24話 警告
運転を夜上に任せ、倉庫街へ向かった。賑わうレンガ倉庫を横目に、大河の貸倉庫で車は止まった。
俺は素朴な疑問を夜上に尋ねた。
「夜上さん、あのレンガ倉庫はタバリオンの所有物ですか?」
「ご冗談を、ああ私に敬語は無用です。あの倉庫は市の所有物で、入っている店舗ごとにオーナーが違います。ボスの大河はその一店舗のオーナーです」
「ふ〜ん、ならあの変わった衣装は店の作業服みたいなものか。あ、敬語はなしで」
「では遠慮なく。店ではボーガンの絵が描いてあるお揃いのTシャツで、普段というか、貸倉庫では海賊スタイルにバンダナを頭に巻いている」
あの時は店の準備中だったってことか、だから俺らが現れて驚いた。しかし、なぜ敢えて目立つ服装にしたんだろう、縄張りを主張するためなんだろうが、もしかして相当なマニアックだったりして。
それはそうと、夜上はタバリオンについて詳しいようだ。なら大河の個人的な情報も調べてあるかもしれない。
そこへ、窓から外を眺めていた奈來が口を開く。
「妙だなぁ、大河の店だけシャッターが閉まっていた、それに、この辺りは奴の縄張りだ、仲間がうろついていてもおかしくないんだが……」
夜上が言う。
「おい、別の奴らならうろついてるぞ、しかも手にバールを持った回収屋だ、こりゃ只事じゃないな」
そう言って夜上は車から降りた。俺達も夜上の後に続く。
倉庫に近づくと、黒帽子の男達が一斉にバイクで逃げ去った。夜上が走って倉庫の中を覗くと、一瞬立ち止まり、そして中へと足を踏み入れた。
俺達も中を覗くと、タバリオンの若僧達が血まみれで倒れていた。しかしその中に大河の姿はない。
とにかくと、俺は駆け寄り生死を確認する。
「おい! しっかりしろ!」
「……あ、あんた……は……グフッ!」
どうやら生きてはいるが、骨が折れて動ける状態ではない。奈來もこの状況に警告を鳴らす――
「夜上、救急車と警察に連絡だ」
「ああ、いま連絡したよ、しかし酷いことを……」
組織が俺達より早く手を打ってきた、だが痛めつけるだけで殺してはいない、それに、何かを待っていたかのような素振り、しかも大河の留守中にだ。これは大河への警告なのだろうか、それはない、既に皆殺しにする予定だったんだ。
だとすると……。
「リュカよ、お前も気づいたと思うが、これは我らへの警告だ。相手は大河の背後に誰かがいると悟ったのだろう、敵も馬鹿ではないらしい」
「――誘っているということか」
「おそらくな。何か言い残しているかもしれん」
「わかった――おい、奴らは何か言ってなかったか、大河はどこへ行った?」
苦痛に顔を歪ませながら若僧が応える。
「……と、突然やって来て……ボ、ボスを連れて……女たちが……どう……とかって……」
大河は連れ去られた、女達といえば女盗賊団のことだろうか、俺にはそれしか思い当たらない。
なら女盗賊団の住処である校舎に大河はいる。
「マスター、森林の近くにある廃墟の校舎かも」
「あの森林か、ではラパよ、違う意味で出番だ、彼らを治してやってくれ」
「了解なのだ、治癒魔法なのだ」
ラパは言ってフードから飛び出し、呪文を唱える。
「精霊の名の下に《状態回復」
幻想的な青白い光の粒が辺り一面に降り注ぎ、若僧達の身体に舞い降りると、裂けた傷や折れた骨が元の状態に戻っていく。
俺は思わず、「ラパにこんな力が……」と言うと、マスターが「ラパを何だと思っている」と返されてしまった。そりゃあ精霊のエネルギー体で妖精だけど、怠け者のモフモフ猫でしたからね、驚くのは当然だと思うけど。
ラパが派遣されたのは、俺に不味いキノコを与えるためだけじゃなく、治癒魔法が使えるからなんだろう、いざという時の備え的な。
ということはだよ、ちょっとばかしお偉いさんを盾にしてもラパが居れば大丈夫なのでは?
やるじゃないか裁判神よ、ちょっと見直した。
なので、俺より驚いているお偉いふたりにラパを護らせよう、そうしよう。
「奈來に夜上、俺たちは『パンドーラ』のところへ行ってくる、ラパを頼んだよ」
「良し、了解した。ラパは絶対に俺らが守る」
奈來もラパの重要性を理解したようだ、隣りで夜上も大きく頷く。
「ああそれと、レオンとミライのこともよろしく」
「ハァ、わかったよ、説明しておく」
そしてラパにも――
「ラパくん、奈來が守ってくれるから、絶対にポケットで大人しくしてるんだよ」
「わかったのだ、奈來ちん、よろしくなのだ!」
マスターは朱鬼に――
「朱鬼よ、奈來くんと夜上くんを頼んだよ」
「お任せを、おふたりは僕がお守りいたします」
こちらの護りは固めた、俺とマスターは倉庫を出て《霧》を開く。
「《ホロウ》」『承認』――
「《ナイト》」『承認』――
目的地の森林で《霧》が開く。
俺とマスターが木々を足場に校舎へ向かう途中、バイクで逃げ去った黒帽子の男達が走り抜けた。
それを見たマスターが言う――
「リュカよ、我らは正々堂々と正面から行こう」
そう言ってマスターは地に降りた。何か策でもあるのだろうか――




