㉕むっつロリ
紅花山玉蘭か、元の世界でも確かに幻の花と呼ばれている花だ。
数年に一度の夜のみ、しかも半日しか咲かない。その姿を見たものは幸せになれるといわれている珍しい花だ。俺も直に目にしたことはない。
その花を食べれば呪いが解けるか……都合のいい話だし、実現できそうにないのが、また胡散臭い。
「却下だな。どうせ、どこに生息しているかも分からないんだろ? ガンツ師匠が持っているはずないし……」って言うと「あるぞ」って聞こえてきそうだが。
「その花が咲いている場所なら知っているが?」
師匠の声にしては若々しく、最近聞きなれた男の声色だった。
「ナナキ兄様。どうしてここに」
すぐに反応したのはエミリーだった。
ナナキは扉の前でモノクルを弄りながら突っ立っていた。しまった、扉の鍵を閉め忘れたな。
「鍵が開いていたのでな、まぁ兄弟だし用事がなくても会いに来ていいだろう?」
昨日まで俺のことを無能呼ばわりしていた気がするけど。と思いつつナナキの顔を伺うと、プータスに視線が向かっているのが分かった。やっぱり狙いはそっちか。
「ディベート目的だな。受けてたとう」
プータスも気づいたようで、立ち上がってナナキを睨み返した。
「ちょっと二人とも、仲が良いのは分かったけど、まずは紅花山玉蘭のことが先だ。ナナキ兄さん。その花はどこに咲いているんだ?」
「国境付近のダンジョン奥深くが生息地だ。魔導植物の研究で何度か潜ったことがあるからな」
ダンジョンかぁ。入ったことはないけど、聞いた話だと異世界特有のモンスターあり、トラップありの面倒な場所だ。前世の記憶が戻っても絶対に入るもんかと心に決めていたけど……肉眼で紅花山玉蘭が拝めるならアリかもしれない。呪いも解けるかもだし。
けど待てよ、呪いを解くには紅花山玉蘭を食べないといけないのか? なんて罰当たりな。
「国境付近ということは、アビスダンジョンですか?」
エミリーが驚いた表情で言った。なんかかっこいいダンジョン名だけど。
「そうだ。この国の精鋭をかき集めてやっと最深部までたどり着ける難関ダンジョン。最深部で滞在となると三日が限度。今だ紅花山玉蘭が咲いたところを見たことがない」
精鋭部隊でやっとって、めちゃくちゃ危険な場所じゃないか。
「紅花山玉蘭の苗木や球根を持ってくるとかしなかったのか?」
園芸の鉄則だろ。
「群生していた一つに試したが、幻の花の根はダンジョン全域に広がっているようでな。しかも、少しでも根を傷つけると一瞬にして枯れ朽ちてしまうのだ」
流石は幻の花、一筋縄ではいかないらしい。
「なんか難しい話になっているんだけど、私じゃダメなの?」
暇を持て余した様子のシーラが、エミリーの腕にべったりと抱きつきながら首を傾げた。
「どういうこと?」
「主様が私を食べるってこと」
「なっ……」
エミリーは絶句した。
「ダメに決まっています。シーラを食べてしまうなんて絶対ダメ」
「落ち着いてエミリーちゃん。私が食べられても別の私を呼べばいいんだから大丈夫だよ。それに主様には一度食べられてみたいと思っていたんだ」
聞いていたナナキも絶句した。きっと卑猥な想像をしているのだろう。
そういえば、シーラやプータスが花から生まれたことは、ナナキはまだ知らない。バレたら俺の無能の地位が危ぶまれる。ここはなんとかごまかさないと。
「ハナよ、この頭の悪そうな娘もお前の仲間か? まさかこいつも魔導生物? いや、頭が悪そうだし卑猥だから違うか。それよりも私は早くプータスと濃密な時間を過ごしたいのだ。少しといわず半日くらい貸してくれないか?」
「なんですか、いきなり入ってきて人のことを頭が悪そうだとか、卑猥とか。失礼にもほどがあるんですけど。あなただってどう見てもむっつりスケベですよね?」
シーラがキレた。たぶんだけど、ナナキがド直球を投げてくるのはシーラの自白作用のせいだと思うよ。
そう考えると、本当にプータスのことが気に入ったみたいだな。頭の良い人同士は惹かれ合うのか。
「むっつり? 初対面の人間に対して無礼な口を利く奴だ」
「どっちがよ」
「頭の弱い人間と話していても時間の無駄だ。いくぞプータス」
ナナキはプータスの手を取った。
「うわ~むっつりでロリコンなんだ。見た目通りだね~。ダメだよプーちゃん。そんな奴に付いてったら何されるか分かんないから。絶対にダメ」
「私はロリコンではない」
「むっつりは否定しないんだ~ウケる~」
「くっ、貴様ーこれ以上私を愚弄すると……うっ」
「どうしたのむっつロリ。かかってきなさいよ」
シーラの奴、下痢魔法やりやがったな。
「き、きょうの所は引いてやる。戸籍のない魔導生物だからといって私の目が届く場所でのうのうと暮らせると思うなよ馬鹿娘が……うっ」
ナナキは、両手で腹を押さえて内股で走り去った。




