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25話 交渉の余地


 マスターの指示に俺も地に降りた。そしてこれからどうするのか尋ねた。

 

「マスター、何か策があるんだよね?」

「いや、特にない。我らを招待してくれたのだ、お招きに預かろうではないか」


 特にないって、まさかの無策か……。

 

「……いくらマスターでも無策は……」

「リュカよ、人質がある場合、無策のほうが良いこともある。それに、奴らも何か要求があるから誘ったのかもしれんだろ? ならばその対話の中で、組織の目的と首領を我らが探れば良い」


 言っていることはわかるが、もし、見せしめに女達が殺されていたら、状況は大きく変わってくるだろう。それとも対話で自ら立てた戦略を活かそうとしているのか。

 まあ、俺がどうこう言っても仕方がない、マスターが動き出したんだ、ここは黙って従うだけだ。

 しかし、もう彼女達に逢うことはないと思っていたが、今は無事てあることを願う。


 そんな俺とは裏腹に、マスターが黒帽子の男達の背後に近づく。マスターの正々堂々は捕まることらしい、先が思いやられる……。


「おい、君たちは先程バールで襲った者だろ?」

「ヒッ! だ、誰だお前たちは?!」

「タバリオンの倉庫と言えばわかるか?」

「――ああ、お前らがあの弱っちい奴らの助っ人か。付いて来な」


 やはりタバリオンの関係者と思われているようだ。俺達は黙って男達の後に続いた。

 校舎の入り口で男が2階へ行けと指示を出す、だが男達はケラケラと笑って(きびす)を返しその場を去る。

 

 その様子を見てマスターが言う――


「おい、お前たちの役目はここまでか?」


 男達は振り返り応える――


「だったらどうした、さっさと行け」

「そうか、ではさらばだ――」


 言ってマスターは何かを唱えた――

 

「《死の黒手(デスハンド)》」


 突然、何も無い空間に裂け目ができた、するとその裂け目から黒く細長い手が数本現れ、男達の背中にスッと手を入れると、グシャっという音と共に心の臓を取り出し、そのまま裂け目へと持ち去り消えた。ドサッと男達が倒れる。

 俺は何が起こったのかと呆然と立ち尽くす――


「リュカにはまだ見せていなかったな、これは我の第二の鎌となる死の黒手(こくしゅ)だ。心の臓、つまり魂を強制送還し冥府で悪魂として処理をする。リュカよ、狩りは既に始まっているのだ」

「……狩り……」

「リュカ、我らは『伝言』をもとに悪魂の討伐に来たのだ、既に起こったこと、これから起こることに惑わされるな、状況は刻一刻と変わる、良いな」

「あ、ああ、わかった」


 マスターの狩りという一言に、ああまた一歩出遅れたと、余計なことばかりに頭を働かせて、本来の任務を(おろそ)かにしてしまった。

 俺は未だ人間側で物事を考えている、人助けに来たわけじゃないのに、でも俺は……。


「リュカは後ろへ、質疑応答は我に任せろ」

「――了解」


 今はとにかく目の前のことに集中しよう――


 俺達は階段を登って、2階の明かりの点いた教室へ向かった。そこへ教室から黒いスーツの男が出てきた。俺達の姿に驚くこともなく、辺りを見回して手招きをする。


 マスターは戸惑うことなく教室へ入る、俺も後に続く。教室の中は机や椅子といったものは取り払われ、ただ教壇の上に椅子だけが置かれていた。

 窓側と廊下側にはスーツの男達が並ぶ。


 反対のドアから幹部らしき男が入ってきた。


「おい、椅子を用意して差し上げろ――随分と早いお出ましだ、私はイントルーダーの二階堂だ。どちらがリュカ・アークスかな?」

「俺だ。隣りは俺の上司でマスターだ、話なら上司としてくれると助かる」


 彼は他の幹部連中とは少し違う、穏やかな話し方の中に、俺達を冷静に観察しているといった感じだ。一応お膳立てはした、後はマスター次第だ。


「マスター? 変わった名前に奇妙な服装のふたりか、まあいい。ではさっそくだが、タバリオンのボスとパンドーラの女たち、どちらを助けたい?」

「これはまたおかしなことを訊く、我らは君たちに用があって来たのだがね」

「私たちにだと?」

「惚けてもらっては困る、佐伯と人形の件だ」


 マスターが佐伯の名前を出した途端、周りの部下から失笑が漏れた。


「フッ、なるほど、くだらない傀儡(くぐつ)のために死んだ男か――つまり私たちを殺しに来た、だから人質は関係ない、大人しく従ったのは情報を得るため、そういうことか。では交渉の余地すらないということだな?」


 この二階堂という男、この短時間でマスターの真意を突く応えを返した。ここまでの流れでマスターが狩りに出てもおかしくないだろう、しかしながら人質の居場所も聞かないまま終わらせるとは思えない。マスターはどうするのか――


「ククッ、実に面白い、敵にしておくには勿体ない男だ。二階堂くんといったか、察するに、君はビジネスとしてこの件に関わっている、違うか?」


 ビジネス?

 そういえば会社を設立する話があった。ならこの二階堂が佐伯を脅迫したことになるが、果たしてどう応えるだろうか。


「これはこれは、交渉の余地を頂けるということでいいんだな? 察しの通り私の部署はビジネスを主に担当していてね、佐伯をハントしたのは私なんだが、ボスが他の幹部連中に任せたが為に事態は悪化、貴重な人材と時間が無駄になってしまった」

「では佐伯を殺したのはボスの指示か?」

「さあ、私は手違いだと報告を受けているが、脅迫だの殺しだのと野蛮な奴らのすること、当然の結果だ。ボスも何を考えているのやら……言っておくが、佐伯とは正当なハントだった」


 二階堂は佐伯と合意の上でハントを成立させたが、他の幹部が傀儡を理由に脅迫した。

 二階堂は他の幹部と自分は違うと言いたいのだろうが、大河の若僧を傷つけた以上、二階堂も同じ穴の(むじな)だ。あの行為にわけでもあるのか。


 俺は堪らず口を出す――


「そうは言うが、タバリオンの連中を大怪我させたお前も、野蛮な奴と言わざるを得ないがな」

「それを私にいうのはお門違いだ、この件に最初から関わっているのは大河くんだからね」

「大河()()だと?」


 タバリオンのボスを親しげに呼ぶ二階堂と大河の関係とはいったい――

 


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