味気ない未来
少女を見送った夜は、いつになく淋しかった。
「静かだな……」
「はい……」
沈黙が、痛い。
「もし……僕が世道さんの言う通りにしてたら、彼女を救えましたか?」
振り絞る様な声だった。
「当たり前だろ。そうすりゃ今頃100メタルだ。沿岸国家の半分は支配して、善意でも悪意でも植え放題………だが、本気でそれで良いとは思ってないんだろ?」
「…………はい」
ため息が、自然と漏れた。
「だろうな。それをやったら坊主じゃねぇ……そういう事なんだろ」
「っ!!……はいっ!」
やはり、年相応のクソ坊主だ。
世道は彼の震える布団をかけ直し、夜風の方へと歩いた。
「冷えてきたな……」
おじさんには、野宿が堪える季節だ。
その時だった。世道の口内に鉄の味がした。
「この味は、ヤバいな……」
危険だ。だが、なぜ。どこが、どこから。
思考をまとめる間もなく、背後で破裂音。
「坊主っ!!」
振り返ると、吹き飛ばされた天星が唸っている。軽傷……だが、意識はない。
「ああ、もうなんだってんだ!!」
天星を担いで世道は走った。
暗く鬱蒼とした方へ、月明かりが届かない世界へと。
……
林を駆け、木々を抜け、小川を越えた。それでも、死の気配が追ってくる。
「異常能力か? 火器? 分からねぇ……」
「クソ……包囲する気だな」
世道が仕切りに口内で舌を這わせる。
その度に鉄、無、青草と味が変わる。世道は青草の味のする選択だけを信じて走り、走って、立ち止まった。
「……マジかよ」
この先は、どこに進んでも味がない。
ただ、この小僧を囮に逃げようとした時だけ……青草の味がした。
……
世道は1人走っていた。
後方に迫る者が、動く夜の様だ。
時折、銃弾が身体を掠める。
だが、頭はずっと疑問しかない。
「なんで、こんな事に……」
それは、彼にも分からない。
強いて言えば『それ』しか選べなかった。
「なんで、俺は……味のしない未来を選んでんだ!?」
夜が迫る。
着地の瞬間、足が消し飛ぶ。転げて、仰向けになり、降る様な星空を見た。
「あっ……」
痛みはない。むしろ、痛快。
「あぁ、これは傑作だ。草なんか食ってたら、俺じゃねぇ……か」
世道虚は『明日の夕食の味』が分かる。
「小僧に教えてやらないとな……悪魔の証明は解けたっ……」
その時、世道の耳に最後の音がした。




