鉛の空を眺め未来を信じる
一度学校に行ってみたのだがそこは道中より酷い有様だった、校舎が崩れ落ち生徒は何人も潰されていた。
「悠真!いるかー!」
恐怖でたまらなくなりそう叫ぶと声がした、自分達の後ろにいつもと変わらぬ表情でただそこにいたのだ。
「大変なことになったね、死人も大勢出て幽霊も今までにないほど現れてるらしいじゃん」
「見たことはなかったが本当にいるんだな、幽霊ってのが味方ならいい話なんだけどな」
いろいろなサイトで幽霊は売られていた、元は人であるはずだが確定はできず生命であると保証もできない、そんな理由でやつらは物であり人に売られている。
「幽霊が神のおかげで生まれたなら神サイドでしょ」
「神ねぇ……ただの人間のくせして恥ずかしくないのかなあいつ」
「ハハッお前ならそう言うと思ったよ」
どんな状況でも悠真の心情はあまり緊張感を生まないらしい、灰頼の言葉に笑っていられる余裕がまだあるのには感心だ。
「まあなんだ?もし神としての能力を持ってて人の滅亡する未来を見たならこの判断には良いとも悪いとも言えないな、その逆で良くも悪くもある」
「やり方ってものを考えろって話だわな」
「やり方ねぇ」
神だからこそ人を1番理解しているのかもしれない、真に神であるならば人を理解していないとできない行動だ。
人を恐怖に落とす完全性を使わないと人はいつまでも反抗するだろう、表では賛成しているように見えてもいずれ人は抗い争うのだから、ただ生かしたいだけなのだろうにやり方が極端でなければ誰も賛成はしないのなんて神の目には見えていた。
タバコを吸っている生徒達が騒ぎ出した。
「俺の腕時計2時ぴったりで動かないんだけど!」
「はぁ!?使いもんになんないじゃーん、ウチのも壊れてるし最悪ー」
皆の持つ時計や教室の時計も2時で止まったまま、意図されこの時間で世界の時が止まっているのか分からないが嫌な予感はする。
日本で言うところの丑三つ時、自然が眠り霊の現れやすいとされる時間帯。
「学級委員長なんとかしてよー」
「無理無理!そんな知識ないっての」
「マジ使えねーw」
ここにいるほとんどのやつらは騒がしくチャラチャラしている、どれだけ周りが変わろうとあまり変わらないものなんだろうなと思っていた時からすでに違和感が迫ってきていた。
大きな声で誰もが騒いでいるのにその声は何かに吸い込まれるかのように消えていく、夜そのものが近づいてくるような寒気のする感覚が肌を撫でている。
「こんにちは人の子達」
「えっ誰?」
皆の集まる焚き火の中から西洋風の鎧を着た兵士らしきものが現れた、甲冑の中から火が液体のように垂れ落ちている。
「霊という存在なのかも知れません…自分自身にもわかりませんがそこは重要ではありません、神に協力をしていただけませんか?」
「あんなのに協力するだって?得なんてないだろ!そもそも得があったってこんなことされちゃ誰も入りたがらねえっての!」
神に従っている幽霊が命令でもされて仲間を増やしにでもきたのだろう、人の仲間なんてそう簡単にできるものじゃないというのに何を考えているのだか。
幽霊が少しキツくそう言われると鎧が一瞬視界からぶれたように見えた、過去の姿を保てているのは理性のおかげであるから感情次第ではいつでも化け物になれる。
「皆さんの協力さえあれば人類は永遠の時を歩めるのです、滅亡の存在しない世界!種の絶えない永遠!そんなことを成し遂げるには神のいる時代でしか不可能なのですよ!」
「話聞いてたか?なんと言われようと無理なもんは無理だバーカw」
ふざけているようでクラスメイトはしっかり考えた上で発言をしていた、相手はあると言えるか曖昧なほど小さな理性で意識を保てているような幽霊だ、もう人ではない怪物の話なんて聞いても意味がないなんてわかりきっている。
「……そうですか、近いうち後悔しますよ」
煙のように散って消えた、それっぽいことを言って消えたが後悔なんてあるわけがない、幽霊ごときが人間に勝てるわけがない。
「どうせ国に捕まって中身を引き摺り出されるのがオチだな、わざわざ人前に現れて何がしたいのやら」
「誰も信じるわけないのにな、人は人の味方をしてあいつらはあいつらだ、それ以上の関係はありえない」
灰頼は誰よりわかっている、人に捕まり抵抗すらせず殺されるのが幽霊だと今までの歴史が全てを物語っていた。
歴史だけが人類の知る幽霊の大部分だ、死に生き目的もなく生きるのだ。
「俺はもう帰るよ、人の多い場所にいたら神に何されるかもわからないからね」
「マジかよwお前神がまだ捕まってないと思うのか?こんだけやったんだからもう殺されてるだろ」
