⑮感動の再会
自分の部屋に戻り、すぐに窓辺の植木鉢を確認すると、シクラメンの花がうなだれていた。
不安げなエミリーに、「大丈夫だ、完全に枯れているわけじゃない。ちゃんと手入れをすれば数時間で元通りに咲くはずだ」と声をかける。
「はい……」
こんなにしおらしい妹の姿を見たのはいつぶりだろうか、本当にシーラを大事に思っているんだな。
よしっ。ここからは園芸家の領域だ。
俺は植木鉢を引き寄せ、まずは指先で土の表面に触れた。
カサカサに乾ききり、微かなひび割れすら生じている。完全に水切れだ。だが、焦る必要はない。
土の表面を優しく押し退け、中心に鎮座する黒褐色の塊を確かめる。指の腹から伝わるのは、ブヨブヨとした腐敗感ではなく、石のように引き締まった確かな硬さ。
魔法が使えなかった時には分からなかったが、今はかすかな魔力の脈動を感じる。植物も魔力を持っているということか? 不思議な感覚だ。
「大丈夫だ。シーラは全く諦めていない。球根から早く出してくれと聞こえるくらいだ」
俺は短く息を吐き、水差しを手に取った。
新鮮な水を人差し指と中指でやさしくかきまぜ、魔力を織り込むように空気を含ませ、球根の頂部を避けるように、鉢の縁に沿って静かに注ぎ入れる。
シクラメンは球根の頂部に水が溜まると、そこから腐りやすい。デリケートな植物を扱うには、知識と繊細な指先が必要だ。
乾いた土が、シュウシュウと微かな音を立てて水を吸い込んでいく。
鉢底から透き通った水が滴り落ちるまで、たっぷりと。
あとは待つだけだ。無理に揺すったり、魔力を強制的に流し込んだりしてはいけない。植物の生命力を信じるのだ。
それから、数時間が経過した。
部屋には、時計の針が刻む音だけが静かに響いていた。エミリーは祈るように手を組み、ニチコは部屋の隅で静かに膝を抱えている。
不意に、湿った土の匂いがふわりと漂った。
微かな衣擦れのような音。俺は顔を上げた。
水と愛情をたっぷりと吸い上げた球根が、脈を打つように微かに膨らんでいる。
だらりと垂れ下がっていた花茎が、見えない糸で引かれるように、ゆっくりと持ち上がり始めた。水分が細胞の隅々にまで行き渡り、植物としての張力を取り戻していく。
萎びていた葉がピンと張り詰め、深い緑の艶を取り戻す。
そして、うつむいていた蕾が上を向き、固く閉じていた花弁が一枚、また一枚とほころび始めた。
まるで、長い眠りから覚めた少女が、あくびをして背伸びをするように。
鮮やかな赤紫色の花が、窓から差し込む夕日を受けて、再び誇り高く咲き誇った。
「……咲いた」
エミリーが感極まったように呟く。
花弁の中心から淡い光の粒子が溢れ出し、甘い香りが部屋いっぱいに広がっていく。
俺は満足げに頷き、復活を遂げた極上の花を愛おしく見つめた。
「シーラ。出ておいで」
優しく声をかけると、いつもより神々しく光ったあと、いつものシーラが姿を現した。
「ああっ、シーラっ。良かった」
エミリーは、人目もはばからずにシーラに抱きついた。
「感動の再会だな」
「はい、ありがとうございますハナ兄さんっ」
「でもさ、他で咲いているシクラメンでも良くなかった? ガンツじいさんに頼めば数時間も待たずに会えたのでは?」
「シーラ。私もそう思っていたのですが、ハナ兄さんが一生懸命だったので黙っていたのですよ、少しは空気を読んでください」
シーラとエミリーの言葉に「いや、ほら。なんか、そういう雰囲気かな~って」と強がった。




