お散歩と6日目の世界
メタルナアイーツが降って6日目。
止まないメタルナアイーツはないさ……多分。
「どっはー俺は、最強だー!!」
首都圏某所、路上に捨てられた車の上で、1人のメタラーが叫ぶ。
「お、メタル発見!!」
道に転がるメタルナ・アイーツ。
男が、それを見た瞬間。それは溶けるように焼け消えた。
メタルナアイーツ降下初日に、股間にメタルナアイーツが直撃した男は、幸運だった。
「能力ガチャ当たり過ぎ、これ俺TUEeeeeルート確定っしょ!! ハーレム完成秒読みっしょ!!」
男は酔いしれていた。
初動だけなら黒木影人以上。股間をおさえて悶絶した後にはもうメタルナアイーツの有用性に気づき、皆が無関心のフェイズに3メタルへと到達。しかし、その頃には武装した裏社会や目の血走った警官が頻繁に出没した。まともに争奪への参加は望めず、頭の悪い賭けに出た。
そうだ。裏社会の団体が集めたメタルナアイーツを強奪しよう。
なんかいい感じに隙を見て潰して、速くなった足でガーーーーっと逃げたら多分いける。
そんなクソみたいな計画が成功。成功してしまった。
なんなら彼が強奪に出たタイミングが、組織内部の裏切りが多発したメタルナアイーツ混乱期であった事さえ、彼は分かっていない。つゆほどもである。
そんな彼の前に、回転するキャタピラの音を響かせ1輌の戦車が止まった。
男はそんな大通りに止まった危険物を無防備に凝視する。
「おん……?」
いや、逃げろよ。
しかし、そんな間も無く上部入り口が開き、1人の汗ばんだ美女が現れる。
雲を割って差し込む光に当てられ、無骨な戦車から上半身だけを覗かせる美女に、男はただ見惚れた。
「おんな?」
不意に目が合い、女が男に手を振る。
「おはよう」
「うほっ……お、おはよ……」
その瞬間、心を引き抜かれた様に、男の意識が途絶えた。
……
「……おん? なん……だ?」
気づけば、男は暗い部屋にいた。
汗ばんだ下着姿の美女が目の前にいるが、両手足を拘束されている現状では流石に、それどころではない。
「おま、なんで? あれ? 俺の能力……は? 使えない!?」
「お兄さん、誰?」
美女の名は、まだ無い。恐らくこれからも。
散歩中に珍しい車を見つけたからドライブしてみた。
目立つ男がいたから、ちょっと能力で操ってみた。
名前の無い娼婦にとっては、ただそれだけの事だった。
「気候変動の能力? よく分かんない……」
男の答えに娼婦は温度のない声で呟く。
滝のように汗が流れる。嫌な予感が、とめどなく積まれていく。
「へ、へい! 座標単位……どこでも暑くも寒くも出来る能力です。超凄いンスよ!!」
男は恥も外聞もなく全力で謙っていた。
媚に媚びろと本能が告げていた。この女はヤバい。絶対に厄ネタだ。
「温度上限めっちゃ高いし、兵器並み……あ、地球環境改善とかも出来ちゃうし!!」
渾身の有用性。
要約するに俺は最強の兵器で、救世主。マジで凄いからどうか仲良くしてください。
「ふーん。なんかつまんない」
「えぇ……人類の悲願、環境改善だよ……?」
あぁ、ダメだ。これはダメなやつ。
この女はそういう話しには興味がない。幾ら有用性を話してもダメだ。項垂れながらも、男は諦めない。もっと即物的な、究極に俗っぽいプレゼンが必要だと確信する。
「お嬢さん……私がいれば貴女の周りはいつでもヌーディストビーチ!! 一生……貴女を快適にしてみせます!」
決まった。恐ろしいほどにバカ。
しかしそれを聞いた名前の無い娼婦は、すっと立ち上がると、鞄から徐にナイフを取り出した。
「え? なんで? どどど、どうして……?」
「昨日私のお気に入りの服、汗だくになったの。貴方の意地悪なのね……嫌い」
終わる。俺の人生が終わる。地球環境も終わる。まずいまずいまずいマズい。
「いやいやいやいや、昨日まだ君に会ってもないし、知らんし、ちょっ待……」
あ、ダメ。そういう命乞いは無駄なのはもう分かってじゃないか。
そして、唐突に閃く。
「あ、もしかして!!」
「ヌーディストビーチ……お嫌いでしたか?」
その後、彼の行方を知る者は誰もいなかった。




