23話 マスターの戦略
新たな仲間が加わった、たがまだ問題は山積みだ、山が崩れる前にこの場はさっさと終わらせよう。
「では夜上さん、見張りですが、手出しは一切無用です、危険を感じたらすぐに引いてください」
俺が話し掛けると、ようやく正気を取り戻したようで、質問で応える。
「それはどういうことですか?」
「警察も知っていると思いますが、『漆黒のイントルーダー』という組織がラストタバリオンを襲う可能性があります。なので見せかけの見張りをお願いしたいのです」
夜上は言われたことを頭の中で整理しているのか、こめかみに指を置いて考えている。
「え、ええっと、つまり、警察がうろついているとアピールすればいいってことですね?」
「その通りです。くれぐれも部下に悟られないよう、指示は夜上さんにお任せします」
「ハァ、一世一代の大役を任された気分だ……」
そこへ、性懲りも無くモフモフが顔を出した。
「ねえリュカちん、ラパもウロウロしたい」
「ハァァ……今お話し中なんだけどね」
「ええー、ラパもお話する……あ、お前は誰だ!」
「なっ…………!」
お前こそ何者だ、妖怪か宇宙人か、という顔をして眼を見開く夜上。一番の問題がラパだったか、ここはもう適当に済ませよう。
「紹介します、ラパです、いちおう妖精です、人形でもパフォーマンスでもないので、あしからず」
夜上は引き気味に俺を見て言う。
「今度は妖精ですか、ハァ……もうなんでもアリということで、私は夜上です、よろしく」
「夜上ちん、よろしくなのだー!」
夜上はもう順応したらしい。まあこれで、俺達が異界の存在であることが証明されたのではないか。
そんなラパを見て、横で愛しのマスターがニヤリと笑い、何やら悪巧みを考えている様子。怪しさ満載である。
「良い機会だ、なあラパよ、朱鬼をボディーガードに倉庫街をウロウロしてみたらどうだ? もちろん我らも表舞台に出る」
俺達が表舞台ということはつまり――
「マスター、それってもしかして、俺たちを標的にするってことか?」
「うんそうだ、なにも戦うだけが脳じゃない。確か敵は人形が狙いだったな、なら我らが人形を売る立場になればいい。ちょうど倉庫もあることだし、奴らと手を組めば敵の目的もわかる、一石二鳥だ」
なるほど、その手があったか。女盗賊団の真似をする、そしてラパを使って誘導する。でもそう上手くいくだろうか、人形はどこで調達するのか――
「マスター、上手い手だけど、人形はどうするんだ? ラパだけじゃ物足りないだろ」
「それなんだがな、朱鬼よ、佐伯家の墓の他に回収したフィギュアはどのくらいあったかな?」
「はい、墓には大小あわせて5体、寺に保管されていた物が20体です。全て奈來さんにお願いして軍警の保管庫にあります」
佐伯のフィギュアが25体か、まあそれだけあれば十分だろう。
そこへ、夜上がふたりの会話に割って入った。
「ちょ、ちょっと待ってください、佐伯ってあの爆破事件で亡くなった佐伯匡孝のことですよね? え、じゃあ皆さんは爆破事件を捜査されてるんですか? 軍警ってことは奈來も……」
「ん? 夜上くんには見張り役をお願いしただけで、それ以上は求めていないが、なあ奈來くん」
「ハハ、そうですね……お気遣い感謝します」
これはちょっと予想外の展開だ。夜上は佐伯の名前に反応し、俺達が爆破事件に関与してると思った。でもマスターは敢えて突っぱねた。奈來と夜上を思ってのことなんだろうが、素直に事件には関わるなと言えばいいのに、マスターらしいやり方だ。
とはいえ、夜上のあの食い付き様だと、関わってきそうな予感大だけどね。
それはさておき、倉庫街といえば大河の問題が残っている。呼び出しはガレージの一件だろう、あれこれ追求されるのは面倒だが、ミライのこともある、ケンカを売られるか矢が飛んでくるかは微妙なところだ。ついでに大河が第三者候補かどうかいろいろ探りを入れてみよう。
そういえば、盗賊団の女達はリーダーを失ってどうしているだろうか、まあもう会うことはないだろう、たぶん。
さっそくマスターが動き出す――
「では奈來くん、フィギュアのほうは頼んだよ」
「わかりました、レオンに運ばせましょう」
「ああ、ミライも連れて来るように言ってくれ」
「ミライもですか? 何か考えがお有りで?」
「ミライはこれから役に立つ、今はそれだけよ」
奈來はマスターの謎掛けに少し首を傾げて考えるも、それよりと、携帯電話を取り出しレオンに電話をかける。
俺はマスターの言った意味が何となくわかる。ミライは人形に憑依した傀儡と共存している状態だ、
人形、あるいは霊的なものと共鳴できるのではないか、俺が亡者の声が聞こえるのと同じように。
マスターが何を考えているか未だはかり知れないが――
「話しは以上、作戦実行は今日の夕刻だ。我々はこのまま倉庫街へ向かうが、夜上くんは準備があるだろうからここで。見張りをよろしく頼む」
「――はい」
納得のいかない顔で返事をする夜上。事情を知らない夜上からしたら、除け者にされた気分に違いない。なら文句のひとつやふたつ、俺らにぶつけてくれたら受け止めてやるのに……そう簡単な話しではいのかもしれないが――
夜上が軍警の車から降りるとき、奈來が硬い表情でマスターに言う。
「死神様、配慮して頂いたこと、とても有難く思います。しかしながら、運命共同体と言ってくれた夜上を、この件から外したくありません。どうかこいつも捜査に加えてやってください、お願いします」
奈來の切望に、マスターは高らかに笑う。
「クハハハッ! 奈來くんの口からその言葉が出るのを待っていたぞ。軍警に公安、力強い戦力だ、だが危険を伴う任務だ、夜上くん、覚悟はあるか?」
「はい。奈來共々、既に命を賭けております」
「そうだったな、では一緒に行くとしよう」
マスターはいつからこんな小芝居をするようになったのか、意図的か、戦略か、俺としては守る対象が増えてうんざりなんだが、やれやれだ――




