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幕間 三歳の夢
幕間 三歳の夢
兄の背が、門の向こうへ消えようとしていた。
呼び止めれば振り返る。そう分かっているのに、声が出ない。
手には兄から預かった書物がある。少し重く、抱え直すと紙の端が胸に当たった。
「達者でいろ」
兄が振り返り、そう言った。
聞きたいことはほかにあった。いつ戻るのか。次に会ったときも、こうして話せるのか。
けれど兄はもう歩き出している。
待って――。
伸ばした手が空をつかみ、牛若は目を開けた。
薄明かりの中、見慣れた天井がある。胸の上には書物などなく、寝巻きの袖を自分で握っていた。
「兄上……」
隣で常盤が身を起こす。牛若が三つになってから、夜中に呼ばれることが増えていた。
「今若に会いたくなった?」
牛若はうなずきかけて、やめた。夢の兄は、今若ではない。
顔を思い出そうとすると、門の向こうへ歩いていく後ろ姿ばかりが浮かぶ。
「乙若も、お寺で元気にしているわよ」
常盤が牛若の髪を撫でる。
「今度、会いに行きましょうね」
「……うん」
牛若は常盤の手に頬を寄せた。もう一度目を閉じるころには、兄に何を預けられたのかも思い出せなくなっていた。ただ、胸の上に残る重みだけが、しばらく消えなかった。




