26話 ドンデン返し
俺が口を出したのが面白かったのか、二階堂の返答が奇妙だったのか、マスターが愉快に笑う。
「クハハハハッ! リュカよ、上手い誘導尋問だ、今のやり取りで大体の筋書きが読めたぞ。だがその前に、二階堂くんの交渉内容を聞こうじゃないか。材料はおそらく女性たちとフィギュアであろう」
大河と二階堂が親しいのなら、当然と大河は人質とはならない、マスターはそう判断した。
「フッ、ご明察。大河くんの義妹がパンドーラのリーダーであることを前提に話をしよう。リーダー不明の今、パンドーラの彼女たちは組織の道具として使われようとしている。危惧した大河くんが私の部署に入れてくれないかと言ってきた、もちろん断った。その代わり、彼女たちに店舗を構える案を提供した、佐伯の代役としてな」
「ふむ、我らがフィギュアを持っていることを知っている、情報源は大河くんか?」
「ああそうだ」
奈來と大河は顔見知りだ、だが奈來から大河に接触することはない。たぶん大河は俺達の行動を把握していた、というより組織に近い存在……そうか、最初からというのはそういうことか。
「二階堂、お前が言ったビジネスの部署とは、貿易会社グランデ・ベェルヴァの部署のことだな?」
「ほう、もう調査済みか。私はビジネス開発部部長兼ヘッドハンティング担当の二階堂 秋だ。まったく、面倒事に巻き込まれて散々だ。なあ、この際ぶっちゃけ論といこうじゃないか、どうせ粗方の調べは付いているんだろ? お前たちは何者だ」
二階堂の提案にマスターは思案する――
「マスターどうする……?」
「いいだろう、但し、他言無用の秘密厳守だ」
二階堂の顔が一瞬こわばる――
「おいおい、随分と厳重だな、大河くんがお前たちは普通の人間とは違うと言っていたが……ならこちらもひとつ、部下は助けてやってくれ、犠牲は私だけで十分だ」
二階堂の話にマスターはムッとする。
「我らを何だと思っている、悪魔や妖怪じゃあるまいし、まあ、悪魂なら狩るつもりでおったがな」
大河は俺達のことをどう説明したのか。確かにあのガレージでのマスターはスケルトンで悪魔っぽかったけどね、俺もちょっと怖かったし。
まあ、悪魔がどういうものかは知らないけど。とにかく、これで全貌が明らかになって傀儡さえ手に入れば一件落着だ。
そこへガタガタと椅子を並べて部下達が座った。空気の読めない部下だ、馬鹿なのかこいつら――
「おい、上司の言うことに逆らうのか? 一生後悔するかもしれないんだぞ」
「……武力には劣っても、ビジネスマンの頭脳を侮らないで頂きたい。必ず役に立ってみせます」
「お、お前たち……」
助け合いの精神ってか、誰を相手にしてるかも知らないで――
「ふ〜ん、役に立つねえ、どうだかな」
「リュカよ、好きにさせてやれ。二階堂くん、我らは冥界の任務で来た死神とその弟子だ」
「……は?」
「ふむ、我もその反応には慣れたぞ、ならば論より証拠だ」
と言って、マスターはスケルトンの死神に、俺も尽かさず亡霊になって剣を突き出した。そして部下達は白目を剥いて昏倒した。
ほら、言わんこっちゃない、役立たずめが。
なんとか正気を保っている二階堂を前に、マスターが話を始める――
「最初に確かめておく、君はイントルーダーと名乗っていたが、組織とは無関係で良いのだな?」
「……えっ、ああ、申し訳ない……いや、まさか神に遭うとは……は、はい、嘘偽りなくイントルーダーとは無関係です」
「良し、では大河くんはどうだ?」
「そうでした、ぶっちゃけ論でしたね。もちろん無関係です。会社の社長は私の兄で、大河は甥です」
「ということは、社長の名前は二階堂だな?」
「はい、二階堂 春太郎です。あ、あのう、もし可能であれば、元の姿でお願いできませんか……?」
マスターは「チッ」と舌打ちをして仕方なく人間の姿になった。当然俺も。
しかしこれで社長の名前はクリアした。
二階堂が話を続ける――
「ハァァ、ありがとうございます。組織ですが、最初は会社の警護のために雇った男たちが、いつしか自分たちで派閥を持ち、勝手に漆黒のイントルーダーと名乗り、世間から忌み嫌われるマフィアと呼ばれるようになったんです」
二階堂の話だと、社長は関与していないように聞こえるが、会社の警護というだけに、社長がボスにならざるを得なかったということか。
名前は社長が付けたのだろうか――
「組織のボスの名前をロック・ハロルドと聞いたんだが、本当か?」
「ああ、それは兄がハロルドというロック歌手が好きだっただけで、人の名前ではありませんよ」
くだらないオチか……でも一応クリアで。
「問題は大河ですが、奴らを雇う少し前、会社の跡継ぎ問題で兄と大喧嘩となり、兄は大河を家から追放した上に存在すら隠蔽したんです。そして大河は当て付けに名前を変えて海外へ渡米した、なので今の幹部連中は大河の存在を知りません。後はお調べになられた通りかと」
お調べになられたと言われても、大河が関わっているのはわかるが、肝心の標的が誰なのかがわからないとピリオドは打てない。
なのでマスターに教えを乞おう――
「なあ、大河があの爆破現場にいたってことはわかったが、標的は誰だったのか今いちわからないんだ、マスターはもうわかってるんだろ?」
マスターが真顔で悩んでいる、ちょっと……。
「う〜ん、目的はミライか佐伯のためであろうが、標的となると、父親か組織か……」
そこへ申し訳なさそうに二階堂が話す。
「あのう、標的は佐伯で、既に目的は果たしていますので、後は大河をどうしようかと……」
「「なんだって?!」」
何というドンデン返しだ――




