受け入れる側
「百四十八人は入りません」
南倉の世話役は、戸口に積んだ寝藁を指した。
「寝台は二十。付き添いを入れて二十六人までです。井戸は町の分まで減っている。相手が誰でも、この人数です」
エルナは倉の奥行きを見た。寝台を二列置けば、通路が一本消える。熱のある者と開いた傷を同じ空気へ詰めれば、数だけ入っても受け入れたことにはならない。
サラが寝たまま着いたら、どの寝台へ置くのか。その考えが一度だけ浮かんだ。エルナは通路の幅を測り直し、頭の中から娘一人の寝床を追い出した。
「では、ここは歩けない人と高熱の人。患者を二十、付き添いを含めて二十六」
「残りは?」
「残りの人は、別の場所へ振り分けます」
世話役は意外そうな顔をした。エルナはもう、隣の中庭を測っていた。空の水樽が六つ。屋根から雨水を取る溝は乾いている。
「井戸水は何樽まで出せます」
「二樽。町の夕方ぶんを残せば」
「三樽必要です。足りない一樽は東の醸造場から運びます。井戸から汲む人を二人、朝まで貸してください」
受け入れの窮状を聞き、手伝いを申し出た者は多かった。家を空ける、鍋を貸す、余った毛布を出す。ありがたいが、誰がどこへ運ぶかを決めなければ、善意で集まった品が庭を塞いでしまう。
エルナは荷車へ戻り、待っている三人へ状況を告げた。南倉を含む町側の代表、戦前に西と取引していた魔族商人、それに中立地で診療を続けている老治療師だ。三人は同じ机につこうとせず、荷車の左右と後ろに分かれて立っている。
「南倉は付き添い込み二十六。熱と寝たきりを優先します」
魔族商人が腕を組んだ。
「魔族の負傷者も入れるのか」
「治療師が状態で決めます」
町の代表が口を挟む。
「武器を持った者は困る」
「白い結びで来る人は、境を越える前に武器を置いています。置かない人は中立野営地から先へ動かしません」
それでも代表の顔は晴れない。エルナは二十六枚の寝藁を数え直し、それ以上を求めなかった。通路を塞げば、寝ている者を外へ運べなくなる。
西門外の旧放牧地は、戦前には羊市だった場所だ。戦が始まってから使われていない。柵は半分倒れているが、地面は乾き、二本の道へ出られる。ここを中立野として天幕を張れば、一晩の待機地になる。人間領へ進みたい者、西へ戻りたい者、まだ決められない者を、そこで別の荷車へ渡せる。
「旧放牧地に九十人は置ける」と町の代表が言った。
「横になれるのは?」
「二十くらいだ」
「では、歩ける人の待機地にします。焚き火を六か所。入口は二つとも開け、行き先ごとの標を置きます」
「混ぜれば揉める」
「行き先を選ぶ場所と、寝る場所を離します。入口では分けません」
魔族商人は返事の代わりに、中立野から西へ出る道を指でなぞった。
「夜明けに一隊出せる。荷駄獣四頭、荷車一台。灰谷までなら私の名で通す。そこから先は乗る者が選ぶ」
「人間側へは二隊」とエルナ。「うちの馬三頭と、南の農場から借りる二頭。寝たままの人は南倉へ、歩ける人は染物組合の作業場へ十八人まで。空いた荷台を中立野へ回します」
老治療師が首を振った。
「空くとは限らん。途中で歩けなくなる者が出る」
「一台は空けたまま往復させます」
「食料を積めなくなる」
「食料は中立野まで別便。人を乗せる車へは一日ぶんだけ」
行き先は南倉二十六、染物組合十八、中立野、西への隊に分かれた。到着した者は中立野で希望を伝え、それぞれの荷車へ移る。
昼過ぎ、醸造場から補助の水樽が届いた。エルナは自分で蓋を開け、中の匂いを確かめた。酒の甘い匂いが残る二樽は洗い物用へ回し、きれいな四樽を南倉と中立野へ分けた。毛布は、乾いたものと洗い直すものに積み分ける。
日が傾いたころ、国境詰所の走者が来た。馬から降り、息を整える前に報告した。
「白結びの一行は通過。途中で食料箱を一つ失いました。負傷者一人を先にこちらへ送っています」
「負傷者は、若い女ですか」
「男です」
「容体は」
「詰所で止血。いま南倉へ向かっています」
エルナは用意した寝床の一つを指し、走者へ水を渡した。失ったのは干し豆の箱だった。朝の粥を四十椀減らす量だった。
補う物はある。ただし、受け入れ側の予備を削ることになる。
「荷役の夜食を粥へ変えます」とエルナは町の代表へ言った。「明日ぶんの白パンは到着者へ。中立野へ出す豆を二袋増やして」
「こちらの者も働いている」
「粥は全員に一杯ずつ。水を増やして延ばします。倒れるほどは減らしません」
エルナは荷役の人数を数えてから、不足分の炒り豆を量った。半分を到着者の荷車へ、半分を夜通し働く者の鍋へ置いた。
夜、中立野にした旧放牧地へ六つの火がついた。まだ誰も到着していない広場へ、水樽と寝藁と行き先の違う三台の荷車が並んだ。
エルナは自宅用に残していた小麦袋を一つ荷役に担いでもらい、荷車の最後の空きへ積んだ。
マレクが帰れば、家の粉箱が空だとすぐ気づくだろう。小言を言う顔まで浮かび、エルナはその想像を追い払わなかった。




