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27話 顛末と作戦


 俺とマスターは意外な展開に、声を荒げつつ二階堂に詰め寄り詳しく訊いた。

 マスターは事の顛末を黙って聴いていたが、苦虫を噛み潰したような顔で、


「人間は不安になると悪魔の(ささや)きに耳を傾け、絶望的になると何かに(すが)る、哀れな生き物よ」


 と言って、冷めた眼差しで(くう)を仰ぐ。

 

 顛末――大河は佐伯とミライが密かに付き合っていることを知っていた、将来、ミライが幸せな生活が送れるなら見守ろうと。だが女盗賊団を必要とする組織はミライを手放なそうとしなかった。

 そんな矢先、二階堂が佐伯をハントしたことを知った。大河は父親が佐伯という刺客を送り込んだと思った、そして大切なミライをも奪われると。

 

 心中穏やかでない大河は、ミライから佐伯を引き離そうと考えた。そこへ、組織が探している傀儡を佐伯が隠していると幹部から聞かされた。

 そして追い打ちを掛けるように大河に囁いた、「ミライを殺されたくなければ佐伯を脅せ」と。

 大河は悪魔の囁きに耳を傾け、そして駐輪場に爆弾を仕掛ける役目を引き受けた。

 

 爆破が偶発的か意図的か、結果として佐伯はミライの前から姿を消した。大河の中に葛藤はあったのかなんて、聞く気にもならない。

 

 俺はここで疑問だったことを二階堂に尋ねた。


「俺は爆破現場にいたんだが、大河は佐伯と何か話したとか言ってなかったか? あ、敬語なしで」

「それでは。多分あれかなあ、『片割れはどこだ』と聞いたら『ミライを頼む』と言われ、自分が情けなくて思わず失笑したと言っていたが」


 なるほど、あの(あざけ)りは自分に対してのものだったってことか。そのあと証拠隠滅のため、あのジルドとかいう幹部に矢を放ち殺した。身勝手な男だ。

 これ以上は知る必要も得るものもない、時間の無駄だ。俺達の標的はイントルーダー、組織の場所を聞いたらとっとと退散しよう。


「二階堂さん、組織の基地がどこにあるか知っていたら教えてくれ」

「基地か……確か会社の古い倉庫があったな、場所はここから少し離れたベイブリッジの観える埠頭だ」

「ではリュカよ、大掃除だ、狩りに行くぞ」

「――了解!」


 俺達が席を立つと、二階堂が慌てて呼び止める。

 

「えっ、ちょっと、大河と女性たちはこのまま放置ですか?」


 マスターが応える――


「ふむ、警察を呼ぶも良し、働かせるも良しだ。ああそうだ、我と名を交わした者は魂の契約者となる、忘れるなよ。それと、ミライは死んだ、因果の法則は変えられん、(ことわり)と同じでな」


 そう言ってマスターは歩き出す、俺も後に続く。背後から二階堂の大きな溜め息を耳にして――


 廊下に出て俺はこっそりとマスターに尋ねる。


「……魂の契約者って、本当?」

「お前が惑わされてどうする、そんな面倒くさいことあってたまるか」

「う、うん……だよね」


 最近マスターは茶目っ気たっぷりのジョークを習得したらしい。まあ、ほどほどに。

 

 校舎を出ると、黒いワゴン車が待機していた。中からラパと朱鬼、遅れてレオンが飛び出す――


「死神ちーん!」

「リュカ様!」


 言ってラパはマスターに、朱鬼は俺の顔にしがみ付く。どうして小さな生き物は顔を狙うのか!


「グホッ……えっと朱鬼くん、どうしてここへ?」

「奈來さんが応援に行けとおっしゃったので!」

「おいレオン、まさかミライも一緒か?」

「いえ、ボスが連れていかないほうが良いだろうと、フィギュアと一緒に置いてきました」


 横でマスターが頷く――


「良い判断だ。まだミライと大河を逢わせるわけにはいかない、ここは閻魔王の領域、我らがどうこうできる問題ではないからな」

「……うん、そうだね」

「死神ちん、ラパはチームの一員なのだ! いつも一緒が良いのだ!」


 俺とマスターは顔を見合わせ困惑する。


「どうするマスター、いくら無敵のローブがあっても捕まったらアウトだ。ラパには危険すぎるし必ずしも俺らが守れるとは限らない」

「うむ、相手は多勢に武勢、戦い慣れている者なら冷静に対処してくるだろう。ならば正常な判断ができない状況にしてみたらどうだ?」

「う〜ん、慌てたり驚いたりすることか……」


 それぞれが考え始める――


「レオンくんは人間代表として何か思い当たることはないかな?」

「そうですねぇ、コンビニで買い物してレジに行ったら財布がなかった時、思考停止しましたね」

「うん……そういうことなんだが、他には? リュカや朱鬼はどうだ?」

「俺は……白虎やケルベロスに遭った時かな」

「僕は百鬼夜行を見た時です!」


 レオンが呆れた顔で言う。

 

「百鬼夜行とかケルベロスとかアニメの世界っすよ、逆に興味惹いちゃいますって。だったら心霊スポットとかお化け屋敷のほうが正常ではいられないと思いますけど……」

「「「おお、それだ!」」」


 確かに、人間の弱点は恐怖だ、しかも幽霊や化け物に仲間を殺されたとなればパニックにもなるだろう。それに、目撃者がいたとしても脅かして蹴散らせばいいだけの話、どうとでもなる。

 もしかしたら殺人事件ではなく、死体のない怪事件として処理されるかもしれない。


 そんな浮かれている俺達を横目に、ラパが不服そうに駄々をこねる。


「ええ〜、ラパは妖怪でも幽霊でもないのだ」


 妖精も妖怪も似たようなもんだろ、いいから黙って働け。


「ラパくん、この作戦はラパを案じてのことなんだよ、言うこと聞いた方が得策だよ」

「そうなのか? なら言うこと聞く。ラパは何をすれば良いのだ?」

「そうだなぁ、松明を持って飛んでみるとか、驚くこと間違いなしだ」

「おお、お安い御用なのだ、任せるのだ!」


 チョロいな。後は野となれ山となれだ――

 

 


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