第十話 山の客
第十話 山の客
清盛から賜った紙の包みを開いたのは、鞍馬寺に入って三日目のことだった。
「こんなに?」
千寿が包みをのぞき込む。遮那王もしばらく言葉が出なかった。
京にいた頃は、字の練習に使った紙の裏にも書き、余白があれば小さく続きを詰めていた。
「大相国様へ、礼の文を出さねばな」
和尚に言われ、遮那王はうなずいた。
一枚を取り分けると、千寿が横から顔を寄せる。
「何と書く?」
「紙を賜ったお礼を」
「それは分かっている」
「……まだ、考えているところだよ」
千寿は笑い、墨を磨り始めた。
*
その日の夕方、厨で使った桶を戻しに出ると、軒下に男が立っていた。
旅の途中らしい。衣の裾には泥が乾いてこびりつき、手には杖を持っている。
「厨へ御用ですか」
声をかけると、男はこちらを向いた。
「水をいただきたくてな」
「少しお待ちください」
空の桶を軒柱のそばに置き、厨へ椀を取りに戻った。
火のそばにいた僧へ客のことを伝えると、水を汲んで渡すよう言われた。
椀を持って戻ると、男は軒下で待っていた。受け取った水を一息に飲み干し、椀をこちらへ差し出す。
「助かった。お前、名は?」
「遮那王と申します」
「ああ、お前か」
椀を受け取る手が止まった。
「私を、ご存じなのですか」
「京から言づてを預かっている」
遮那王は椀を受け取ったが、男の顔から目を離さなかった。
「どなたからでしょう」
「母御からだ」
胸が跳ねた。
「母上が?」
「ここでは話しにくい。少し来い」
男は厨の裏へ歩き出した。
遮那王は、その背を見送る。母からの便りは和尚を通じて届くことが多かった。
常盤が暮らす長成の屋敷から使いが来るときも、まず寺の者に名を告げるはずだ。
知らぬ男が突然現れ、母の名を出して自分だけを呼び出す。どうにも腑に落ちなかった。
「和尚様をお呼びします」
「母御は、お前だけに伝えよと申された」
「では、お名を伺ってもよろしいですか」
男が振り返った。
「私から母上へ、どなたが届けてくださったかお伝えしたいので」
「……名など、どうでもよかろう」
遮那王は、椀を手にしたまま厨の戸口へ向き直った。
「こちらでお待ちください」
戻ろうとしたところで、腕をつかまれた。
椀が石に落ち、乾いた音を立てて割れる。
「騒ぐな」
男の袖の下から刃がのぞいた。遮那王は息を止めた。
男は腕をねじり上げ、厨から見えない方へ引いていく。
声を出せば、僧が来る。来れば、この刃を向けられる。
「歩け」
背中を押され、足を踏み出した。振りほどこうとすれば、刃が先に届く。
軒柱のそばに置いた桶が目に入った。引かれる拍子に手を伸ばし、取っ手をつかむ。
「それを離せ」
男が腕を引いた。
つまずくふりをして膝を折り、桶を足元へ落とした。男の足に当たり、手がわずかに緩む。
その隙に腕を抜き、小屋の角へ走った。
「誰か!」
喉から出た声は、思ったほど大きくない。
背後で桶が蹴り飛ばされた。追ってくる足音が近づく。
もう一度叫ぼうとしたとき、男が厨へ通じる道に回り込んだ。
「母に会わせてやろうと思ったがな」
抜き身を下げ、ゆっくり近づいてくる。
小屋に背を寄せた。戸口までは遠い。男の脇を抜けなければ戻れない。
「母上の使いなら、和尚様を通すはずです」
声が震えた。
男は答えなかった。
遮那王は積まれた薪へ手をかけた。細いものでは足りない。
太い一本を両手で引き抜くと、重さに腕が沈んだ。
男が足を止め、刃を持ち直す。
「それで、何ができる」
返事をせず、小屋の角へ下がる。退けば退くほど、男は間を詰めてくる。
厨へ戻る道は、まだ男の背後にあった。
