↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無敵のガーデナー 〜花を美少女に変える魔法でハーレム作ります【悲報】煩悩が消えて美少女たちは変態で俺は魔王と呼ばれています〜  作者: 余儀ノ理人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/42

⑭センニチコウの軌跡

 まずいぞ。別の意味で目立ちすぎている。

 完全に発情して身悶えするニチコと、それに目を血走らせて群がる騎士たち。

 これでは『無能な雑魚』の証明どころか、ただの『やばい変態集団』の主犯格扱いではないか。こんな有様では俺のひっそり辺境ハーレム生活に多大な支障をきたすし、何よりエミリーにめちゃくちゃ怒られる。


 これ以上の暴走は危険だと判断し、俺が止めに入ろうとした矢先だった。

「ハナ兄さんっ!!」

 演習場の入り口から、地獄の底から響くようなエミリーの怒声が轟いた。

 いくらなんでもツッコミに来るのが早すぎるだろ。


「こらーっ! 貴様ら、神聖な演習場で発情した猿のように何をしている! さっさと訓練に戻らんかーっ!!」

 エミリーの声をかき消すように、さらに鼓膜を劈く野太い檄が飛んだ。

 怒号と共に現れたのは、見上げるような巨躯を持つ一人の大男だった。空気がビリビリと震え、群がっていた騎士たちが一瞬にして青ざめ、慌てて整列する。


「誰だ、あの厳ついおっさんは?」

「我らが騎士団団長の、ヤーン様だ」

 隣に避難してきたユルキが、小声で教えてくれた。

「練習中にこんなふざけた真似をしていれば、そりゃ怒られるわな」

「団長は特に、女にうつつを抜かす奴に厳しいからな」

「そうなのか? 凛々しい角刈りで髭も整っていて、いかにも女にモテそうな渋い顔をしているのにな」


 俺が率直な感想をこぼすと、ユルキは周囲を窺いながら、ひどく気まずそうに口ごもった。

「団長は、その、なんというか……男色、だからな」

「は? 男色って、男が好きってことか!?」

「バカ、大きな声を出すな! ……その通りだが、騎士団、いやこの国で一番の剣技の持ち主だぞ。我らが心から尊敬すべきお方だ」

 ユルキが慌てて俺の口を塞ぐ。

 なるほど、そういうことか。だからニチコのあの過激なフェロモンを浴びても、微塵も顔色を変えずに立っていられるわけだ。


「そこの半裸の女っ! 騎士団の風紀を乱すやつは、ユルキの推薦であっても許されんぞ」

 ヤーン団長が、地面で恍惚の表情を浮かべているニチコを指差し、ズカズカと歩み寄っていく。

「主君の御前で衣服を乱し、卑猥な声を上げるなど言語道断! それは戦士としての矜持の欠如であり、貴様の存在は主君の品位を底辺まで引き下げる『ただの迷惑』でしかない!」

「……っ!」

 ヤーンの言葉には、サディスティックな熱など一切なかった。ただ淡々と、事実と正論を並べ立てるだけの大人の冷たい説教が続き、求めていた『情熱的な暴力』を完全に透かされ、理詰めで突かれたニチコは、みるみるうちに肩を落とし始めた。

 見かねた俺は助け舟を出そうとしたが、エミリーに袖を強くつかまれて考え直す。


「ハナ兄さんっ、シーラが消えてしまいました! すぐに部屋へ戻って再召喚して下さい!」

 エミリーは顔を青ざめさせ、泣きそうな様子で俺の袖を引っ張った。

「シーラが? ああ、水やりを忘れてたから、魔力切れで球根に引っ込んで休眠したのか」

「きゅ、球根……?」

「シクラメンは丈夫な球根植物だからな。地上の花や葉が消えても、土の中の根っこさえ無事なら全く問題ない。帰ったらたっぷり水を吸わせてやるから、すぐにまた出てくるさ。安心しろ」


 俺が園芸知識で太鼓判を押すと、エミリーはポカンとした後、心底ホッと胸を撫で下ろした。

「……そう、なんですね。よかった……」

 安堵の大きなため息。しかしその直後、エミリーの瞳にいつもの冷静沈着な、いや、冷酷な光が戻った。


「ではハナ兄さん。ニチコさんのことは、このまま放置しましょう」

「えっ、助けないのか?」

「ええ。今ここでハナ兄さんが出ていくと、無策なハナ兄さんのことですから色々と余計なことまで言って、状況が悪化する可能性があります。このままヤーン団長の説教に耐えさせれば、ニチコさんの騎士団入団は間違いなく破談になります」

「なるほど、その手があったか」

 さすがは我が妹、恐ろしく合理的な判断だ。

 俺は助けを求めるニチコへ向かって、こっそり『ステイ』のジェスチャーを出し、安全圏から見守ることにした。


 ──それから三十分ほどして、ヤーン団長は気が済んだのか、ようやくニチコを解放してくれた。

 どうやらエミリーの予想通り、騎士団入団の件は完全に破談になったらしい。とりあえずは作戦成功ということか。


 疲れ切った顔のニチコがしぶしぶと帰ってきた。

「よくやったぞニチコ。帰ったら極上のお手入れしてやるからな」俺はニチコの手を取り励ました。

「すまない主様……」初めて会った時の破天荒な元気は、もう微塵も見られなかった。

 人の姿になって、いきなり本気の説教をくらったら誰だってそうなるだろうな。かわいそうに。


「私は、ダメな花なんだな……」

 ポツリとこぼれ落ちた声は、か弱く震えていた。

「ニチコ?」

「私はセンニチコウ。灼熱の太陽にも、ひび割れた渇水の大地にも耐えうる強い花だ。育てててくれた人々は、私がもっと強く美しく咲くために過酷な環境を与え続けた。私は耐え、適応し、さらに強く咲き誇った。だが……いつしか私は、その過酷さに、肌を刺すような痛みに、悦びを覚えるようになってしまったのだ」

 ニチコの双眸から、大粒の涙が土埃の舞う地面へとこぼれ落ちた。

「刺激がなければ生きられない。痛みを欲してしまう。花としての純真さを失った、欠陥品だ」

 彼女は自分の身をすくめ、すすり泣き始めた。


「おかしくなんてない」

 俺はニチコの肩を力強く掴み、その涙に濡れた目を見つめ返した。

「過酷な環境に耐え、己を変異させてまで咲き誇ろうとする。それは生命としての圧倒的な強さだ。欠陥なんかじゃない。立派な個性(とくせい)だ」

「主、様……」

「それに、人間のほうが、もっとずっとヤバい。布切れ一枚に興奮する奴もいれば、冷たい目で蔑まれることに命を懸ける奴だっている。男が男を好いたり、女同士で結婚するんだ。お前の欲求なんて、人間の業の深さに比べれば可愛いものだ」

 俺の言葉にエミリーの体が一瞬ビクリとした気がしたが、俺は続けた。


「人の姿になるってのは、そういう厳しい声も受けていかないといけない。でも、それはもっと強く美しくなるチャンスなんじゃないか? ニチコの人としての人生は始まったばかりだ。これからもっと厳しい試練が待ち受けているかもしれないけれど、俺が付いてる。花に水をやるように、土をこねるように、君に寄り添い続けるよ」

 大事なハーレム要員だと思うと、都合のいい言葉が溢れてくるぜ。


「厳しい試練……か……」

 ニチコの顔に生気が戻った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。