⑪騎士団からの勧誘
「騎士団の屈強な者たちが、ニチコ殿と手合わせしたいと懇願しているのだ。見学だけでも良い、顔を出してはくれないか」
戻ってきたユルキが、熱烈な口調でまくしたてた。そのすぐ後に、メルキ達三人も付いてきている。
「屈強な男たちが、束になって私を……っ! ああっ、なんと野蛮で過酷な環境なのだ! 大勢の屈強な男たちに揉まれ、擦られ、限界まで水分を奪われるなど……っ」
ニチコは自分の体を抱きしめ、クネクネと身をよじらせ始めた。
「ダメだ。絶対にダメに決まっている」
俺は即座に却下し、ニチコの前に立ち塞がった。
「ニチコは俺のだ。他の男どもに渡すわけがないだろう」
「主様……っ」
ニチコが頬を真っ赤に染め、俺の背中に熱い視線を送る。
「大勢に無下に扱われるプレイも捨てがたいが、主様のその強烈な独占欲による束縛も捨てがたい……っ! ああ、私には選べないっ!」
いや、そういう意味じゃない。師匠が手塩にかけて育てたセンニチコウを、園芸の素人である騎士なんぞに荒らされてたまるかという、職人としての当然の矜持だ。
俺の頑なな態度を見て、ユルキが提案の矛先を変えてきた。
「では、ハナ王子も一緒にどうだ? 貴殿の未知の防御魔法も、既に騎士団の中で噂の種になっている。今まで不遇を囲っていた貴殿にとって、これは名誉挽回のまたとないチャンスかもしれぬぞ」
「……名誉挽回」
ユルキの真剣な眼差し。俺のことを『ハナ王子』と、王族として認めるその響き。
前世でも今世でも誰からも期待されなかった俺にとって、人に認められるというのは決して悪い気分ではなかった。
「良いじゃないですか。二人で見学に行ってみては」
不意に背中を押したのは、エミリーだった。
「エミリー? お前、そういう目立つことは嫌いなんじゃ……」
「兄さん」
エミリーが俺の耳元に顔を寄せ、誰にも聞こえない声で囁いた。
「これは好機です。そこで一切の魔法を使わず、騎士たちにボロボロに負けてください」
「は?」
「おい、聞いたかよ。騎士団の推薦状だって」
「マジかよ、もしかして、あの無能って実は有能なんじゃないのか?」
「取り巻きも可愛い子が多いし、あのメルキの美人ねーちゃんまでメロメロじゃないか」
「俺……あいつに付こうかな」
「メルキも落ち目っぽいしな」
ダンボルとアンカードのコソコソ話が聞こえてきた。メルキにも聞こえているらしく、酷く苛立っている。
「ここでコソコソと隠れ回ったり、中途半端に実力を示せば、ハナ兄さんの魔法が露見してしまいます。そうなればハナ兄さんが嫌いな争いや政争に巻き込まれ、いずれ戦場の最前線へ送り込まれます。そうなればもうハーレムだの破廉恥だの言ってられなくなりますよ。私もハナ兄さんの有能さが公になると困りますし。ここで完膚なきまでに負けて『無能』を証明すれば、今回の件はユルキさんの勘違いとして処理されるはずです」
エミリーの奴、シーラの自白作用のせいで、包み隠さずペラペラと恐ろしい本音を喋るな。
しかし、一理ある。有能な魔法がバレたら自由がなくなってしまう。ダンボルとかアンカードみたいなのに纏わり付かれたらハーレムも台無しだ。
俺は辺境に追放されて、可愛い花たちとキャッキャウフフできればそれでいい。
「兄さんは無能の烙印を押され、辺境へ追放される。そうすれば、誰の邪魔も入らない辺境の地で、私とシーラによる二十四時間体制の完全な監視と更生プログラムを実行できますからね」
「……」
エミリーの瞳の奥には、絶対零度の冷酷な光が宿っていた。
ハーレムを築くための辺境行きを応援してくれているわけではなかった。こいつは、俺を辺境という名の巨大な牢獄に隔離するつもりだ。
「さあ、行ってきなさい、愚兄。無様に散ってくるのです」
かくして俺は、優秀な妹の恐ろしい陰謀により、ドMの女戦士を連れてむさ苦しい男たちが集う騎士団の演習場へと向かうことになったのだった。