薪を握る手が滑った。腕をつかまれたところが痛む。
刃を見てはいけない。そう思っても、目が離れなかった。
男が踏み込む。
薪を振るうかわりに、両手で突き出した。男は身をひねって避け、袖をつかもうとする。
その手が届く前に、小屋の角を回る。
「待て!」
背後で刃が板を打った。
小屋の裏は狭く、薪が積まれていた。その先は下り道へ続いている。
抱えていた薪を地面へ放り、積み重なった木の端に手をかけた。
下の薪を抜けば、上に載せたものまで崩れる。
追ってきた男が角から顔を出す。
抱えていた一本を投げつけると、男が腕で払った。その隙に、積んであった薪を両手で引く。
動かない。
指にささくれが刺さった。歯を食いしばり、身体ごと後ろへ引く。
一本が抜け、上に載っていた薪が転がり落ちた。
「ちっ!」
男が飛び退く。その足へ、続けて落ちた薪が当たった。膝が折れる。
遮那王は壁にしがみつき、崩れた薪をまたいだ。
今なら戻れる。
厨の戸口へ駆けようとして、衣が引かれた。男が裾を踏んでいる。
「さすがは、源氏の御曹司か」
片膝をついたまま、男がこちらを見上げていた。
衣を引いても、足は離れない。地面に落ちた刃を拾い上げた男が、もう片方の手で足首をつかむ。
「だが、ここまでだ」
手を蹴った。
一度。もう一度。
爪が足へ食い込む。千寿が呼ぶ声を聞いた気がして、厨の方へ顔を向けた。
刃が上がる。
「そこな者」
山道から、低い声が響いた。
男が振り返るより早く、長い杖がその腕を打つ。刃が土へ落ちた。
「童相手に、何と情けない」
足首から手が離れる。
男は腕を押さえて立ち上がりかけたが、目の前の姿を見た途端、後ろへ退いた。
赤い面が、こちらを向いている。
その下の肩も胸も、見たことがないほど大きい。手にした杖は、杖というより木の幹に近かった。
「……何者だ」
「刃を捨てて去るか。まだ続けるか」
男は答えず、腰の後ろへ手を回した。
遮那王が声を上げるより早く、巨漢の杖が男の胸を突いた。
息の詰まる音がした。男は背中から薪へ倒れ込み、隠していた小刀を取り落とす。
起きようともがいたところへ、杖の先が突きつけられた。
「次は、手加減せぬぞ」
男は巨漢と遮那王を交互に見た。
やがて薪の山から這い出す。小刀には手を伸ばさず、足を引きずりながら下り道へ逃げていった。
巨漢は追わなかった。
「童。怪我は」
返事をしようとしたが、息ばかりが漏れた。足首には、つかまれた跡が赤く残っている。
「立てるか」
「……はい」
小屋から手を離した途端、膝が崩れた。
大きな手が腕を支える。その手を振り払おうとしてしまうと、巨漢はすぐに離れた。
「ならば、これにつかまれ」
杖を差し出される。両手を添えても、指が回りきらない。
「申し訳、ありません」
「よい」
赤い面の下で、男の息が荒く聞こえた。巨漢は小屋の柱に片手をつき、杖を握り直す。
遮那王が見上げると、顔をそむけた。
「童、名は」
「牛若……」
母に呼ばれる名が、先に出た。
唇を湿らせ、言い直す。
「遮那王と申します」
赤い面が、ゆっくりこちらへ戻った。
「……遮那王か」
巨漢は、その名を口の中でもう一度繰り返した。
助けてくれた相手なのに、顔が見えないことが気にかかった。
「お助けいただき、ありがとうございます」
「礼は、立てるようになってからでよい」
「お怪我をなさったのですか」
「お前が気にすることではない」
「ですが……」
「童。己の足を見よ」
言われて足首へ目を落とす。爪が食い込んだところから、血がにじんでいた。急に痛みが込み上げる。
顔をしかめると、巨漢は腰の袋へ手を入れ、布を取り出した。
「座れ」
