34.新幹線での会話
春銭太夫戦の前に、同格の天道戦を挟もうとしてるのは何かおかしいですよね?
ー作者の後悔ー
(一条院 宗雪視点)
綾香から一目連を調伏したいという話を聞いた数日後の土曜日……
「……それじゃあ皆、準備は良いか?」
「おう、良いぜ」
「良いっす!」
「ええで~」
「準備万端でございます」
「僕も同じく」
「萌音もなのだ~!」
俺様達は最寄りの駅前に集合していた。
「よし、それじゃあ行くとするか……って、綾香に1つ聞き忘れてた事があるんだが……」
「ん?……何や?」
「富士山付近とは聞いてたが……どっちだ?」
「……あ~、報道規制されとるから、調べても出て来んのやったっけ……」
富士山付近……そう聞いて思い浮かべる県は2つある。
……というのもこの世界の基盤となった原作ゲームにおける都道府県は、俺様の前世が居た世界と完全一致しているからだ。
いや開発元、色々とこだわるんなら都道府県もオリジナルにしてみせろよ!
お陰で面倒な富士山はどっちの県論争に巻き込まれかけてるんだが!?
「……とにかく、どっちの県だ?」
「……ウチも面倒事はごめんやから、紙で渡すな?」
「県論争を面倒事って言ったぞ……」
「当然やん……」
この世界であっても、あの2つの県は富士山を巡って対立関係にある。
いや、下手したら前世の世界より激しい対立になっちまってるレベルだ。
なので、こういう場所であっても下手に口に出すのは憚られちまう。
……とまあ、そんなこんなで綾香から紙を受け取った俺様がそこに書かれていた内容を見ると……
「……ふむ、こっちか……まあ、どっちにしろ遠いのに変わりはねぇんだが……」
「ま、そうゆう訳やから……さっさと新幹線に乗って行こか」
「新幹線、良いっすね~」
「楽しみなのだ!」
遠距離移動という事もあって新幹線での移動を選んだが、夏芽と萌音は子供っぽく新幹線での移動を楽しみにしていた。
……のだが……
ーガシッ!
「ふぅ……新幹線では座席を向かい合わせに出来ると聞いております。……こちらでも勉学に励めそうで何よりでございますね」
「「ひっ!?」」
……中間試験直前というのもあって、沙耶花は夏芽と萌音を勉学から逃がすつもりはないようであった。
夏芽と萌音に合掌。
「まあ、僕も一緒に教えてあげますから」
「普通に敵が増えただけっす!」
「そうなのだ!」
「……逆に、この時期に遊び呆けられると思われていた方が驚きでございます」
……ほんと、こうして見ると沙耶花も空助も精神が強くなったな~……
あ、夏芽と萌音が項垂れてる。
「あ~……ほな、早くチケット買おか」
「そ、そうだな……」
そうして俺様達は人数分のチケットを購入すると、新幹線に乗り込んで目的地に向かうのだった……
そして数分後……
「……で、ここは……でございまして……」
ーぷすぷす……
「む、難しいっす……」
「む、難しいのだ……」
「……まだ初歩の段階でございますが?」
「「ひぃ~!?」」
夏芽も萌音も大変そうだな~……
まあ、俺様達も中間試験があるのは同じだし、試験範囲のおさらいでもしとくか……
「あ、そういや……空助、ちょっと話してぇんだが良いか?」
「え?……勿論良いですが……」
「じゃあ単刀直入に……もし、空助が今の俺様の立ち位置を経験できるとしたら……」
俺様には1つ思うところがあった。
本来、俺様の立ち位置は主人公である空助が担うべきだったのだ。
俺様は2人の婚約者や、多くの人に慕われている。
だが、それは本来空助の立ち位置の筈で……
「絶対にごめんです!」
「早過ぎだろ!?」
……え?
何でだ?
「僕には桜様や夏芽様を幸せにする事は出来ませんし、萌音様の家が大豪林主に襲われた時だって何も出来ませんでした。……そもそも、僕がここまで強くなれたのだって、宗雪様のお陰ですし」
「空助……」
「そんな僕が宗雪様の立ち位置を経験なんて、烏滸がましいにも程があります」
「そ、そうか……」
あれ?
これ相当心酔されてねぇか?
