⑨ドS女戦士VSドM女戦士
「……姉上、あいつです。あいつが卑怯な魔法を使って、僕たちを虐めたんです!」
ニチコの状態を確認していた最中、見慣れた人影が近づいてきた。
メルキとその取り巻きだ。その後からもう一つ大きな人影。
奴が姉上と呼んだその姿は、胸部と臀部の白銀の鎧と薄白の布地から零れる綺麗な地肌が眩しい長身の女性。
あの人は確か、王国屈指の魔法剣士と名高い、麗剣ユルキだ。
メルキのお姉さんだったのか、めっちゃくちゃ美人じゃないか。羨ましい。
ユルキは鋭い眼光で俺とニチコを一瞥すると、手にした剣の柄を握り込み、横にいる弟をギロリと睨み下ろした。
「メルキ。……今回は、本当なんだろうな?」
「ひっ」
「お前には前にも騙されて、無実の若者を広場で折檻したことがある。私の騎士としての名誉に、これ以上泥を塗るような真似はするなよ」
地を這うようなユルキの凄みに、メルキは額に滝のような冷や汗を流した。
「あ、当たり前だろ姉上! こんな無能の戯言より、血の繋がった弟を信じてくれよ!」
「……いいだろう。どこのご子息か分からぬが、教育は必要だ。これ以上、人の道に外れぬよう、騎士団直伝の折檻をたたき込んでおこう」
ユルキが剣を抜き放ち、刀身に真っ赤な炎の魔力をエンチャントした。朝の冷気を切り裂くような、凄まじい熱波と殺気だ。
腹を下すだけの魔法だったのに。メルキの奴、どんな嘘を付いたんだ。
「魅力的な熱風だ。その熱、すべて私が直に味わい尽くしてくれよう!」
興奮気味のニチコが俺の前に立った。言葉の意味がよく分からないが、俺を庇ってくれているようだ。麗剣ユルキと並んでも遜色ない体躯だから頼もしい……けど、大丈夫か? 花だった彼女が戦闘に向いているとは思えないけど。
「破廉恥な格好をしおって。お前、その子の保護者か?」
ユルキの言葉に耳を疑う。あんたの格好も大概だぞ。防御力より露出度を優先したようなそのビキニアーマーでよく言えたものだ。現にダンボルとアンカードは、さっきからお前の地肌を見つめてずっと鼻の下を伸ばしている。
「保護者? この子は私に愛を齎す者。私たち二人の邪魔をする者は誰であっても許さぬ」
愛……シーラもそうだったけど、花たちは無条件で俺を慕っているのか?
「それとも何か? お前のその炎が私を満たしてくれるというのか? ならば私は身を任せても構わんが」
誰でもいいのかい。この人もしかしてただのドMなんじゃ……。
「私の剣を、そんな布きれ一枚の装備で受けると? 甘く見られたものだ。いいだろう、病院の天井を眺めながら悔いるがいい」
ユルキが地を蹴り、強烈な炎の剣撃と熱風をニチコへと放った。
ドゴォォォンッ!!
激しい爆炎が上がり、庭の芝生が焦げ飛ぶ。
嘘だろっ、こんなの病院送りどころじゃ済まないだろ。
「大丈夫かニチコ」
爆煙の中、駆け寄ると、火傷一つ負わず、ただ頬を紅潮させて身をよじらせるニチコが立っていた。
「ああっ……なんという心地よい熱風! 適度に水分が奪われ、肌がカサカサと硬直していくのが分かる……っ。だが、まだ足りない。もっと激しく、私を焦がすような熱と摩擦をくれぇっ!」
「なっ……!?」
ユルキが驚愕に目を見開いた。
あんな攻撃だったのに、まったく効いていないのか? そういやセンニチコウの花言葉には『不朽』とか『不死』とかあったな。やっぱりそういった特性を兼ね備えているのだろうか。もしかして、だからドMなのか?
「馬鹿な……魔力障壁の詠唱は見られなかった。まさか、私の魔法を生身で受け止めたというのか!?」
ユルキは剣を構え直したまま、ワナワナと震える声で叫んだ。
「どんな修行を積めば、それほどの鋼の肉体を得られるのだ! このような逸材が、この国に隠れていたとは……! 貴様、名前はなんという!」
「私はニチコ。主様から適当に名付けられ、雑に扱われることで無上の悦びを感じる女だ!」
自分で認めたー。そうかそうかドMの美少女か、悪くない。俺の新たな癖が目覚めるかもしれない。
「ニチコ……良い名だ。手加減は要らぬようだな。全力で参るぞ」
「望むところだ」
ニチコとユルキは、二人だけの世界に浸るように戦った。
いや、戦いというには異様な光景だった。
興奮し攻撃しまくるユルキ。それを身を捩りながら全て受け入れるニチコ。
どちらの顔も赤く火照り、妖艶な笑みを浮かべている。
それを眺めている、メルキ達は内股になり、両手で股間を隠している。
俺たちは一体何を見せられているんだろう。