「あなたも、お苦しそうです」
「儂は座ると、立つのが面倒でな」
冗談なのか、本当なのか分からなかった。
小屋の壁を背に腰を下ろす。巨漢は片膝をつき、足首を確かめる。
「骨は痛むか」
「いえ。つかまれたところが」
「歩けそうだな」
布を巻かれる間、地面に落ちた刃を見ていた。
あれが足へ振り下ろされていたら。
膝を抱えようとして、巨漢の手に触れてしまう。
「動くな。結べぬ」
「……申し訳ありません」
布を結び終えても、巨漢はすぐには立たなかった。
「初めてか」
顔を上げる。
「殺されかけたのは」
答えようとして、喉が詰まった。
前世では、幾度も戦場にいた。人が斬られるところも、命が消えていくところも見てきた。
それでも、自分へ向けられた刃の冷たさは、記憶の中のどの刃とも違った。
足首をつかんだ手の強さが、まだ残っている。
「……はい」
巨漢はうなずき、小刀を拾った。もう一方の刃も取り上げ、遮那王から離れたところへ置く。
「薪を崩したのは、よかった」
「逃げられませんでした」
「最後につかまったからと、それまでしたことまで捨てるな」
ささくれの刺さった指を見た。
「次は、どうすれば」
言いかけて、口を閉じる。
また来るのだろうか。今度は千寿が、水を渡しに出ていたら。
「どうした」
「あの者は、私を捜しておりました」
「そうであろうな」
「寺の者まで……」
小屋の向こうで、名を呼ぶ声がした。
「遮那王!」
千寿だった。
返事をしようとした肩に、巨漢の手が触れる。
「迎えが来たか。ならば、儂は行く」
「お待ちください。お名前を」
巨漢は立ち上がり、しばらく杖へ体重を預けた。
「鬼一法眼」
「鬼一法眼殿……」
「天狗でもよい。好きに呼べ」
赤い面が傾く。聞き返す前に、また千寿の声が響いた。
「返事をしてくれ!」
今度は泣きそうな声だった。
「ここだよ!」
壁に手をつき、立ち上がる。
「小屋の裏にいる!」
駆けてくる足音がした。
鬼一法眼は山道へ向かった。大きな背が木々の間へ入っていく。
「ありがとうございました!」
声をかけると、片手だけが上がった。
千寿が小屋の角から飛び出してきた。
「何をして――」
散らばった薪を見て足が止まる。遮那王の足首へ目を落とし、今度は顔を見た。
「どうしたんだ、その足」
「人に、襲われた」
「人って……誰だ」
「知らない人だよ」
何か言おうとして、千寿は言葉を失った。
後ろから厨の僧も来る。地面の刃を示すと、僧の顔色が変わった。
「和尚様を呼んでまいれ」
千寿はうなずいたが、遮那王の袖をつかんだまま動かない。
「千寿」
「……お前、先に戻っていると思ったんだ」
「うん」
「部屋にもいないし、厨へ来たら、桶が転がっていて……」
袖を握る手に力がこもる。
「呼んでも、返事がないから」
その手へ、自分の手を重ねた。
「ごめん」
「謝るな」
千寿が顔を上げた。怒っているのかと思ったが、目が赤かった。
「返事をしてくれれば、それでいい」
うなずく。
千寿が袖を離したのは、僧に支えられてからだった。
*
「母君の使いと申したのだな」
和尚の問いに、遮那王はうなずいた。
足首に巻かれていた布は外され、傷を洗った僧が新しい布を当てている。
千寿は戸口に座ったまま、こちらを見ていた。
「名を聞いたら、答えてくれませんでした。それで、和尚様をお呼びしようとしたら……」
「腕をつかまれたか」
「はい」
和尚は袖を上げ、腕に残った指の跡を確かめた。触れかけた手を止め、袖を戻す。
「お前が連れていかれず、よかった」
「ですが、厨のすぐそばで」
「皆、夕餉の支度にかかっておった。私も気づかなんだ」