「かもね、でも脅威は神だけじゃないかもだろ?二人も早いうちに帰った方がいいよ」
「それもそうだな」
今峯はここに置いて一人で帰った、朝の来ない暗い街をいつも通りに…といけばいいが自分より歳上の立派な成人どもがこんな時にひどく争っているのを見てはそう簡単にいつも通りは送れそうにないと察す。
(人類滅亡か、まとまりがないってのも要因の一つだな)
周りを嘲笑っているようで薄ら気づいていた、自分だってその一人であっていずれ管理される側になるということに。
世界は内心、神を信じている。
「馬鹿らしい」
散々考えた末ここに辿り着いた時にはこんな言葉しか出なかった。
「……もし皆が死ぬ時俺はまた誰かを見捨てることになる、誰一人として救えず生きながらえようなんて……」
灰頼 信音というたった一人の人間には誰よりも大切な友がいた、親もいて何不自由ない素晴らしき生活を送る灰頼と彼には噛み合うところがあるも存在感は真逆で。
彼の心の色は今の悠真と同じ灰色だ、少なくとも灰頼の能力が宿る目には灰色に見えた。
そう彼はいつだって助けを求めているはずなのに口には出さず、誰にも言えない悩みを抱えたまま誰も知らぬまま一人で死んでしまった、自分だけが悩みを抱えているということだけを知っているのにそのことを聞かなかった。
初めて悠真を見た時は友が生き返ったかのような喜びが込み上げてきたが今は親友だ。
そんな今いる助けるべき者をまた助けられないのか?
「いいや、助けないといけない人間は彼一人ではないはずだろう?」
「んなっ、誰だお前!」
壁をすり抜けて現れたのはゲームでよく見るような重装兵だった、それも西洋風というか異世界風の見ず知らずの何者かだ。
「心の内は大抵わかるものよ、ハッハッハ!本音を言えば全てを救うと大声で言ってやりたい、なのに自信がないのだろう!」
「ほ、本当に誰すか、心を読む能力なのは分かりましたけど二つも能力はないでしょう?」
心の内よりさらにその奥を覗かれている、それは認めるがいきなり人前に変な現れ方をして自己紹介もなし、いやそれ以前の問題だと言いたいことはかなりあった。
「誰であるかを知りたいか?我が名は孤高のユーゼム!だが貴公のような同志が一人いれば孤高ではないものよ!」
「同志ってねぇ…包み隠さず言っておくが俺に守る力はないんだぞ?人の心の色を見るだけだ」
「そこに戦闘要員の我が加われば素晴らしいタッグだろう!?それに魔術が扱えないわけじゃないんだ、期待しているぞ」
(勝手に期待されても)
「勝手ではない!」
まず自分をどう扱おうとしているのか見当すらつかない、力が全てで綺麗事を言えば殴られる果てた世界でこんなしょうもない力が人の役に立つわけがない。
「心読むのやめてくれ、それに本気であんたも何かを守りたいってんなら計画だとかを教えてくれよな!」
「計画なくして無力な者に頼ろうなどということしたくもない!」
「随分なこと言ってくれるな、がっかりさせないでくれよ?」
壁の中からやっと隣に座って話す気になってくれた、身長は自分より大きかったが灰頼が小さいだけだ。
「あの爆発は神の能力じゃない」
「というと他に犯人がいると?」
「いいや黒幕は神だ、その神にまとわりつく霊界の狂ったやつらが作戦の中心だ」
「神の味方に人はいなそうだもんな、でもよ?幽霊なんて雑魚ばっかじゃないのか?」
ユーゼムは不思議そうな雰囲気でこちらを見てきた。
「そりゃハエ程度の力しかない幽霊なら人間の世界にもこれるだろうな、そのハエより何百倍と強いやつから神の情報を得てそのままそいつを叩きのめすというわけだ!」
「1番気になることが一つ!」
「ほう!なんだ?」
「俺達以外に世界は救えますか!」
「あぁ無理だ!」
わざわざ自分に尋ねてくるあたりそんな気はした、軍だとかに頼ってみればいいものをこんな自分に頼るのだからそれなりの理由があるのは確定した。
「世界にはいくらでも強いやつがいるのに?」
「どれだけ強かろうと……その者達は幽霊を信じるとでも?」
ユーゼムの言い方、こいつは幽霊だ!
「お前幽霊だから…」
壁をすり抜けられた理由はすぐ理解したが幽霊だからと言うには大雑把すぎるか。
魂と魔力だけの存在だからこそ触れることも触れないことも可能なのだ。
「嫌いか、無理もないな」
振り向かずに去ろうと立ち上がった、だが考える間も無くユーゼムの手を強く握った。
「……ふふ、優しいのだな」
「優しいか?幽霊の基準からしたら優しい方か」
ユーゼムはやっと偏見や差別を捨てた人間と手を結ぶことができた、やっと。




