記憶に生きる英雄達
「それで?お前の言う強いやつってのはどこにいるかわかるのか?」
「それは分からないが誘い出す方法は強い幽霊の数だけ用意してある、まずは女神の門番リージアンだ」
「女神?それは人の能力でなら変わったものじゃないのか?」
「そこは重要じゃない」
今地球で自称神と幽霊が暴れまくっていることはなんとなく理解していたが真の神がいることが驚きだ、さらに門番ということは神の領域なども存在するということだ。
「それはないだろ……その門番を呼ぶためには何をすればいい?」
「霊を虐殺するとどんな場所だろうと番犬のフェンリルが召喚されるのだ、その犬を殺すとリージアンが現れるってわけだ!」
「犠牲は必ず出るのか?」
「犠牲のない戦いは存在しないのだよ」
この会話は辺りに筒抜けだったようで幽霊達は番犬にそれを知らせに行こうとしていた、だがその時あの神の声がまた全ての通信機器を利用し響いた。
[皆さん目覚めはどうです?理解も追いついて来た頃のはずですがまだ諦めきれていない人類目線で言うとこの英雄ってのがいるらしいですね]
「今話した内容がこの一瞬で?1分くらいしか経ってないよな」
「……まだ答えは出せないな、私達よりも前に抗う者達は現れていたとするならこの発言も納得はいく」
情報を集めるのが異常な程に早く、あちらにも仲間がいるのだと確信を持てた瞬間だった。
[早く皆さんを、人類を幸せに導くため人の域からかけ離れた世界と融合させていただきました、簡単に言うと霊界と地球をぐちゃぐちゃに混ぜさせてもらいました!]
「時間はあまりないかもしれないがこれはチャンスだ!今の世界ならば番犬は必ずこの世界のどこかにいる、探し出せる!」
「ポジティブなのは良いと思うよ?まだ霊達もいきなりで戸惑ってるかもだしさ、でも犬に勝てんの?」
「もちろん!」
そもそも灰頼の能力が力を解放できたらとても強いからこそユーゼムは彼を選んだ、番犬や番人の類は神のなりそこないであるからこそ特別かつ過去に名を残した英雄の能力を持つ灰頼を頼っていた。
だというのに解放条件は人に対して皮肉にも人の魂を必要としている、こんな神の決めたルールのせいで人間兵器を作り出すためこの前まで戦争が起きていた。
ユーゼム自身そこまで期待しているわけではない、ただ真の理由は人と共生のための第一歩と言ったところだろう。
「そうは言うけどあんまり無理しないでくれよ?」
「心配されるほど弱くはない!一般人に心配されるのは騎士の恥だと覚えておいてくれ」
「ああそすか」
ユーゼムが立ち上がり灰頼も立ち上がった。
「さぁ!探しに行こうか!」
せっかく犬捜索をする気になっていたのに外で銃声が鳴り響いた、一度鳴ってから少しずつ数が増えていくのでユーゼムは怯えていた。
「この音はなんだ!?」
「お前の世界に寄せて言うと進化したクロスボウで争っている音だ、そう近くにはいないだろうから今なら外に出れる!」
「その通りらしい……今の時代はこの数百年でかなり進化したんだな」
辺りには恐ろしい見た目の霊ばかりだがこちらを見向きもせず空を見上げ歩き続けていた、だからこそ堂々と道のど真ん中を歩けると言うものだ。
「見つけ方はあるんだよな」
「世界が融合したなら霊界ルールに変わっているだろう、霊界の罪の一つは霊を殺すことで霊を一体殺すと偽牢館に閉じ込められる」
「そこにいるってわけだ!じゃあ弱そうなやつを一体倒していけるんだよな?」
「その通りだ!」
地球の法律とやらは魂を賭けた契約の前ではカス同然だったのだろう、あの世で賭けられるものが魂しかないからこそその契約の価値は大きかった。
「つっても弱そうな奴なんていなくないか?皆んなドロドロしたヤバそうなやつしかいないというか」
「それはそこそこ強いからあまり戦いたくないな、理性のなさそうなやつがターゲットだ」
「ぱっと見皆んな理性はなさそうだけどな」
歩けば歩くほどこの街は狭くなっていく、建物に挟まれいつしか苔の生えたコンクリートの壁の間を歩き続けて。
「ここらへんは魔力濃度が低いな?いくらでも雑魚はいそうだ!」
やっと大通りに出たのだが雑魚らしい選択を相手は取っていた、そこには二十ほどの幽霊の群れがあり勝てるかはわからず。
「勝てるか?」
「たった一匹やればいいだけだからな、手を繋いでいれば共に犬の元へ行けるぞ!さあ来るのだ」
手を引っ張られながら大通りに出た、目がこちらを向くよりも先に相手の幽霊達は足を走らせ襲ってきた、だがそんなのは関係なしにユーゼムが剣で一匹の首を貫いた。
その瞬間今まで見ていたものが幻覚だったかのように景色が変わって見えてきた、オレンジ色のようで灰色のように見えるなんとも言えないぐちゃぐちゃな木製の空間。
「窓はない…電気も火も…?なんでこんなに明るいんだ気色悪い」
主人公がゲーム内で暗い空間に入ったとする、その洞窟に灯りはないはずなのに自分の周りだけ異様に明るいような感覚だ、違う点があるとするならこの館内全体がとても明るいことだろうか。
「あぁ、懐かしい、懐かしいなぁリーカル」
「どうした?」
「どうしたも何も忘れてしまったのか?私との」
ユーゼムの体が少し半透明になっていた気がする。
「……先を急ごう」
一体何を言いたかったのかもわからなかったが深掘りをするようなタイミングでないこともわかる。
ここは牢獄のような場所のはずらしいが人や幽霊の姿はなかった、手を繋いでここに転移した理由が今更になってわかった。
設定の欠陥である手繋を知らない人間は孤独にこの中で閉じ込められる苦痛を味わうということだ、他の者達は別の切り分けられた空間に閉じ込められている。
「おっここか?」
「そこの扉は図書室リージアンが理性を保てていた頃の自室だ、日記があるという噂があるし見に行こう!」
「かっこいいやつの日記は興味あるな」
女神の門番という肩書きがある幽霊なのだし犬も飼っていたリージアンはきっと、心優しく信仰心の強い英雄のような人なのだろう。
自室には一匹の犬がいて襲ってきたがユーゼムが剣で真っ二つに斬る、魔力に侵された犬だった。
「これが例の?」
「番犬はもっと大きい」
奥に進むと座ったまま頭から胴体まで巨大な棘に突き刺された誰かがいた、前にある机に日記があった。
「誰だこいつは……」
この空間に入れるのはユーザムと灰頼、女神に番犬などこの建物に関わっている生命体だけだ、ではこの死体は誰だ?