傷を洗った僧が言った。
「椀の割れる音は聞こえました。誰かが落としたものと思い……」
「私が水をお渡ししたんです」
「それは聞いた。水を渡したことは、悪くない」
僧は遮那王の足へ布を巻きながら続けた。
「悪いのは、それにつけ込んだ者だ」
男が水を飲む顔を思い出す。あのとき、もう刃を持っていた。
自分の名を聞くまで、何も言わずに待っていた。
「助けた者は、鬼一法眼と名乗ったか」
和尚に尋ねられ、顔を上げる。
「はい。山道の方から来られました」
「どちらへ去った」
「小屋の裏の道へ。……お苦しそうでした」
和尚と僧が目を合わせた。
「ご存じなのですか」
「その名の者には、会ったことがない」
「怪我をなさっているのかもしれません。
私の手当てをしてくださいましたが、立つときも杖を頼りにしておられました」
和尚は、外された布を見た。
「助けていただいた礼もせねばな。まずは、お前が休みなさい」
僧が結び目を確かめ、足から手を離した。和尚が立つと、戸口の千寿も慌てて立ち上がる。
「ここにいてやっておくれ」
「はい」
戸が閉まる前に、和尚を呼び止めた。
「母上へは……」
和尚が振り返る。
「知らせずにはおけぬよ」
「心配なさいます」
「そうだろうな」
膝へ目を落とした。
会いに来てくれるたび、母は元気かと尋ねる。うなずけば、それだけで笑ってくれた。
「私から、文を書いてもよろしいですか」
「構わぬ。ただし、今日は休むのだぞ」
「はい」
*
夕餉は、千寿が二人分運んできた。
「そこ、空けて」
脇へ寄ると、千寿は膳を置いた。汁が少しこぼれている。
「運ぶの、難しいな」
「二つ一度に持つからだよ」
「お前は持っているだろう」
「慣れているから」
「では、私も慣れる」
千寿はこぼれた汁を拭き、自分の膳を引き寄せた。
椀を取る。温かいはずなのに、指が冷えていた。
椀が落ちた音が、耳の中で鳴った。
「……遮那王」
千寿がこちらを見ていた。
「熱いのか?」
「違う」
「なら、置けよ」
椀を膳へ戻す。底が触れて、小さな音がした。
千寿はそれを見届けると、飯を口へ運んだ。何も尋ねない。飲み込んでから、汁をすすっている。
こちらも飯を取った。
「千寿」
「ん?」
「私を捜していたとき、あの者に会わなくてよかった」
千寿の箸が止まる。
「お前が、水を渡しに出ていたらと思うと……」
「私は何ともない」
「うん。分かっている」
それでも言わずにはいられなかった。
千寿は膳を置き、そばへ座り直した。
「見てくれ」
「何を?」
「私だよ。怪我などしていないだろう」
両手を広げて見せる。片方の袖には、汁の染みがついていた。
そこへ目を向けると、千寿も気づく。
「これは、さっきのだ」
「……分かっているよ」
声を出したら、笑いになり損ねた。
千寿は手を下ろす。
「お前も、ここにいる」
うなずこうとした。けれど、喉が詰まってできなかった。
男が言った「母に会わせてやろう」という言葉を思い出す。
もう少しで、本当に会えなくなるところだった。
「千寿」
「うん」
「母上に、会いたい」
千寿は困った顔をした。すぐに連れてはこられない。遮那王にも分かっていた。
「……文を書こう」
しばらくして、千寿が言った。
「明日、私も紙を持ってくる。墨も磨る」
顔を伏せる。
千寿は膳を少し遠ざけ、隣に座ったままでいてくれた。
翌朝、千寿は約束どおり紙を持ってきた。
清盛から賜った包みを開き、一枚を文机へ置く。硯を寄せると、千寿はその隣へ座った。
「何と書く?」
「怪我は、ひどくないと」
「うん」
「歩けることも」
墨を磨る音を聞きながら、筆を取った。
