中秋の名月と月見団子 「『お月見案内人』ログの周りは今日もとても賑やか」
第84話目とての投稿作品は、カクヨムの自主企画「2000文字以内でお題に挑戦!」のお題「お月見案内人のログ」に対して書いた、未来の月を舞台とした『SF』作品です。
ここは月面にある新扶桑宇宙空港の展望広場、L1スペースコロニーへのフライトまでの待ち時間で訪れた大勢の人々が、核の冬と環境汚染で今後まだ何百年も帰還することが叶わない、遥か彼方の青い地球を眺めています。
でも彼ら彼女らの先祖は、月の地中に巨大空洞を建造して人工重力1Gを発生させる回転都市計画や、ラグランジュポイントのL1スペースコロニーの建造計画に、生きて地球に帰れない可能性もある志願開拓者として、真っ先に宇宙に出て暮らしていたからこそ、全面核戦争にも巻き込まれること無く、無事生き残れたのですから、何とも皮肉なものです。
そんな展望広場の一角では「今日は地球からだと『中秋の名月』の日なんですよ」などと言いつつ、地球の様々な国の文化データログを記録したニューロコンピューター『アキ3000』の人型サブシステム『お月見案内人』のログが、丁度、昔の日本の『お月見』の風習について解説してくれています。
「産業革命よりも遥か昔、まだ人類が地球で飢餓や自然災害に苦労しつつも、何とか生きるにギリギリの暮らしていた頃、既に日本の各地に『中秋の名月』の日には『お月見』をする風習があったとの記録が、沢山残っています。」
「これらの地球の記録は、秋津洲月面基地の地下深くにある有史データバックアップセンターに運良く大量保存されていたため、今も有効活用できるのです。」
「秋の美しい満月を眺める『お月見』の風習自体は、更にもっと古くから中国にあったのだそうですよ。」
「それが奈良時代になると日本に伝わり、当時の貴族たちを中心に、昔の暦の8月15日の夜に、秋の美しい満月を眺める『お月見』の宴をするようになりました。」
「その後、『お月見』の風習は、武士や庶民の間にも広まって行き、農家では丁度秋の収穫の時期なので、採れた収穫物をお供えして豊作を祝い、実りを感謝する祭事となって行きます。」
「そして『お月見』の風習が世俗化すると、十五夜の日はいつのまにやら芋煮を食べて夜遊びすることが一般的になったのだそうですが、江戸時代の頃になると、お米で作った丸い『月見団子』が供えられるようになったそうです。」
「誰が考えて流行らせたのかは判っていませんが、言い伝えが正しければ、丸い『月見団子』は、『円満な暮らし』や『豊作への感謝』を意味するってことのようのですよ。」
では誰に対して『月見団子』をお供えをしていたかですが、月の神様であり農耕を司る神様である月読命様なのだそうです。
だから月が見える場所にお月見台でお供えをして、お供えした『月見団子』を美味しく頂く、残すことなく食すことで、月の神様からの気持ちが返ってくる、力を分けてもらえる、月の神様との結びつきが強くなり、健康や幸福が訪れると考えられているんですね。
「そんな謂れのある『月見団子』のススキ飾り付きセットを本日1日限りの特別限定で、お土産用に数量も限定ですが用意しております。」
「お帰りになられるL1スペースコロニーで、綺麗な月を眺めつつ、お月見の風習をなぞらえて、豊作とご家族やご友人の健康を祈りながら、ご家族やご友人と一緒に食されては如何でしょうか。」
「味見もしないで買って帰るのは不安でしょうから、お一人お1つだけですが『月見団子』のご試食もご用意しておりますので、是非ともお試しください。」
「また、月の農業プラントで育てた美味しい新米『月兎』も絶賛販売中ですので、この機会を逃すことなく展望広場横の売店で、お早めにお買い求めくださいネ。」
売り切れ御免とばかりにお土産をもPRする、中々宣伝上手・商売上手な『お月見案内人』のログの周りは、今日もとても賑やかです。
月は地球の6分の1の重力しか存在しないため、人工重力で1Gの重力環境を維持し続けないと、月や永く生活し続けた人や、月で生まれた人は、地球に帰還した時に地球の1Gに耐えられない身体になってしまうようです。
火星も地球の3分の1の重力しか存在しないので、同様の問題が出て来るのかも知れません。
そう考えると、地球に住めなくなった場合であっても、宇宙に移住しての生活は中々難しそうですね。