「そもそも、どうして宗雪様が僕にそこまでの期待を寄せているのかが分からないんですが……」
「それは……まあ、未来の義弟だからな」
「……それは本心なんでしょうが、僕の問いに対する答えは絶対に別ですよね?」
「どうだろうな」
将来、空助を沙耶花と結婚させたいのは紛れもない俺様の本心だ。
ただ、もはや今の空助はこの世界の主人公と言えないかもしれねぇがな。
「……まあ、僕は今の立ち位置が好きですしね。……この絶対的な強者に使える従者的な立ち位置が」
「だが、それじゃあ脇役だぞ?」
「寧ろ、僕の能力的に考えれば脇役は願ったり叶ったりですよ」
「……そ、そうか……」
何かもう、空助の目指す先が分からねぇ。
まあ、元々原作ゲームの時点で主人公向けの能力じゃねぇしな。
と、ここで俺様達の会話を聞いていた桜が声をかけて来て……
「……相棒、いくら何でも空助に相棒の立ち位置は無理があるぜ?……そもそも、こんな女誑しの立ち位置なんて空助からしたら要らねぇだろうし……」
いや、女誑しって……
「お、女誑しってのは流石に言い過ぎじゃねぇか?」
「ハァ?……オレや夏芽を婚約者にして、挙げ句の果てには萌音や綾香先輩すら落としかけてる奴がそれを言うかァ?」
「……え、マジかよ……」
桜と夏芽は分かる。
だが、萌音と綾香もか……
いやまあ、相手が何も言わないならこっちからも下手に突っ付かねぇつもりだが……
「まァ、萌音はまだその時じゃねぇって感じなんだろうが……綾香先輩、あんたはどうなんだァ?」
「うっ……ウチはそんなんとちゃう……」
「……落ちかけてるってのに無自覚かァ?……さっさとオレ達の所に来た方が楽だぜ?」
「うぅ……」
桜は容赦なく、綾香を引き込もうとしてやがる。
だがな……
「桜、その辺にしとけ。……こういうのは、本人の気持ちが大事なんだからな?」
「ちぇっ、つまんねぇの」
多分、綾香の心は完全に俺様LOVEになってる訳じゃねぇ。
困惑もあるだろうし、まだ気持ちの整理だってついてねぇだろう。
……そもそも、本当に俺様に惚れかけてるかすら分からねぇしな。
「……本当に、宗雪はんは婚約者から好かれとるんやね……」
「ん?……何か変だったか?」
「いや……宗雪はんも知っとると思うけど、退魔師の婚約なんて殆どが政略結婚や。……まあ、杏美はんみたいに実力を付けて家の要求を突っぱねとる人も居るけど、あの人はそれが原因で完全に行き遅れとるし……逆に四美院家みたいに自由恋愛を推奨しとる家の方が少ないレベルやで」
「……え、四美院家って自由恋愛推奨なのか?」
確か、昔四美院家からも婚約の打診が来てた覚えがあるんだが……いや、確か四美院家は他の家よりも断るのが早かったっけ……
そこを含めての自由恋愛か……
「四美院家は全体的に緩いからな~。……二剛院家ですら政略結婚を推し進める派閥が居ったけど、四美院家にはそれすらないんよ」
「……流石は現在進行形でやべぇ厄ネタを抱えてる家ってところか……」
四美院家の緩さは異常とも言えるが、そうでなけりゃ美乱御前との子供をちゃんと愛娘として育て上げたり出来ねぇよな……
「話が逸れたけど、そんな政略結婚多めの退魔師業界では、愛のない夫婦なんて当たり前なんよ。……せやのに、宗雪はんは2人からちゃんと愛されとるし、宗雪はん自身も2人を愛しとる。……正直に言って羨ましい限りやわ」
「なら……いや、何でもねぇ」
綾香も婚約するか?……と言いかけたが、それをぐっと呑み込んだ。
まだ、それは言うべきではない。
そんな気がしたからだ。
「ん?……まあええわ。……とにかく、残りの旅路も満喫するで~」
「ふぅ……そうだな」
こうして、俺様達は目的地へと向かう。
富士山付近に陣取る一目連、天道のもとへと……
ご読了ありがとうございます。
天道の居場所は敢えてぼかします。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




