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子供部屋の戦い

 断片的な幼少の記憶。

 父の姿はない。ただ、代わりに怪獣のおじさんがいた。いつも僕に倒される優しい怪獣だった。


 桜の舞う公園でおにぎりを頬張る僕の横で、彼はお母さんと笑っていた。

 お母さんの来ない日、みんなが帰った園に、小さな自転車を転かした怪獣のおじさんが来て、僕の手を引いた。

 酔ったお母さんを怪獣のおじさんが家に運んだ。傘を持っているのに、びしょ濡れだった。お母さんはおじさんが帰ると、静かに泣いていた。


 お母さんが写真になった日から、僕は色々な家で過ごした。

 歳のわりには理解があるとはよく言われた。


 そしてある日、遺品の底から自分が『生まれた理由』を拾ってしまった。


 嘔吐した。悪い夢であって欲しかった。

 でも、記憶の片隅と符号する。


 最後に見た怪獣のおじさんは、静かに泣いていた。


……


 子供部屋の扉が静かに開く。


「マダオおじさん、だよね?」


 天星が静かに尋ねた。


「……天、星?」


 虚無に根を生やしていたマダオが、彼を見た。


「無駄だぞ……俺を殺しても、もう遅い……」


 それすらも、どうでもいい様だ。

 全ての関心を失い、魔力も無い。かつて悪意を振り撒いた……残り滓。


「何も決めてなかったけど、マダオおじさんだって分かったから。僕が何をしたいのか、分かった気がする」


 彼は今ここで、自身の旅の意味を決めた。


「……………」


 白濁の瞳を、まっすぐな瞳が見つめる。


「マダオおじさんは僕の分も、泣いてくれていたんだね?」

「僕の分まで泣いてくれて、ありがとう」


 堪えきれなかったものが、天星の頬を伝う。

 天星の旅は、彼に『ありがとうを言う為の旅』だった。


「…………なんだそれ」


 全てを壊そうとした男がいた。

 全てを救おうとした男がいた。


 そして、全てを嘲笑う女が、来る。

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