母が読みやすいよう、一字ずつ書く。手当てをしていただいたこと。
助けてくれた人がいたこと。千寿がそばにいてくれること。
何度も筆を止めたが、千寿は急かさなかった。
最後の行へ来て、墨をつけ直す。
お会いしたいです。
それを書いてから、筆を置いた。
「できた?」
「うん」
千寿は紙へ息を吹きかけようとして、遮那王に止められた。
「墨が動くよ」
「そうか」
二人で乾くのを待った。
*
和尚はその日のうちに、常盤のもとへ使いを出した。
返事を待つ間、遮那王は傷の手当てを受け、部屋で休んだ。母が来ると決まったわけではない。
それでも、廊を通る足音がするたびに顔を上げてしまう。
常盤が訪ねてきたのは、長成の屋敷へ知らせが届いてから数日後だった。
庭へ出る許しはまだなく、部屋で書物を読んでいた。廊を来る足音に顔を上げると、戸が開く。
「牛若」
母が立っていた。
書物を脇へ置き、立とうとする。
「そのままで」
常盤はそばへ膝をついた。頬に触れ、腕を取り、袖を上げる。
「母上、もう痛くは――」
言い終える前に、抱き締められた。
母の息が耳元にある。山を上ってきたばかりなのだろう。背に回された手が、いつもより強かった。
「文を読みました」
「はい」
「お前の字で、安心したのに……」
常盤はそこで何も言えなくなった。
遮那王も母の肩へ顔を押しつける。香の匂いがした。家で朝、母のそばへ寄ったときの匂いだった。
「怖かった」
口から出ると、もう止められなかった。
「母上からの言づてだと申したんです。だから、何かあったのかと」
「ええ」
「でも、名を聞いても答えなくて……」
「ええ」
常盤の手が背をさする。
「足をつかまれて、戻れなくて」
衣を握った。
「母上に、もう会えないかと」
声が崩れた。
常盤は何度も牛若の名を呼んだ。顔を上げても頬の涙を拭い、また抱き寄せる。
廊にいた和尚は、戸をそっと閉めた。
*
母の膝の上で、傷の布を替えてもらった。
「歩くときは?」
「少し、引きつります」
「それでは、まだ走ってはいけないわ」
「はい」
常盤が結び目を直す。持ってきた荷から替えの衣も出した。
「持ってきたものは、和尚様へお渡ししておくわね」
「母上、千寿にも……」
「ええ。礼を言わないと」
手元を見つめた。
「助けてくださった方にも、礼をしたいです」
「天狗と呼んでもよいと仰った方?」
「はい。お名前は、鬼一法眼と」
「和尚様には、お話ししたのね」
「しました。でも、お怪我をなさっているようでしたので」
常盤は衣を畳む手を止めた。
「だからといって、一人で捜しに行ってはだめよ」
顔を上げる。
「お前を助けてくださった方でも、山のどこにおられるか分からないのでしょう」
「……はい」
「せめて、足が治るまでは」
うなずくと、常盤はようやく衣へ手を戻した。
「母も、ここに泊めていただけるそうよ」
「今夜も?」
「ええ。明日の朝まで」
母を見つめた。
常盤が笑う。
「和尚様が、お前と話しておいでと仰ってくださったの」
「では、まだ帰らない?」
「帰らないわ」
脇に置いていた書物を片づけた。母が座れるところを広くしようとすると、常盤も手を貸してくれる。
「何のお話をしようか」
聞かれて、話したいことがいくつも浮かんだ。
けれど、最初に出たのは別の言葉だった。
「もう一度、抱いてください」
常盤はすぐに両腕を広げた。
そこへ身を寄せると、母の手が頭へ載る。
今夜は、目を閉じても一人ではなかった。
「ここまでお読みいただきありがとうございます!
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