選ぶのは誰か
マレクは百四十六人を、歩ける者と歩けない者に分けなかった。
「ここから黒鈴窪まで、支えなしで歩ける」
「途中から肩が要る」
「荷台か担架が要る」
「揺らしてはいけない」
四本の縄を床へ張り、名を呼んで返事を聞いてから札を置く。
午後三時を過ぎても、四つの区分は終わらなかった。朝は歩けた足が、夕方には腫れる。横になっている者も、担架でなければ移動できないとは限らない。セナは呼吸と熱を見て、マレクは一時間後の歩幅を聞いた。
「サラは赤縄車に乗せる」
右腕を吊り、肋へ帯を巻いた娘の札を、マレクは「揺らしてはいけない」へ置いた。セナがその札を取る。
「揺れを避けたい人は、ほかに十一人いる。車へ乗せる順番は、傷で決める」
「あいつは地脈を読む。先に西へ出せば――」
「指揮ができるから、患者でなくなるわけじゃない」
「なら、なおさら最初に」
「サラに聞いてない」
その言葉で、マレクの手が止まった。
サラは少し離れた場所で、残る百四十六人を同じ本隊で出すための隊列をドムと作っている。父親の声は聞こえていた。それでも、自分からこちらへは来なかった。
セナが次に呼んだのは、フィアだった。
熱は朝より下がっている。けれど、立つと息が浅くなる。母親が抱こうとすると、フィアは自分で床へ座った。
セナは目の高さを合わせる。
「西へ先に行けば、お医者が早く診られる。お母さんとは、しばらく別になる」
「しばらくって?」
「明日の夜までかもしれない。もっと長いかもしれない」
「残ったら?」
「お母さんと一緒に行ける。途中で熱が上がったら、その時にまた聞く。苦しくて返事ができなくなったら、お母さんと私が決める」
フィアは母親の指を一本ずつ握った。
「一緒に行く」
「西へ?」
「お母さんと。みんなのほう」
セナは母親でなく、フィアへ頷いた。「途中から肩が要る」の縄へ名を移し、熱が上がればもう一度聞くと添えた。
食料庫では、ラカが酸味の強くなったパン種を前に座っていた。
大きな壺のまま運べば、水も重さも要る。全部捨てれば、行き先が決まったあとも、借りた種から始めなければならない。ラカは種を半分、火の消えた灰穴へ落とし、へらを止めた。
「残りも捨てれば、革袋が一つ空く」
マレクが言うと、ラカは小さな器へ残りを移した。
「西へ行くと、決めてない」
「そうだったな」
「東へ帰っても、ここに残っても、焼ける」
器の縁を布で拭い、自分の名を結ぶ。半分は失った。
棚の端では、オナとトーマが救援の容器を全部並べていた。
百リットル樽が三つ。十八リットルの蓋付き桶が六つ。十二リットルの革袋が四つ。オナは量水棒で四百五十六リットルを確かめた。
貯水槽には、底から五百六リットルの保全線がある。そこを割らないよう手桶で取り分け、トーマが満ちた口を蝋紐で封じる。樽二本は赤縄車、一本は黒縄車、桶と革袋は青縄車へ分けた。残る五十リットルは最後尾の共同巡回用に別の灰封をした。
「ここから先、喉が渇いても開けない」
オナは皆へ言った。
「出発まで飲むのは、槽に残した待機分だけ。病人の追加もそこから。自分の分を勝手に返すのは禁止」
サラはその説明を最後まで聞いてから、赤縄車の封印へ指を置いた。
「黒鈴窪で、もう一度満たせる?」
「水が生きていれば」
答えたのはヴェスだった。
「今夜、道を知る者に見てもらう。戻った水と記録を見るまでは、飲めるとは言わない」
日が傾き、サラが一人になった時、マレクは声をかけた。
「お前を連れ帰るために来た」
娘は振り向かなかった。
「百四十八人を迎えに来たって、イェルには言った」
「最初は、お前だった」
「じゃあ、私だけ先に乗せる?」
「傷を見れば、そうしたい」
「私が嫌だと言っても?」
マレクは答えを急がなかった。荷の値なら、重さと道で答えを出せる。娘の行き先には、その秤を使えない。
「西門には、母さんがいる」
「会いたい」
サラはそこで初めて、父を見た。
「会いたいけど、私の帰る場所を父さんが決めないで」
サラは、セナが持っていた自分の札を取った。赤縄車へは戻さず、「途中から肩が要る」の縄へ結ぶ。右腕を使わない伴歩者と、呼吸が浅くなった時の停止を裏へ書いた。
四本の縄のうち、道中ずっと運ばれる者は二十六人。肩を借りる者は十八人、自分の足で歩く者は百二人になった。
遠くで、フィアの咳がした。
セナがもう一度、熱を確かめている。フィアは母親の手を握ったまま、父娘へ聞こえる声で言った。
「私が決めたって、セナにも言った」




