撃をしかけるか、そういう事が予測できるようになった。

当る時と当らない時があるが、その精度が少しづつ高くなった。


俺は時折、ダフネのお使いにも付き合った。

同世代の子で話せるのはダフネだけで、なんか新鮮だった。

ダフネは旦那様に剣を習っているだけあって、とても強かった。

ある日ダフネが

「ローリエ。足運びがずいぶん上手くなったわね。たぶん結構強くなっているはずよ」

と言った。

俺はとてもうれしかった。

誰かと勝負をしたこともない。足運びを練習し、イメージの稽古をしているだけ。

自信がまったくなかったけど、ダフネに褒められたのがうれしかった。


俺が屋敷に来て、3年目のある日、

旦那様が俺に木刀を手渡しこう言った。

「頭のイメージ通りに型をやってみろ」


俺は、言われた通りにやった。

「よし。まぁ及第点だな。じゃあ。今度はその木刀で型の稽古をしろ。足運びとイメージの稽古は続けろ」

ただそう言われた。


木刀は想像より重く感じたが、まぁ子供だし、筋力もないから、こんなものなんだろうと思った。


仕事は相変わらず、雑用ばかりだった。


そしてまた一年間木刀を振り続け、足運びの練習をし続け、またイメージの稽古をずっとした。そして休憩時間は道場を覗いた。


強くなっているのかどうかはわからなかったが、木刀を振るのが苦ではなくなっていった。


俺が屋敷に来て、4年目のある日、

旦那様が木刀を持って、こう言った。

「俺に一太刀でも当てられたら、直々に指導をしてやる。今までの成果を見せろ」


俺は、これはチャンスとばかりに、集中した。

一太刀くらいなら。

とそう思った。


しかし、一太刀も当たらなかった。


30分ほどして、

「まぁそこそこは強くなっているが、まだ甘いな。

では、今日からこの稽古もやれ」

と新たな稽古方法を教えてくれた。


その方法とは、直径約3㎝ほどで50㎝ほどの長さの丸木の中心にロープで結びつけ、それを大きな木の枝の下にぶら下げ、丸木を木刀で叩くという稽古だった。


簡単そうに思えたが、叩くと、想像もしなかった方角に動くので、なかなか難しかった。これを足運び、型が崩れないように行っていく。

そして毎月、その丸木を1本ずつ増やしていくように言われた。

1本の時はまだ対応できたが、2本3本と増えていくうちに、複雑性がどんどん高まり、とんでもなく高難易度になっていった。


体にはあちこちアザや擦り傷ができた。

でも、大変だけど、これまで以上に強くなっている気がした。


俺は暇さえあれば、この稽古と、足運び、型、イメージの稽古、そして道場の練習を覗いた。


道場の練習を覗いていると、練習風景がゆっくり流れているように見えた。

剣速が遅いというか、そんな風に感じられるようになったのだ。

目が慣れたのか。よくわからないが、道場で練習している貴族の子弟たちがあまり強そうに感じなかった。


ただ戦った相手は旦那様だけなので、少し練習したからっていい気になっているだけだろうと。あまり調子に乗らないでおこうと、俺は思った。


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