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首都圏山間部の巨人

 首都圏のとある山間部。

 壮大な自然に囲まれた土地に幾つも、鼻の長い人の様な像。濃霧地帯、茶屋。そんな風景が広がる都会の地。人知れず佇む洋館は、今やとある大富豪の所有する実験施設として機能していた。


「ブフゥ……最悪だ」


 資産の多くを金に変えて洋館に避難した大富豪は、大量のメタルナ・アイーツを前に絶望した。相場の10倍での買い占めは良かった。裏社会に属する者から次々に取引が上がり、他の富豪たちによる転売も加熱した。しかし、あまりにも運が悪かった。


 それは、大富豪が6個目のメタルナアイーツを、成金趣味な杖で潰した瞬間に脳内に染み入った。


「なんだ……この力は? 病魔耐性……私は永遠に、病にならない? 能力は変動せず、今後新しい能力は得られない…‥」


 最高の当たりだ。

 彼はもう病にならない。北極で裸踊りをしても風邪をひかず、汚水を飲んでも快便確定。しかし、今の世界を考えれば、どうだろう。


 着実に数を増やすメタラーの腕力は際限なく強化される。

 大富豪には他の能力は分からないものの、もし火を操る能力や爪が伸びる能力……そういった者が存在するならば、既に匂い立つメタル数による身体差など問題ではない。メタラーの価値は能力ガチャであり、その憶測に彼は震えた。


 ……最高に、食中り的だと。


 それでも、大富豪は迷わなかった。

 不況や損益は見飽きている。立て直して最後に笑えばそれでいい。


 彼は部下を総動員して最寄で有数のバカを屋敷へと招いた。

 今は金に従順な部下でさえ、裏切る時が来ようとも信頼できる……最高に懐柔しやすいバカを探した。


「おっさん誰だぁ? オデ、なんでここ来た? 腹減ったし家帰りたいぞ……え? 家の場所? 屋根の色? おー?」


 犬のお巡りさんでも手を焼く様な、期待以上のバカであった。


 大富豪は務めて笑顔で料理を振る舞った。

 とはいえ、それはバカに合わせたご馳走であり、上等なワインや珍味ではない。美味くて柔らかい肉、中毒性さえありそうな甘味。


「なんっだこれ!? 口の中で溶けるぞ!! 噛めね……モゴモゴ。幾ら口に……入れても。溶けて、無くなって……ウマ、ウマ!!」


 バカな青年は馬車馬の様に肉を平らげた。

 やけに煌びやかな風呂に入り、美女に身体を洗われて赤面し、あまりにも軽く上質な寝巻きを着せられた彼は、自分が服を着ていることを3歩歩くごとに確認した。


「おっさん、すげー良い人だなぁ」


 彼の何倍も大きなベッドに横になり、少し落ち着かない様子で言った。

 流石に彼も不思議に思う。なんで、こんな良い事をしてくれるのだろう。少なくとも、今までに会う人は、馬鹿にされる事はあっても、こんな事はしてくれなかった。


「ブフ……そうかい? 私は君とオトモダチになりたいんだ」


 欲にくらんだ純粋な目が青年を見る。

 何かを確信する様に、口角を上げていく。


「お友達? いいなー。オラ、お友達、はじめてだ」


 純粋な笑み、溢れるほどの笑顔。

 青年は、とても嬉しくなった。


「そうか。では私は君の1人だけの友達だね。……君が困ったらなんでも助けてあげるよ。私はオトモダチだからね」


 これが肝要だ。

 後でオトモダチが増えてはいけない。彼には、私だけの、オトモダチでいてもらう必要がある。


「おー、じゃあオラもおっさんが困ったら助けるぞ……1人だけの、オトモダチ、だから……」


 そう言いながら目元を擦る。

 旅に疲れに、未体験のもてなし。慣れない事が続いたせいだろうか。彼は微睡みに落ちていく。この上なく幸せそうな顔で瞼を閉じ、それを見る大富豪は微笑んだ。それはそれは、醜悪な顔で。


 大富豪は思う。面白いほど上手くいった。

 あとは、眠った彼に6メタルを与えればいい。


 完璧な下僕が完成する。

 能力ガチャが外れたら繰り返せばいい。よくよく考えると下僕にするには品性が無い気もする。どうせなら好みの容姿にするべきだった。まぁ、それは些事である。


 そして、転機が訪れた。


「緊急報道です。皆様落ち着いてお聞きください。現時刻、突如として巨大な人……? が首都圏山間部の奥地に出現……し、出現した巨人? は……ぜ? 全裸で眠っており?」


 その後、大富豪を見た者は誰もいなかった。


......


「......ん? 朝?」

「おっさん?」

「ここ、どこだぁ? みんな、小さくなっちまった? んー?」

「腹、減ったなぁ......」


......


「緊急報道です。皆様落ち着いてお聞きください。現時刻、突如として巨大な人……? が首都圏山間部の奥地に出現……し、出現した巨人? は……ぜ? 全裸で眠っており?」


「あ、失礼しました。只今より官邸からの緊急発表に切り替わります」


「ー本日、突然の報告を失礼いたします。我が国の政府としましては、ただ今の時刻をもって国民の生命・財産に係る極めて重大な事態と判断し、緊急的かつ超法規的措置を講じますー」


「ー国民の皆様には、別途指定する地区からの即時避難を要請いたします。また、我々は原理不明の生命体への対応のため、関係法令に基づき、相応の武力を運用可能な特殊部署を設置し、速やかに対応を進めてまいります。以上ですー」

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