「害はなさそうだしさっさと日記を読んで先行くか」
3年間の情報を巡った戦争中の日記、印象に残った事を数ヶ月に一回程度で初めに書かれていたが徐々に毎日書くようになっていた。
1:我は戦争を憎み恐れ逃げ続けた末にナズという愛犬と教会に逃げ込んでいた
2:神は人を見捨てたと聖女の日記に書かれ限界を知る
3:ある日天から声がした 永遠の愛を力で与えてみないか?自身、世界に言葉は通じることなかれ。
4:大いなる力を手に入れた運命 人類を愛で救うのは神や王族ではなく我のみ
5:失敗したと悟っていた 愛でナズは我を噛みつきはせず子は泣かず。
6:戻ることはできない 皆が笑い合える世界の責任は我が取る
7:神よ あなたは利用していたのですね?力を手に入れるためだったのですね?
8:我の心はここにあるはずだが何も考えることはできずと反芻し記憶も残らない
9:最後の日は今宵である 導き手は私であったが力を手に入れた代償は魂の喪失、ああ…a、我を覚えてはいるか?いや忘れるな!!!民よ!精霊よ!ナズよ!
リージアンの日記は濃く書かれた10を次のページに書いていたのだが、肉球を使い血で隠されたかのように塗られていた。
「女神は悪役って感じか?」
「人前に姿を現さないうえに神の子を作り上げ神の意思をその神の子に分裂させ動かせている、女神のことはわからないがその神の子に会えばわかる」
「それぞれの何かが違うってことは?」
「もちろん!根は同じでも生き方は違うからね」
神の意思を持つ幽霊は一度も神に出会ったことはないが女神の心を一度手に入れてから忠誠を誓い、使命を果たし続けている。
その使命の一つは女神の門番リージアンのような、名前通りの使命がある。
「神の子を倒すために必要なものは戦闘力だけならいいんだけど」
「これは私のみが知っていることだ、貴公は周りに言ってはいけない、言わないと誓うなら教えるかもな」
「おう誓うぜ」
「うーむ…まあいい!やつらは生前の記憶の断片を得ると乗っ取られている心を取り戻し本人になる」
要するにリージアンはこれで攻略可能なはずだが、心が返った本人の忠誠心が女神に向いていた場合どちらにせよ敵対することになる。
とはいえ今の状況を考えると一番の敵は番犬のナズだ、言葉の通じる相手には見えない。
「っし!犬と戦う時前でてもらうけど良いか?」
「ほう?乙女に最前線に行けと?」
「あんたが乙女?あんたが?w」
「冗談さ、戦に性別は関係ないものな」
乙女であることは否定しなかった、いやこんな鎧着れるのは先入観だけで言わせてもらうとガチムチな男だけだろ?
部屋を出るとただの長い廊下だった場所が門前になっていた、ここだけは人や幽霊がたくさんいた。
皆何度も挑戦したが灰頼のような一般人ばかりでただの魔法では大したダメージは与えられなかった。
「あらかじめいうが私はそこらの幽霊とは違う、後方からの援護も私を気にせずやってくれ」
「やっぱ自信はすげーよ」
外伝。
実はリージアンは心が自分自身で操りきれなくなった後国を滅ぼしてしまい、最後に理性を保てた瞬間戦争から救った国民を殺し本末転倒、その恥を日記に書き残したが。
その瞬間女神に棘で貫き殺され幽体だけを持っていかれた、部屋に残ったナズは主人の背中を見て何かを察し10番を主人の血で塗りつぶした、誰にも見せたくなかったのだろう。
最後まで忠誠心の強すぎたナズは命尽きるまでリージアンの恥を守り切ると覚悟し餓死するまで部屋に残る、そして番犬のナズになった。
思念体のナズが主人の元に行き、それが世間的に言われる番犬のナズでありユーゼムの斬り殺した犬が本物であった。




